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初めての勇者

 彼は大きな城で迷いながらも、倉庫につき、中で服や防具、武器、お金などを漁っていた。

 「・・・ん?」

 彼の目の前には、まるで着てくださいとばかりに服と武器が一式そろっていた。

 黒のシャツにフードの付いた白のコート、茶色のぶかぶかしているズボン、灰色の鱗が付いた靴、刃と銃が一緒になった武器が置いてあった。

 「見事にぴったり」

 彼の身長は170㎝いっているかぐらいで、高いとも低いとも言えなかったが文句のつけようのないくらいピッタリだった。

 着てみて分かったが、この服などはすべて魔物の素材で作られており一つ一つに魔物のスキルがこめられていた。例としてコートのフードは獣系ゾウ類の魔物ゾナルダの毛皮でできていた。


 獣系のゾウ類の魔物ゾナルダは『超聴覚』のスキルが使える。ゾナルダは聴覚が鋭く、危険な時は特殊な声をだし仲間のピンチにすぐに駆けつけてくる。そのためフード被ると超聴覚が自動で使える。ちなみに彼はケナルダに転生した時がある。


 「武器は重いからいらないけど、金貨は貰っていこう。」

 彼はズボンのポッケトに金貨をぎゅうぎゅうに詰めた。そして、彼がためしにフードを被ったその時、

 「お母さん、、、、お父さん、、、、、帰りたいよ。」

 彼のフードで強化された耳にたくさんの小さな声の中で少女の泣いている声が聞こえた。

 「泣いてる。」

 彼は透過と透明化を使用して、泣いてる声のする部屋を目指した。


 彼のたどり着いた部屋はとても広く、一目ですぐに豪華だとわかるぐらいの部屋だった。その部屋の中心にある大きなベットで、ちょっとくせっ毛の黒髪ロングの学生服を着た一人の少女が体育座りでうつむき泣いていた。

 「ねぇ?」

 彼は透過と透明化を解き、少女に話しかけた。少女は小さな体をビクッと震わせ、うるんだ瞳と真っ赤な顔で彼を見た。目が大きくまつ毛が長くキレイな顔だが、どこか幼いそんな顔をしていた。

 「あ、あなた誰ですか?城の人ですか?」

 少女は急いで涙をぬぐいながら言った。

 (観測眼)

 彼は観測眼を使用して、少女の過去を観測した。


 少女の名前は加護野(かごの) 小鳥(ことり)。年は17歳で日本で生まれ育った。高校であることによりいじめを受け不登校になっていた。しかし、親に心配かけたくないと高校二年生の初めての登校日で学校に行く途中、魔方陣に飲まれこの世界に召喚された。彼女は国王や周りから勇者といわれ、『魔族』から倒してほしいと頼まれた。断ることができず、彼女は魔族を倒す訓練を受けていたが日に日に体力的にも精神的にも辛くなり、最近は毎日泣いていた。


 『魔族』とは神人デネブ・アルファが『創造』したエルフや獣人の亜種だった。デネブ・アルファは『魔法』を創造し、エルフには現象系の魔法を獣人には強化系の魔法をためさせた。しかし、魔力に飲まれ強い魔力を持ったダークエルフや魔人が生まれた彼らを『魔族』と呼んだ。彼らは自分の力を過信しデネブ・アルファに反抗した。その結果、魔力の大半を自分の子孫まで永久に封印されるという魔法をデネブ・アルファかけられた。


 彼は勇者に、召喚に、魔族に考えることがたくさんあったが、今は小鳥をどうにかしようと彼女の方を見て言った。

 「初めまして小鳥。俺は・・・レイ」

 彼は自分に名前が決まってないことに気づき、とっさに先ほどのメイド達の記憶から名前を探し、名前の候補はライ、リン、ルイ、レイ、ロイ、五つあり彼は母レイナの名前から取ったレイを選んだ。自分の母親だからか一番しっくりきた。

 「私のこと知ってるんですか?」

 小鳥はまだ少し赤い顔を彼に見せないように、横を向いていった。

 「強いね。こんな状況なのに」

 レイはベットに腰を掛けながら小鳥を言った。

 そんなレイの言葉に小鳥はちょっとうずくまりながら口を開いた。

 「強くなんかないです。・・・・ずっと昔から」

 落ち込む小鳥にレイがそんなことないと首を振った。

 「んー、まずはここからでよ!」

 急すぎるレイの言葉に小鳥は困惑した。

 「ここから出るって、何を言って・・」

 「だって、勇者なんてしたくないでしょ?」

 「それは、、、、」

 小鳥はかなり困惑していた。ここから逃げ出したい気持ちはあるが、責任感が強い彼女は自分を勇者と慕ってくれる人々を裏切れなかった。

 「女の子に王国の命運、任せるのもどうかと思うけど?」

 「・・・・・・」

 小鳥は完全に俯き黙り込んでしまった。そんな、彼女にレイは「んー」とうなった後、口を開いた。

 「逃げて何が悪いの?逃げるのは別に悪いことじゃないでしょ?逃げて逃げて、そして最後に勝てればいいと思う。」

 (まぁ、俺が本当にそうだったし「逃げて」よりも「死んで」だったけど)

