21.ハレルヤ3
長く続く病院の廊下。
白い壁に定間隔に穿たれた四角い窓から、朝の光が差し込み始めた。
外を見ていた少年は、疲れた表情で目を伏せて、どこか苦しげに吐息をついた。
ガードレールを超えて転落した真紅のフェラーリは、崖の途中で一回転して5m下の草むらで停止した。
運転手は意識不明のまま病院に運び込まれ、廊下の突き当たりにある手術室の扉の向こうに消えたまま、一向に姿を現す気配がない。
助手席に座っていた少年は、車がガードレールを乗り越える直前に脱出したために、骨折した左腕を吊っていることを除けば、二本の足で問題なく廊下に立っている。
「運び込まれた先が、ヒー君とこの病院だなんてさ」
不満げに呟いた遥は、こんな時でも双子の姉のことを気にかけているに違いない。
真っ青な顔でさっきまでここにいた少女は、倒れる直前に幼馴染の少年に抱きかかえられ、ここではないどこかへ連れ去られてしまった。
一番近くにいたのに、動かぬ左腕のせいで、遥は真琴を支えることができなかった。
ここにいる間中、震える少女の指先は、弟が羽織ったシャツの裾をつかんでいた。
声を掛けることもなく、二人は互いに触れることもなく、それでいて、寒風に耐えるひな鳥のように寄り添って、無言で時を刻んでいたのだ。
「あなたが出て行くと言った途端、母さん、パニクっちゃってさ」
真琴がいる間、決して口にしなかった事故のいきさつを、遥はよどみなく語り終え、少し離れたところにたっている青年につかつかと歩み寄った。
「自分のせいで、女が一人死にかかっているのってどんな感じ? すごく愛されているんだね。平然としているところを見ると、あなたは母さんのこと、何とも思ってなかったみたいだけど?」
麗華は子供たちの前でさえ、華やかな女優の仮面を外したことがない。
母親に甘えたことも、母親に叱られたこともない。
それでも親子である限り、橘直己と母親の関係について、無関心のままでいることは許されない。
「あの方が愛しているのは私ではありません」
青年が口にしたのは、それだけだった。
淡々とした言葉には、いかなる感情も込められていなかった。




