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銀白の錬金魔術師  作者: 月と胡蝶
第六章 少年編
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皇帝と女王


そうして迎えた次の日、内装を整える作業をいったん休止し一休みしていたシルイトにコンフィアンザが声をかける。


「そろそろエスカメシオン王国への出発の時間が近づいています」

「ん、もうそんな時間か・・ってもう朝だ!?」

「はい。徹夜での作業、お疲れ様でした。しかし、体自体は疲労を感じていないはずですよ」


確かに、とシルイトは思った。

イシルディンを作り始めたときから、夜が明けて日の光が見える今に至るまで、ずっと活力がみなぎっているような状態なのである。


「そもそも、体を構成する金属とか脳を構成する魔術陣に疲労も何も無いか」

「ますた・・」


シルイトの言葉には、自分が人で無くなってしまったことに対する自嘲的な響きが含まれていた。

それを敏感に感じ取ったコンフィアンザは口を開く。


「確かにますたの体を構成する全ての要素は人工的な物です。しかし、それらのほとんどはますたご自身の錬金魔術によって成り立っています。それにますたの御意識はますたご自身のものです。なので・・」

「わかった。わかったよ。だからそんな悲しそうな顔をしないで」


コンフィアンザはハッと顔を上げた。

シルイトを見ると、優しげな表情を浮かべてコンフィアンザを見つめている。その表情は生身の肉体があった頃のシルイトと何ら変わりは無かった。


「ますた、私・・」

「もういいって。さっきはボクもちょっと意地悪だった。ほら、王国へ行くんでしょ」

「そう、そうですね。では行きましょう」


晴れやかな笑みを浮かべてコンフィアンザは歩き出した。

シルイトもその背中をおって歩き始める。


「準備は?何か持って行く物とかはあるかい?」

「手ぶらで構いませんよ。ほとんど無いとは思いますが、万が一襲われたとしても銃弾や斬撃程度ならばダメージは通りませんから」

「便利なもんだな。でも、一応イシルディンの集合球体は持って行くことにするよ」

「了解です。それではイシルディンの保管庫を経由しましょう」


イシルディンの保管庫とは、城の外壁を構成するイシルディンを作っていた際、大量に余ったイシルディンを一時的に保管しておくために作った場所だ。

将来的には都市の防衛機能などもイシルディンで作れるため、多いにこしたことはないのである。

コンフィアンザはそこに寄って、集合球体を作る分だけ回収しようという提案をしたのだ。

しかし、シルイトは首を横に振った。


「いや、その必要はないよ。もう自分の分のイシルディンは回収済みだからね」

「そうでしたか、失礼しました。では、直接行きましょう」

「そういえば、どうやって地上へ行くんだい?また飛び降りるとか?」


シルイトがセレネとの久しぶりの再会を果たした際は、イシルディンの慣性制御を使って速度を落としながら島から落下した。

その行き方が一番楽で手っ取り早い。


「いえ、今のますたはエーリュシオンの皇帝であらせられるので、きちんとした乗り物に乗っていこうかと考えています」

「ということは、イシルディンで何か作る?」


以前は馬を模したものを作ったり、豪奢な空飛ぶ椅子を作ったりとイシルディンで乗り物を作ることはよくやっていたので、今回も同じようにイシルディンで乗り物を作るのではとシルイトは考えた。

しかし、コンフィアンザは首を横に振る。


「ドラゴンに乗っていこうかと。イシルディンの技術はあまり公にしない方が得策だと考えているので」

「なるほど。その方がいいね」


イシルディンは、錬金魔術を編み出したシルイトの作品の中でも傑作の一つである。

だからこそ、切り札として伏せておくことが大事なのだ。

イシルディンを対外的に使うとしても建材としてのみで、慣性制御などの特殊効果や自在に動かすことが出来る機能は極力隠す方向にしようというのがコンフィアンザの提案である。

