046 孤児院訪問
爆炎が晴れ始め、その中から戦艦リステインが姿を現す。
その姿は、傷一つなく太陽の光を反射する白銀の船体のままだった。
「な・・・馬鹿な・・・」
「どうでしょう?お分かりいただけましたか?お希望でしたら、そちらの国王陛下に身をもって体験していただいても構わないのですが。」
「いえ、滅相もございません!」
「では、どうしましょうか?」
「一月後、リステイン王国の王城に再度検討した条文をお持ちいたします!」
「はい。そうしてください。ああ、一つだけ、国王陛下にお伝えください。そちらがその気なら、いつでもお相手すると。ああ、ですが、その際は勧告なしで王都を標的とさせていただきますので、ご理解ください。」
「必ずやお伝え致します!!」
サラの同意を得ると、顔を青くしたビクトリアは逃げるように港へ向かい、サンドラの木造艦隊と共に帰っていった。
「はぁ。一件落着か。リズ、ありがとう。」
『いえ、また、いつでもお呼び出しください。』
ちなみに、リズとは戦艦リステインの人格の名である。
一々戦艦リステインだと分かりにくいということでサラがつけたのだ。
「よし、約束通り、一旦王都に戻ってアリスに会いましょう。ボイド侯爵、今回はありがとうございました。クロエさん、王都までの護衛、お願いできますか?」
「はっ!もちろんでございます。」
「サラ様、また、いつでも我が侯爵領へお越しください。全力を持って歓迎させていただきます。」
「ありがとうございます。では、王都で特に何もなければ、またこちらに来ようと思います。」
「はい。お気をつけて。」
こうして、リステイン王国とサンドラ王国の戦争の危機は、武力による砲艦外交を更なる力でねじ伏せたリステイン王国・・・いや、サラの圧力によって回避された。
帰りは、一週間ほどかけて各地をほんの少し見回りながら王都まで着いた。
今回は、盗賊に襲われることもなかった。
当然である。
そんなにしょっちゅう盗賊に合っていては商人など生活していけない。
途中の寄り道については、また、別の機会に。
「クロエさん、王城へ戻る前に王都を見て回りたいのですが、出来れば大っぴらに身分を明かしたくありません。
最小限の護衛だけ連れて行かせてくれませんか?」
「わかりました。では、私とあと3名ほどが近くから、そのほかの者は少し遠めから護衛いたします。」
「お願いします。」
サラが向かったのは貧民街だ。
「サラ様、そちらは貧民街です。少々危険かと。」
「いえ、私は、ここをどうにかしたいと思っているので、まずは、実際の状態を知ることから始めなければ。」
「わかりました。ですが、絶対に私達から離れないでください。」
「はい。」
貧民街でも、比較的大通りに近い場所に位置している古い教会のような建物。
サラが用があった場所だ。
サラは、その建物の扉を叩く。
「はーい。」
建物から人の良さそうな女性が出てくる。そして、サラを視界に見つけるとしゃがみ、目線を合わせた。
「貴方は・・・孤児・・・でも無さそうね。どうしたのかしら?」
「すみません。サラと言います。少し、お話を聞かせていただけませんか?」
「ええ、ここでは何ですから、中へどうぞ。と言っても、何も用意出来なくてごめんなさいね。」
「いえ、おかまいなく。それで、何故このようなところに?」
「そんな、ここは孤児院ですよ?そんな土地を買えるだけとお金なんてありませんよ。」
「孤児院には、国から支給金が出ているはずでは?見たところ、建物もかなり傷んでいるようですが。」
「はい。ですが、孤児院はこの国に対してなにも利益は出しません。ですから、戦後の復興のためと言われればどうしようもありません。」
「そんな事が・・・でも、それならもうしばらく収入がないのでは?どうしているのですか?」
「商店街の余り物を格安で譲ってもらっています。あの子達の食べる分だけでも何とかと。」
おかしい。
孤児院や貧民街の様子を見に来たのは、サラがアリスにお願いして、国費の一部を子供たちの保護に回してもらっているはずだからだ。
国内に庶民向けの学校の建設と共に孤児や貧困に苦しむ子供への保護を始めたはずだった。
子供は国の未来を担う希望だ。
だから、貴族だけでなく、全ての子供たちに教育を受ける機会をと。
そして、その前に親をなくした孤児への援助を増やしたはずだった。
「黙っていて申し訳ありませんでした。私はサラ・リステインと言います。子供たちはこの国の未来を担うこの国の宝です。ですから、私は、彼らの保護に予算を使ったはずでした。ですが、どこかで行き違いがあったようです。直ぐに確認させます。」
「サラ様、ありがとうございます。あの子達のためにお願いします。」
「はい。それと、これは私からのお詫びと支給金分の一部です。手持ちがこれしかありませんので、今はこれで何か食べさせてあげてください。」
サラは大銀貨を5枚渡した。
本当は金貨ならな沢山あるが、警備を強化して少しは治安が良くなったが、それでも貧民街だ。
金貨なんて渡せばトラブルに巻き込まれるのは目に見えている。
大銀貨だって大金だ。孤児院の全員がしばらく十分に食べられるだけはある。
「それと、今度、全ての子供を対象とした学校を作ります。そして、その近くに寮を作ります。そこで、寮母をしていただけませんか?もちろん、ここの子達も全員学校と寮に入ってもらえます。」
「サラ様、ありがとうございます。その時は是非、お願いします。」
「こちらこそ、ありがとうございます。では、まずは、補助金についてまたお話に来ます。
それまで、あの子達をお願いします。」
考えられる可能性は二つ。
一つは、何か手違いや作業の遅れでまだ支給されていない可能性。
もう一つは、何者かが支給の過程で止めたという可能性だ。
サラは急ぎ王城へもどる。
「クロエさん、王城へ戻ります。」
「はい。」
城には警備兵がいる。
その警備兵の仕事は城を出入りする者の確認だ。
「身分証を。」
「はい。」
サラは王族としてのカードを差し出す。
「サラ様でしたか!申し訳ございません。どうぞ、お通りください。」
「ありがとう。ご苦労様です。彼らは皆私の護衛です。」
「はっ!ありがたきお言葉!護衛の方もお通りください。」
久しぶりの王城。家に帰ってきた様な安心感だ。
しかし、今は寛いでいる場合ではない。
子供たちのためのお金を着服している者がいるかも知れないのだ。
「アリス!ただいま!」
「ああ、おねぇ・・・・様、おかえりなさい。」
「アリス、突然で悪いんだけど、学校の件と孤児院の支給金はどうなった?」
「お姉様の考えです。最優先で進めています。支給金はもう既に支払われていると思います。」
「そう。ありがとう。支給金は誰が?」
「ノルベルク子爵にお願いしました。」
「ありがとう。あと少し待ってね。これが終わったら戻って来るから。」
「はい。お待ちしています。」
サラは、怒っている。
これは、決して許されることじゃない。
ノルベルク子爵本人か。その補佐官か。
「クロエさん、護衛、ありがとうございました。私の統括下の部隊であればどの舞台を使っても構いません。
子供たちのためのお金を奪った犯人を見つけ出してください。サラ・リステインの名において、第1級命令とします。」
「はっ!承知致しました。」
第1級命令。それは、発令者より上の者の直接命令がない限り、最優先される命令で、その命令書を持つ人物は、その命令に関してのみ一時的に命令の発令者と同じ権限を有するというものだ。
サラは怒ると怖いのだ。
いつも、読んでいただきありがとうございます。
もう少ししたら、落ち着いたほんわかした回も作る予定です。




