敵の正体
幸い家の中には侵入できなかったらしく盗まれた形跡も何もなかった。
「では、お昼ご飯を作ります」
そう言ってコンフィアンザは厨房へと姿を消した。
対するシルイトは昔自らが集めた裏社会の情報を記した紙を引っ張り出していた。
一時間後、コンフィアンザが作った昼食を食べ終えて食休みを終えた二人は居間に集合していた。
カーペットが敷いてある床の上に背の低い長机が置いてありその前にソファーが置いてある。
二人はそのソファーに座っている。
長机の上には昼食を食べるまでシルイトが見ていた資料が置かれていた。
その資料はシルイト自身がコンフィアンザを造る前に作成したもので、裏社会の様々な情報が記載されている。
「今日俺たちが会った奴らはアポストルズという組織に属している団員だ」
「アポストルズ・・ですか」
「そう。彼らは裏社会ではそこそこ古参なんだけどここ最近になって急に力づいてきた勢力だ。トップを別にして幹部は全員色分けされて管理されている。幹部になれない下っ端は色付けされることなく数字などを用いたコードで管理されているんだ」
「なるほど。だからゴールディアンは宿でコード持ちなんて言っていたんですね」
宿での一件のときゴールディアンはコード持ちは全員撤退という命令を出していた。
本来は幹部の方が先に逃げるのかもしれないがおそらく組織の人間全員を逃がすのが流儀なのだろう。
「その通り。幹部は色持ち、下っ端はコード持ちと言われている」
「トップの人は何という名前なんですか?」
「それは俺もわからなかった。ただ、幹部や下っ端を含め組織の人間全員から上の人と呼ばれているのだけは判明している」
もっとも、その上の人というのが組織の人間に直接何かを命令するようなことはほとんど聞かない。
全員が組織をより強く存続させるために動いており自分で考えて行動するというある意味理想的な状態である。
それだけ上の人がカリスマ的な存在なのかは定かではないが自分たちを脅かすならいずれ対峙することになるだろうとシルイトは考えていた。
「色で管理されているということはゴールディアンやブラッキーの組織内の序列もわかるということですか?」
「ああ、二人は上の人に次いで組織内で上位にいる存在だ。戦闘したときの感じだとおそらくゴールディアンの魔術は強力すぎるせいで枷がかけられているみたいだな」
「ペンサンドの鍵と言っていましたね」
「ペンサンドの鍵を開錠した後の変化はゴールディアンの魔術だけではなかった。彼女の人格も戦闘用に変化していた。もしかしたら彼女も人工生命体かもしれないな」
「その可能性はないと思います」
何故かはっきりと断言したコンフィアンザにシルイトが首をかしげる。
「ほう、そりゃまたどうして」
「ゴールディアンのように複数の人格を人工生命体に付与するのは明らかに手際が悪いです。それなら初めから戦闘用の人格だけにするべき。彼女の様子は本来の人格に戦闘時都合がいい人格を上書きしているような印象を受けました」
存外コンフィアンザは自分の性質と人工生命体というものについて深く理解しているようである。
「なるほどな。まだ俺の錬金魔術に匹敵するだけの技術を持っているやつは現れていないようだな。ともかくとして今のところゴールディアンよりもブラッキーを警戒するべきだ。ゴールディアンは枷がはめられているかぎり滅多な攻撃はできない。その分ブラッキーは組織のほぼ最上位に位置できる実力を普段から十二分に発揮することができるからな」
「ではブラッキーを先に殺すと」
「いやいや、そんな血なまぐさいことはしなくていい。少なくとも寝首をかかれないように警戒するだけでいい。変に深追いすると手痛い反撃を食らうかもしれないからな」
「なるほど、了解です」
なんだか最近コンフィアンザが物騒になっているような気がするとシルイトは考えている。
シルイトに何かあるとすぐに銃を取り出し害をなそうとした人を排除しようとしたりする。
人工生命体に確固とした自我が芽生えている証拠で喜ぶべきことなのだろうがなぜだか素直に喜べないシルイトである。
「まあ、今回のことでアポストルズもしばらくは仕掛けてこないだろうから明日アロガンシア討伐にいこう」
「それはいいのですが、どうしてアポストルズが仕掛けてこないとわかるのですか?」
「彼らは保身に長けているんだ。だからこちらから仕掛けずに向こうが仕掛けるのにも骨が折れるときはあえて攻撃してくるような真似はしないだろう」
「なるほど」
シルイトは親戚殺しの犯人を捜すために組織の性質まで探っていた。
もはや裏社会に関することは全て熟知しているといってもいいだろう。
「これは学園に入学してから忙しくなるな」
「どうしてですか?」
もともとシルイト達の錬金魔術の実験はそれほど忙しいものではない。
実際に有用そうなアイデアを思いつかない限りほとんど実験しないからだ。
だからコンフィアンザは学園に入学しても言うほど忙しくはならないと考えていた。
「それはもちろんブラッキー対策を勉強と並行でするからだよ。何かしらの対抗策を考えておかないと本人と直接戦わなかったとしても同じ能力を持つ危険指定が現れるかもしれないしね」
「なるほど、では実験ですか?」
「その予定だ。あと、このウィスターム邸を守護するための新しい錬金魔術も開発するからそのつもりで」
「了解です」
「必要なのは防御される前に貫通できる銃弾より速い攻撃手段と万一の時に備えた防御手段だな」
情報の交換会を解散して二人はそれぞれ明日に向けた準備や今日手に入れた情報の整理を行った。
この日からシルイトの兵器開発と防衛錬金魔術開発が始まるが実際に実用的な水準となって表に出てくるのはもうすこしだけ先の事である。
一話ごとの字数はどれくらいが適正なのでしょう?