シルイトもその案に賛成した。


二人が着いた場所は島の端。そこには最初に浮島の土地へシルイト達を連れてきたドラゴンが待機していた。


「ますた、どうぞ背中へお乗りください」

「うん」


シルイトがドラゴンの背中に乗ると、コンフィアンザがシルイトの背中にくっつくようにして後ろに乗った。

ドラゴンはと言うと、その様子を首を回しながら見ており、コンフィアンザが乗ったのを見ると翼を広げて飛び立った。


「現在、エーリュシオンは王国の上空に止めてあるのですぐに到着しますよ」

「確かに、もう見えてきたな」


シルイトの新しい体は視力も強化されているようで、まだかなりの高度があるにもかかわらず見ようと思えば地上を歩いている人の顔まで識別できる。

王国の復旧はそれなりに進んでいるらしく、がれきは片付けられており、家屋の修繕も行われているようだった。王城も修繕作業中であることがわかる。


以前シルイトが浮島から落ちたときのような急降下はしていないため少し時間はかかったが、それでも数分で王国へと到着した。

着陸場所についてはコンフィアンザが事前に王国側と交渉していたらしく、迷うことなくドラゴンは進んでいく。

着いた場所は王城の裏手の公園、王城での戦闘時にセレネ女王の案内を受けながら城内に侵入したとき通過した場所だ。


そこには既にセレネ女王やその護衛と思わしき騎士然とした人が三人の計四人がこちらを見上げながら待っていた。

セレネ女王は今までの王女の服ではなく、女王らしい豪奢なドレスを身にまとっていた。


「ドラゴンの体格的にあの公園に直接着陸することは出来ないので、ここから飛び降ります」


下を見ると地面から十メートル程度はあり、生身の人間ではまず怪我は避けられないだろう。


「うん」


シルイトは短く返事をすると、迷わず飛び降りた。下から女王のキャッ、という短い悲鳴が聞こえるが構わず落下する。

数秒後、迫ってきた地面に足をバネのように曲げながら着地した。その衝撃で地面からは土煙が上がり、下に生えていた草が舞った。

直後に背後からドシン、という音が聞こえ、後ろを振り向くとコンフィアンザが同じようにして公園へと降り立っていた。


「お、お二人ともお怪我はありませんか?」

「問題ないよ。外じゃあ何だし中に入らないかい?」


コンフィアンザ的教育によって相手が誰であれぶれることはないシルイトの不遜な言葉遣いに護衛の騎士が何か言葉を発しようとするが、セレネ女王はそれを手で止めた。


「あなた、この方は帝国の皇帝陛下ですよ。余計なことは言わないでください。さあ、皇帝陛下、応接室へ参ります」

「話が早くて助かるよ」


セレネ女王が歩き出したのに続いて騎士が一人、シルイト、コンフィアンザ、そして二人の騎士といった順に並んで歩いていった。

公園から王城の内部へ入る扉の前でセレネ女王は止まった。

振り返ってシルイトの方を向く。


「皇帝陛下、お先にどうぞ」


その言葉に周りの空気が若干ぴりつく。


「ボクは内部構造を知らないからね。案内をお願いするよ」


セレネは数瞬の間、見定めるようにシルイトを見つめていたが、にっこりとした表情を浮かべると扉に向き直った。


「それでは、私がご案内いたします」


そこから先は以前と同じ道である。

ただ、以前は私室だった場所は今はただの物置となっている。王女の部屋と女王の部屋は、セキュリティー上の理由で別の場所を使うようだ。


少し歩くと応接室に到着した。


「ここが応接室です。中へどうぞ」


中は適度に煌びやかな調和のとれたデザインの机やソファーなどが置かれている。

シルイト達は勧められるがままにソファーに座った。

シルイトが座るのを見てからセレネ女王もソファーに座る。護衛の騎士はソファーに座らず、立って警備を続けるらしい。


「まずは自己紹介をさせてください。私の名前はセレネ・エスカと申します。このエスカメシオン王国の女王を務めています。よろしくお願いします」

「ああ、こちらこそよろしく。ボクはエーリュシオンと言う名前だよ。エーリュシオン帝国の皇帝をすることになったから、今後はお見知りおきを」

「はい。エーリュシオン様」

「えっと、皇帝陛下とか皇帝でいいよ。名前を呼ばれるのは苦手なんだ」


シルイトにとって、自分の名前はあくまでもシルイト・ウィスタームである。エーリュシオンという名前もいずれは慣れるのであろうが、今はまだその名前で呼ばれたくはなかった。


「わかりました、皇帝さん。私のことは気軽にセレネとお呼びください」


公園から王城に入るときと同様にピリッとした空気が漂う。そのときからシルイトも薄々感づいてはいたが、どうやらセレネはシルイトがまだ生きていて、それがエーリュシオンの皇帝になっているのではないかと疑っているようだ。

セレネ・エスカ。女の子はエスカで男の子はメシオン、という設定です。

最後の最後で明かされる名前。まあ特に重要でもないんですが。


次回は来週の土曜日、零時に投稿します。

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