 レイの言葉に小鳥は「でも」と呟いたが、さきほどよりも表情が軽くなっていた。

 レイはベットから立ち上がり、小鳥に手を差し伸べ言った。

 「一緒に逃げよう」

 「・・・」

 小鳥は何かに導かれるようにゆっくりとレイの手を握った。

 「よし、行こう!!」

 「あっ///!」

 小鳥はレイにお姫様抱っこされすこし悲鳴をあげたが、物語のお姫様の様で少しドキッとした。

 そして、そのまま窓から飛び出し外に出た。


 外という空中に

 「あっ、落ちる」

 「キャーーーー」

 小鳥がいた部屋は城の中でも高いところだった、そのため二人はそのまま落ちた。

 (少し前までは鳥の魔物だったからなー『装風』)

 レイがスキルを使用すると彼のまわりに風が吹き宙に浮いた。


 『装風』とは精霊系ヒト型の魔物ウィードウィールが使うスキルだ。ウィードウィールはトドルクイナと同じく、神獣アルタイルベータが初めに生み出した魔物で風を自由に操るスキルを三つ持ち、装風はその名の通り風をまとうことができる。


 装風で空を飛ぶレイに驚きを隠せないでいた小鳥だったが、何かに気づいたように口をあけた。

 「それって、ウィードウィールが使う装風ですか!?」

 小鳥は一度見ただけでレイの使用したスキルを見破った。

 「よく知ってるね」

 レイはこの世界に来たばかりの、小鳥の知識に驚いた。

 「暇な時間は本ばかり読んでましたから。なぜ、そのスキルが使えるんですか?」

 「あとで教えるよ」

 レイはそういえば確かに小鳥の記憶を観測した時、本を読んでいたような気がすると思った。

 「まずは王国を出て、近くの森に隠れるから。大丈夫?」

 「はい!」

 レイは小鳥を抱いて王国の空を飛んで行った。


 日が沈むかかり、空が赤く染まったころ二人は森についた。

 「到着」

 レイはゆっくり抱っこしていた小鳥を降ろした。

 「ありがとうございました。・・・これからどうするんですか?」

 「まず、今日は休もう。明日の事は明日話す」

 そういってレイは近くの木に手を置きスキルを使用した。

 (成長調整、変形)

 そうすると木の枝が伸びて枝がぐるぐると互いに絡まっていき、木の上に四角い小さな部屋ができた。


 『変形』というスキルは植物系小型の魔物シルイクが使用するスキルだ。シルイクは小型の体を変形させ、その時に状況にあった姿になる。例えば、走るときは獣の姿、飛ぶときは鳥の姿のなる。


 レイは成長促進と変形を組み合わせて、木の上に小さな部屋を作り出した。その光景を小鳥は呆然と眺めていた。

 「どうしたの小鳥?早く入ってみてよ!自信作だよ!窓も階段もあるし」

 レイは早く早くと小鳥の背中を押して部屋の中に入れた。

 「すごい、キレイ!!レイさんすごいですよ!」

 小鳥は部屋の窓から眺める風景にはしゃいだ。

 その部屋の窓から眺める風景は絶景だった。夕日が大きくきれいに見え、鳥や魔物たちが空を飛び、木々が赤く染まっていた。

 小鳥が振り返るとレイは端っこで木の壁に手を置いていた。

 「風の通りがダメだなー。もう一つ窓を開けるか」

 レイはそんな絶景には目もくれず、一人ぶつぶつとつぶやいていた。

 「あのーレイさん。」

 「ん、なに?あ、やっぱり風通し良くないよね。」

 「いえ!大丈夫です。ありがとうございます。」

 「そっか!よかった。んじゃ、ちょっとまっててね。」

 小鳥の感想を聞いた後すぐにレイは部屋を出ていってしまった。

 「レイさーん。ちょっと待ってくださーい」

 「すぐに帰るよー」

 小鳥は窓から身を乗り出してレイに声をかけたが、レイは小鳥の手を振りながら森の中に入っていった。

 「はぁー」

 小鳥は部屋にゆっくり座りながら大きなため息をついた。

 「自由な人だなー」

 小鳥は昔から自由にあこがれていた。子供の時からたくさんの習い事で自由がなく、学校ではいじめられて自由に行動するができなかった。この世界に来た時もそうだった。いきなり、勇者として呼ばれ魔法や歴史などの勉強で一息つく暇もなかった。

 そんな小鳥だったからこそ、どこかつかめない不思議な雰囲気を持ったレイはどこかあこがれた。

 「それに、いままでの男の人と違う。」

 小鳥のこれまで出会ってきた男性は運が悪いのか、自分の事をつれだしたり、守ってくれるような男性はいなかった。自分を利用したり、ただの下心だったりで近寄ってくる男性ばかりだった。

 しかし、レイは勇者であった自分をおそれず連れ出してくれた。

 「かっこいいし、、、」

 レイは幼さが残る顔だったが成長すれば、かなりかっこよくなるとわかる容姿をしていた。

 「付き合うんだったら、、、あんな人と、、、、、、」

 小鳥は何かから解き放たれたような、安心した表情で眠りに落ちた。

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