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先々週は打ち込み途中で投稿してしまい申し訳ありませんでした。
打ち直し投稿し直しましたのでご報告致します。
小学校から逃げて三日がたち、俺が叫びながら走った、あの事が地元ラジオ局のローカルニュースで飼い犬がいなくなった話、女子高生が行方不明になった話、小学校跡地に刃物を持った不審者の話と共に取り上げられていた。
テレビ無い、ネット無い、スマホタブレットPCなんにも無い情弱な俺としては動画が流れていない事を祈るのみである。
意外とお昼の三十分から一時間のニュースの話題だけでやっていけるもんですよ?
習慣になったお昼のラジオを聞きながら俺は三日前から悩んでいた。
小学校の事じゃない。元小学校の俺の元クラスの学級図書。そう、俺はあの日逃げる際、無意識に持っていた本を持ち逃げしていたのだ。その本は今、居間のちゃぶ台に置かれている訳だが。
ハッキリ言って犯罪である。四十も半ばの、この俺が会社を解雇になった翌日に、母校の元学校から一冊の本を盗んだ。
警察屋さん出動である。
“こういう人だからクビになるんです”
まだ見ぬワイドショーのパーソナリティーの言葉が脳裏に響く。
「違う。俺はっ。」
想像でしかないのに、あまりにも有り得る話に思わず叫んだ。だが、否定をしようとしても現物がここにあるのだから否定しきれない。
“犯人はそういうつもりじゃなかったって言うんですよね”
これは想像だろうか? 未来に実際起きた事じゃなからろうか。脳裏に俺を引き裂くかのような言葉が浮かんでは消え浮かんでは消え浮かんでは消え。
ジッとちゃぶ台の本を見る。
分かってる。分かってはいるんだ。管理人がいたら事情を話して、いなければそのままクラスに返せばいい。ただ、不気味な思いをした俺が彼処に行きたく無いって思っただけだ。
一昨日の俺は昨日の俺に託し昨日の俺は今日の俺に任せた。このままだと明日の俺に本を回す事になりそうだ。そしてそれを人は責任を放り投げると書いて放任と呼ぶ。
「やっぱり、もう一度行くしかないな。」
今はまだ昼を回ったばかり。
すぐ行けばすぐ帰ってこれるさ。
この間の事は無かった事にしてさっさと行こう。
ちゃぶ台の上の本を持ち上げた。何故か昔、俺が汚したのと同じ汚れ方をした本。その本を持つと本の間から一冊のノートが落ちた。ごく普通の厚さの少し小さめのB5ぐらいのノート。教室で本をめくった時にも、ちゃぶ台の上に置かれていた三日間にもB4程の本に挟まっているのが分からなかったノートは今、本を持ち上げる時に初めからあったかのように本の間から落ちてきた。
俺はこの一冊の本に何時まで振り回されるんだ。だんだん怒りがわいてきたぞ。
落ちたノートは小学校の時に使っていた“学習帳”にそっくりだった。イライラしていた俺はむんずと掴み……また固まった。この本は何処まで俺を追いつめるのだろう。
俺の小学校の知り合いの名前を書かれた本から落ちたノートは俺の名前が書かれていた。
学習帳と書かれたノートには俺の名前が書かれていたが、このノートのお世話になっていたのは三十数年は昔である。いかにも真新しいノートは、とてもそんなに年数がたっているようには見えない。したがって俺のノートでは無い。
不思議な事が続いて面倒になりつつある俺は、ため息をつきながら新しい悩み事を拾うと中身を確認した。
表紙を開いた一ページ目、そこに汚い筆跡で書かれたのは“DESUノート”という文字で……目頭をもんだ。
俺が小学生の頃は英語という学科は無かった。英語は中学生になってから学ぶもので、アルファベットを筆記体を書けると驚かれた時代である。今ほど英語が生活にとけこんでいなかったから、とあるラジオ番組で『英語で一の事をONEと言います。では英語で十の事をなんと言うでしょうか。……答はONEONE……です。では百はどうでしょうか? はい、百回言えば良いのです。それでは、みなさん、ご一緒に。ONE……。』といった放送をした。明らかに冗談なのだが、それを聞いた当時の担任は真面目な顔で
「将来役に立つから覚えなさい。」
と言っていた。流石に百回繰り返すの辺りで気づいたらしく顔を赤くしていたが、俺がいた小学生の頃とは、そんな感じであった。今の小学生が聞いたら嗤う処か泣くかもしれない。時代の流れは残酷である。小学校の入学時期を一年下げるとか、小中の区別を無して教える方も教わる方も自由な時間を持たせた教育現場を創ればいいんじゃ無いのか? いや、むしろ教える事が増えているのだからそうするべきだと思うのだが。
