表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/44

40.夜闇

このまま自宅まで走ってくれと告げると、ガタゴトと山道を走っていたタクシーが停止した。


「お客さん、冗談はやめてくださいよ。いくらかかると思ってるんですか!?」

「冗談は言ってないし、いくらかかったってかまわない」


落ち着いた声で返されて、驚いた運転手は、思わず背後を振り返った。

眼鏡をかけた少年と、その膝に頭を載せてこんこんと眠り続ける少女。

田舎の村では、滅多に目にすることのできない美貌の二人を見比べながら、白髪頭の運転手は困惑顔で頭をかいた。


「あの人はどうしたんです? 教会にいたでしょう? ほら、このお嬢さんの・・・」


何気なく少女を指差した途端、少年の切れ長の目が険しくなった。

あわてて言葉を飲み込んだ男は、逃げるように前に向き直った。


余計な詮索などしないで、淡々と仕事をこなすことは簡単だが、少年に抱きかかえられて運ばれてきたのは、他ならぬ自分が駅からここまで乗せてきた「お客さん」だった。


この不景気の中、長距離を移動してくれること自体は歓迎だ。

だが、こんなに車が揺れているのに、少女はどうして目を覚まさない?

混乱した頭で車を発進させながら、男は昼間見た光景を思い出していた。


少女は墓参りに行くと言っていた。

今日は両親の命日で、教会で兄と会うことになっているのだと。


教会の隅に一台に車が停まっていた。

少女の兄だという青年は、墓地のある丘の上にいた。

黒いスーツ。

手には白い薔薇の花束。

教会の墓地に、これほどふさわしい姿はない。


最後にそっと振り返った時、丘を歩いていく二人の後姿が見えた。

自然に二人が寄り添う様を見て、わけもなくほっとしたのは、ほんの数時間前のことだ。


(あの青年はどうなったのだろう?)


全身に孤独をまといつかせたようなたたずまいは、若い頃に妻を亡くし、ずっと一人で生きてきた初老の男の目に今も焼きついたままだ。


(あの青年は・・・)

白い車は停まったままだったから、今も教会にいるはずだ。


外は真っ暗で、激しい雨が降っていた。

聞こえるのは、車のエンジン音と、車体を叩く雨の音だけ。


そっと視線を動かすと、バックミラーに映る少年は、唇を硬く引き結んだまま、睨むように窓の外を見つめていた。












評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