1ー9
1年ぶりに投稿します。
そしてまた暫く投稿出来そうにありません。
読んでくださる皆さま方にはご迷惑をおかけします。
大変申し訳ありません。
俺は目を擦り、歩いて来る二つの人影を見直して、疲れてるのかと目もとをマッサージした。
チラリと見ると、近づいて来るビヤ樽と……。俺は、ついに天を仰いで両手を上に掲げて叫んだ。
「うおぉぉぉーっ!」
まるで、ベトナム戦争を題材にした映画のワンシーンのように膝を着いて魂からの絶叫だった。
天よ。艱難辛苦を与えたまえ。なんて何時、願ったと言うんだ。俺は……俺はっ! 平凡だけど奥さんを貰い、普通に子供を二人か三人、授かり老後を孫達に囲まれ暮らしたいだけなのに。
それなのに、あんまりではないか。親の死目にも会わせず、長年勤めた会社から追い出し、小学生の思い出が詰まるこの場所で訳の分からない騒ぎに巻き込まれ。
天よ! お前は俺がそんなに嫌いか!?
俺があげた慟哭をどう受け取ったのか、紅眼《「あかめ」》の美女と二人の長い耳が特徴の白い肌の美少女、黒い肌の美少女は口喧嘩を止めて走り寄ってきた。
見るとビヤ樽のように包容感のある人影も隣の人影と共に慌てて近づいて来ている。
ビヤ樽の女の子はまだいい。ずんぐりむっくりではあっても、見かけない姿じゃない。しかし、その隣を走る……走れるんだ……石像、お前はダメだ。お前は肌も岩肌だし肌色も悪いし肌も荒れていそうだし触られると痛そうだし重量感タップリの足音だから潰されそうだし! だから近づくなあっ!
案の定、走ってきた石像は足を滑らせて前転2回で俺の前に転がり込む。
「ハラホロヒレハレ~。」
クランクランと頭を揺らす石像は、幸いにも足を前に投げ出した状態で止まったから、動きの鈍い俺が逃げなくても良かったが、そんな情けない声をあげて……ってか石像がしゃべったぁ? しかも意外に可愛い声だ。いや、石像が動くんだから声ぐらいあげるもんなのか?
ハラホロヒレハレーってのは俺が言いたいわっ!
「ちゃらららら~ら、ちゃらちゃらら。」
もう、どう言えば良いのか分からなくて混乱する俺に気の抜けるメロディーが届いた。
音源は……紙が束になっているだけのはずの”DESU“ノート。ノートのページの1枚が光り、多分、そこから明らかに電子音なちゃらららら~ら……が出ている。
だから、ノートである理由を教えてくれ……。
ツッコミ疲れたよ、パトラッシュ……。我ながら意味不明な事を考えながら周りにいるナニかを無視して、ていうか現実を見たくなくてノートを開いた。
そこには
”侵入者が死亡しました。“
簡潔な言葉がノートの真ん中辺りに書かれていた。
侵入者……? 侵入者ってなんだっけ。言葉の意味が考えつかずボウッと思った。思って直ぐに、その侵入者を助けに来たのを思い出す。そして、侵入者、とは。
俺の周りにいる美少女や美女の事ではないのは確かだ。生きているかどうかは分からないが、見た目は元気に動いているから。自然、目は少し離れた所で地面に寝かせられている女子高生に向けられる。
制服は汚れ破れていて一部とは言わずかなりの部分がはだけていた。虚ろに空を見上げた瞳は開ききって瞬き一つしない。ダラッと投げ出された四肢は力無く広げられたままピクッともしていなかった。
「女子高生が小学校跡地で亡くなりました。女子高生の傍には40代の男が立っており、よく分からないが気がついたら死んでいた、等と供述しており、警察は援交目的からの暴行により死亡した可能性があると起訴する構えです。」
ローカルテレビ局の唇の色が悪い眼鏡のキャストが淡々と読み上げる俺の罪状が見えた気がした。
……嘘だろ。俺、まだ落ちるのかよ。
不幸は底無しでやってくる。
ガクッと肩を落とす俺に、ノートは救いの言葉を写した。
今なら生き返ります。
YES/NO
その文字の下には数字の10が。
9になり。
8に減り
7、6、5。
「てか、格ゲーかよっ!」
ノートには、今倒れている女子高生に似た4頭身の女の子が頭の上に黄色いヒヨコを飛ばしてフラフラしている姿が書かれていた。
「だから、ノートである理由が無いだろ! なんでタッチパネルなんだよっなんで書かれた事が自動更新になるんだよっなんでタップしてドラッグできんだよっノートが光るか? 音が鳴るか? なんなんだよっ! 責任者出てこいっ!」
「主様よ。良いのかや? 時間が無さそうじゃが。」
俺が許容範囲を越えた理不尽に叫ぶと紅眼の美女は俺の肩に滑らかな手を落としノートを指さした。ノートにはTHREEの文字が赤く書かれていて
「さっきまで数字だったろうが! なんで英語になってんだよっ! ああ、YESだよっこれしかないだろがっ!」
なんか、見るものすべてが敵に見えてきた俺はバシバシとノートのYESの所を叩き
「コンティニューしました。」
ノートから、まるでコインが入れられたような音がして文字が浮き出る。
「言っちゃったよっ! コンティニュー言っちゃったよっ! てか今の金入れたみたいな音ってなんだ?」
ウガアーと叫んだが急に力が抜けた。またもガクリと肩を落とす俺は
「頼む……頼むから、俺に何が起こっているのか説明してくれ。」
泣きながら呟いた。正直何が起こっているのか分からないまま、よく分からない何がが進むっていうのがかなりのストレスなんだ……。
「僭越ながら妾が説明しようぞ?」
微笑んだ美女が突然消えた。代わりに出たのは白い肌の美少女。銀髪の少女が青い瞳を俺に向けて
「ここは私が説明するわ!」
人さし指を立てて説明しかけ。
「ずるいっ。私がするっ。」
今度は黒い肌の美少女が金髪を翻して割って入ってきた。澄んだアンバーの瞳は、まっすぐ俺を見て……いたが不意に喉元を腕で覆われ苦しげに呻いた。
「お主たち。ち、と騒ぎすぎじゃな? 年長者としてお灸を据えんとなあ?」
片腕は黒い肌の少女の首を締め上げ、片手は白い肌の少女の顔をアイアンクローで締め上げる美女に先程までの余裕は感じられない。暴れる二人をギリギリと締め上げていたが
ゴウンッ!
地震かと思う凄まじい揺れに動きを停めた。
「いい加減にしなっ! 親方に失礼だと思わないのかいっ!」
ビヤ樽さんが巨大な鉄鎚を地面に叩きつけた姿で俺達を睨む。
「いいかい? これから説明が終わるまで動くんじゃないよ? 動いたら……分かるね?」
その迫力に俺達全員が頷いたのは言うまでもない。