それはさておき、そんな当時の俺がローマ字呼びでアルファベットを綴るなんて事を出来る筈が無い。ましてや、俺みたいに情弱であっても知っているほど有名な漫画のパクりなんて。本家の漫画が連載されたのは、俺が小学生だったそんな昔の事じゃない。
イヤ、ホント、メンドウ。
考えるのが嫌になった俺はページをめくる。
最初に、
十個の約束事。
と書かれ、少し間が空き
このノートがあった敷地は、このノートの持主の領地デス。
ノートの持主は領主となり領地を営み育む事が生業となるのデス。
領地から領民が出るのは出来ないデス。
領民は領主に税を納めなくてはならないのデス。
領主は領民を豊かにしなくてはならないのデス。
領主は領地があるかぎり自分が考える最強の自分になるのデス。
領地は領主がいるかぎり成長していくデス。
領主は領民のリーダーを決める事で領地をより効果的に発展させれるのデス。
領地の設定変更及び質問は、このノートを介しておこなわれるのデス。
その他免責事項があるのデス。
読み終えた俺はうん、うん、と頷いて分かったふりをする。
そっかぁ。デスって死を意味するDETHじゃないのかぁ。日本語の助動詞の“です”かぁ。ローマ字だもんなぁ、うん、うん、気づかなかったオイチャンが悪かったよ。イヤ~、ハッハッハ。
って分かるかっ!
ノートを壁に投げつけた。間違いなき八つ当り。
もう、決定的だと思った。俺は子供の悪戯に振り回され三日間も悩んでいたのだ。
ふ、ざ、け、る、なっ!
この時、俺は小学校での不思議な事を忘れ苛立ちの全てを足にこめノートを踏み潰そうとして。
また、理不尽な不思議が起こり泣きそうになりながらうずくまった。両足を折り畳んで両手で作った輪の中に入れる。所謂体育座りを発展させて尻を支点に両足を持ち上げ前後に体を揺らしながらバランスをとる。
ルール~ルル~。
俺のHPはMPと共に0よ。
理不尽な不思議な事。それはノートが光りながら文字を映し出した事である。
尻が痛くなり体育座りを止めた頃、ようやくノートの発光が終わった。俺はため息をつき、見ようかどうしようか悩みながら結局、ノートを見てみた。
ノートに書かれていたのは。
ノートが開かれました。インフォメーション機能が拡張されます。
ノートの所有者が決まりました。領地を拡張します。
領地が拡張されました。領民の種類が増えました。
領民の数が一定数以上になりました。領民が拡張されます。
領地が拡張されました。領民の種類が増えました。
以下しばらく同じメッセージが続き
領地に未設定の存在があります。削除しますか? YES or NO
と最後に書かれていた。まるでゲームのような選択にゲーム機のコントローラを持った気分になったが、俺が持っているのは紙のノートである。YESもNOもどう選べばいいのか……。試しにYESに指を当てると、
はい が選択されました。未設定の存在は人間ですがよろしいですか? YES or NO
と下の行にまた出てくる。またYESに指を当てると、
削除すると元には戻せません。本当によろしいですか? YES or NO
と確認画面のようにまた出てくる。ここでNOを選んでみた。
削除をやめました。再度削除をする場合は削除と記入して削除対象を選んでください。
また、下の行に文字が浮き出てくる。
……これは紙のノートじゃなくてはいけなかったのか。スマホやパソコンじゃ駄目だったのか、もし担当者がいたら膝を付き合わせて話し合いたい。
馬鹿げた事も突き抜ければ真面目な事になる。俺には何も理解できない。理解できないが、そういう物だと納得はできる。丁度、仕事に使っているパソコンが何故、そう動くのか分からずともパソコンを使えるように。
理不尽で不思議な事に負けただけとも言う。
OK、そういう物ならそれでいい。俺はかかわり合いにならないだけだ。
心に決め、ノートをごみ箱に捨てようとした時、また光った。まるで俺の心をよんだように。そして、光るという事はまたログが記入された訳だ。俺は天井を見て、カクンと頭を戻し深くため息をはいた。
見ない、選択肢はあるが……仕事を辞めた俺には時間が余るほどある。このノートにいいようにやられている悔しさみたいなものはあるが結局、好奇心と暇潰しという心の動きには対抗できず、ノートを開いてしまう。
未設定の存在は体調の悪化の為、倒れました。四時間程で死亡しますがどうしますか?