↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
廃校でダンジョン  作者: 空気鍋
3/17

1ー3

廃校になった第二太平小学校は学校の敷地《しきち》を緑色《みどりいろ》の金網フェンスで仕切られている。だが、校庭側にある二ヶ所の“裏門《うらもん》”と今、俺が立っている石の門柱《もんちゅう》がある正門《せいもん》は扉《とびら》が無くて出入りは自由にできる。“裏門”は一ヶ所は給食を配達するトラックが出入りする正規の“裏門”だが、もう一ヶ所はフェンスがいい具合に壊《こわ》れ大人でも出入りできる大きさの穴が開《あ》いただけの“裏門”だ。なんでも校庭の横を走る車が仕切りのフェンスに突っ込んだ為に出来た“穴”らしい。俺がここに通《かよ》っていた頃の話しだから、直されないまま何年たってんだよ、という状態になっている。

俺は通勤時間からずれた、朝でも昼でもない時間に廃校になった小学校の正門から敷地に入った。

梅雨《つゆ》明けの青空が子供の声のしない物悲《ものかな》しい佇《たたず》まいの小学校を照《て》らしている。風がプールの水を波立《なみた》たせているのか正門右横にあるプールからチャプチャプと音がして妙《みょう》に沁《し》みた。

正門から真《ま》っ直《す》ぐに進むと小さなロータリーがあって短く刈《か》られた芝生《しばふ》の真《ま》っ只中《ただなか》に背中に背負い子を持ち両手で石の本を掴《つか》む青銅の像、二宮金次郎像が石の台の上に立ち迎《むか》い入れてくれた。

小学生の頃、使っていた下足箱《げそくばこ》置き場はこの像の右に分かれ進んだ所にあり、先生方が使っていた玄関《げんかん》は左に分かれた所にある。校舎《こうしゃ》は大まかに言えばL字型となるのか。Lの長い部分に下足箱置き場と玄関が別れてあり先生方の玄関には車が二台か三台位しか置けない駐車場があった。校舎はL字型であったが校舎とつながっていないプールに行くためには一度、靴《くつ》を履《は》きかえ向かわないといけなかったしプール場に更衣室《こういしつ》が無かったから教室で着替えていくのだが、プールは男女同時だったから教室で着替える時は、なかなか着替えが終わらない女子と早く着替えて泳ぎたい男子の言い合いが恒例だった。

プール場とロータリーを挟んで反対側、正門に立っている俺からは左側にはちょっとした雑木林があって奥に木造の修練場がある。剣道や柔道の授業はこちらでしたのだが板張の床は夏でも冷たくて、こちらも校舎から離れているものだから真冬に授業がある場合は雪をかき分け向かった先で靴を脱いで入らなくてはならなかった。おまけに玄関が無いものだから扉を開けて板張の床に敷《し》いてある毛布に靴を置き、をしている間に修練場に雪が入り雪を掃き出す為に扉を開けると雪が入ってきて、とループをした事もある。開ける度《たび》に冷たい風と雪が入ってくるのだから生徒だけじゃなく先生からも睨《にら》まれたっけ。

“美化清掃係(「綺麗好き」)”としては譲《ゆず》れなかったのです。

校舎はL字型をしているとは言ったが直接つながっていない建物もあるし一階はL字の裏側に“大体育館”がある。一階のL字型の短い部分から直接“大体育館”につながる渡り廊下があり、そこの真ん中辺りには昔の下足箱置き場を直した“集会場”が、“大体育館”と校舎の間には物置きを兼ねた広いなんに使うか分からないスペースがある。二階、三階はL字型になっているから一階だけが複雑になっているのだが、当然それには理由がある。

この学校、第二太平小学校と、もう少し町中《まちなか》にある第一太平小学校は建てられたのが明治時代。それから建て替えを何回かして、この形になった。“修練場”も“集会場”もその名残《なご》りで、プール場が離れているのは小学校が建てられた頃は必要無かった事と必要になっても場所の確保が上手くいかなかったから、らしい。

俺は少し考えて小学生の頃、使っていた下足箱置き場から校舎に入ろうと思いガラス戸を開けた。ズラッとならぶ木製の下足箱はまだ綺麗で廊下にも埃《ほこり》は見えない。向かって右は非常口のある突き止まりで突き止まりと下足箱置き場の間には階段、その向こう側にトイレがあった。左はまだ残っていた案内プレートを見ると保健室、家庭科室、職員室、校長室があって奥は折れ曲がって更に続いている。正面は大体育館に向かう物置きスペースがあって大体育館への扉は閉められていた。

俺はなんとなしに靴を脱いで、内履き(「スリッパ」)が見つからないので靴下《くつした》のまま入って職員室を見てみた。

陽射しを白い薄いカーテンで遮《さえぎ》った職員室は俺の記憶通り机が何個もならんでいる。机の上に無造作《むぞうさ》に置かれた紙の束《たば》は回収しなくてもいいのだろうか? どの机にも置かれた書類らしき紙は先生方がいれば違和感《いわかん》の無い日常《にちじょう》の光景なのだろうが、廃校になったのに埃の無い廊下を見てからだと違和感が半端無《はんぱな》い。

職員室から校長室へ移った俺は信じられないものを見た。何故かこの部屋だけ重厚《じゅうこう》な扉を開けると、そこは別世界と言って良さそうな“お金のかかってそうな”部屋が。

飴色《あめいろ》に使い込まれた木製の机や本棚、応接セット。よく優勝旗《ゆうしょうき》を入れている鑑賞棚《かんしょうたな》。床や壁や天井ですら手のかかっている。小学生の頃は一度も入った事が無かったが小学校にこんな世界が。校長室の奥に隣へ続く扉を見つけた俺は隣も見てみる。隣は1LDKといえばいいのか教室の半分ちょっと位の部屋にキチンと住む事が出来る設備か揃《そろ》っていた。無論《むろん》ここも到底《とうてい》小学校の中とは思えない高級感を前面に出した部屋になっていて更に奥に続く扉を開けると、どこの高級ホテルかと思うような洗面所。洗面所には扉が二つあって一つはトイレ。ウォッシュレットなのは勿論《もちろん》、ヒーテッド便座が付いていて驚いた事にトイレ用の小さなクーラーまで備え付けられていた。残る一つは磨《す》りガラスの扉で開けるとそこは風呂場だった。広い、風呂場だった。俺が住んでいるアパートの部屋一つ分はありそうな広い風呂場だった…………。

フラフラと校長室を出た俺は校舎の屋上、四階に行く事にした。あの校長室は反則にも程《ほど》がある。確かに一階にあり、校長室の窓越しに見える小さな中庭は鬱蒼《うっそう》として眺《なが》めが良いとは言えないが高級ホテルのロイヤルスイートと見間違う部屋は高級感と上品がハイブリッド(「よく混ざって」)している。庶民《しょみん》な俺が当《あ》てられるくらい。

L字型の校舎の角《かど》になった場所が屋上まで伸びる唯一《ゆいいつ》の階段だ。校舎の端にも階段はあるが三階までしかない。

昔は常《つね》に鍵がかかっていた扉は俺がノブを掴《つか》むと軽い軋《きし》み音と共に開《ひら》いた。短い廊下の先にある屋上への扉を開けると初めて見る屋上と風景が。もうすぐ夏になる強い日の光が降り注ぐ中、屋上は掃除をしたばかりのように汚れが見つからない。つい最近に業者でも入ったのだろうか? しかしそのわりに確かに汚くは無かったが職員室は雑然《ざつぜん》としていた。

なんとなく引っかかるモノを感じながら屋上からの景色を見る。

変わってない。

そう、思った。

小学校の周《まわ》りの住宅《じゅうたく》や商店は変わってしまったが、この学校は時が止まったように変わっていない。雑草《ざっそう》が生《お》い茂《しげ》る小山も校庭を囲《かこ》む桜の木もフェンスが裂《さ》けた“裏門”も、ここからは一望《いちぼう》できた。


「本当に変わらない。」


つい、口に出てしまう。

独《ひと》り言《ごと》は淋《さび》しいからしないようにしていたのに。

胸のポケットからタバコを取りだし火を着けようとして、ここが小学校なのを思い出した。仕方無くタバコを仕舞いウッと背中を伸ばした。小学生の頃は朝にラジオ体操をしてから授業が始まっていた。それを思い出して体操をしようとしたが動きを忘れてぎこちない体操になってしまった。


「三十年は昔だものな。小学生の頃だけしかやってないし、そりゃ忘れて出来ないわな。」


結局《けっきょく》、最期まで出来ずに体操は終わってしまう。三十年の時は残酷《ざんこく》といったところか。


「同じ時期に建てられた三中だってこの間建て直しになって全然違う校舎になっているのにな。」


地域《ちいき》で三つ(みっつ)目に建てられた中学校だから第三中学校、略《りゃく》して“三中”。この学校も戦前《せんぜん》からある学校で戦時中は戦時病院として使われていた歴史有る学校だったが、木造の校舎は流石《さすが》に痛みが激《はげ》しくコンクリートで作られた風情《ふぜい》の欠片《かけら》もない校舎に変わってしまった。

あんな校舎で“情緒《じょうちょ》”とやらが育つもんかね?

俺はそんな事を考えて。

先程《さきほど》の“引っかかり”を、また感じて。

自分の“考え”の中に微《かす》かな、しかし無視《むし》できない違和感を感じて。

もう一度、屋上から校舎を見渡した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。