決戦 その6
やっと落ち着いてきましたが、ストックが足りないので安心できない状況です。
~シルイト視点~
何も考えられない・・
体を動かすことも・・・
「やっと動きが止まったか」
「ティル、まだ脳は生きてるから気をつけて」
二人分の足音が聞こえてくる。
「体が動かなければ意味ないであろ」
「まだ人間に使ったことはほとんどないから安全かどうかわからないよ」
「大丈夫じゃ。わらわも分かっておる」
足音は俺の真横にまで来るとそこで止まった。
「命を吸い取る。命とはなんじゃろうな?」
「また余計なことを言おうとしてない?」
「わらわの性分なのじゃ。見逃せ。してシルイトよ、何だと思うのじゃ?」
なにを、言ってる?
「ふむ、まあ答えられんか」
「早く殺しておかないと」
「まあ待て。古の大戦時、ミスティルテインは対巨大生物兵器として開発された。体のどこに命中しても確実に効果があり、効果を発揮すれば必ず殺すことができる兵器は当時でもかなり恐れられたものだ。特に、直前まで猛威を振るっていた巨大な生物が、ミスティルテインの命中と同時にまるで命を差し出すように頭を垂れたのには感心したよ」
・・?
「お前は・・」
「おや、しゃべれるようだね」
「早く殺しましょう」
「もうちょっとだけ待て。何を言うのか知りたい」
周りが沈黙に包まれる。
「お前は・・誰だ?」
「っ!」
「私はルスト・・・ティル、どうしたの?」
「な、なんじゃ?」
ティルスクエルは取り繕うように笑みを浮かべている。
「俺が今まで会ってきたティルスクエルとは知能レベルが違いすぎるし、そもそも最後の方口調が違うじゃないか」
「ティル、こいつ変なことを・・」
「もうしゃべれるまで回復してしまったようじゃ。早く始末しろ」
ルストの言葉にかぶせるようにティルスクエルが命令した。
「了解」
ルストは背中に手を持って行き、腕を上に上げていく。その腕の動きに沿って、鞘から抜けるように刀が姿を現した。
刀身が全て出ると、体の前まで持って行き両手で構えている。一息つくと、刀を思いっきり振り上げた。
ミスティルテインだけでは殺せないんだな。
「さよなら」
瞬間、ルストは刀を振り下ろした。
【拠点防衛錬金魔術、ユグドラシルを緊急展開します】
よかった、まだユグドラシルとのリンクは生きているみたいだ。
直後にイシルディンによる壁が形成され、俺と刀の間に立ちはだかった。
ローブの集合球体をチラリと見ると、もうほとんど残りが無い。とどめのルクスリス用に少し残しておかなければならない以上、イシルディン頼みの防御はこれを最後にしよう。
いつのまにか感覚が戻っている手足に力を入れ、俺は立ち上がった。
「もう立ち上がれるまでに回復しているというの?」
俺の姿を警戒してか、攻撃を中断して後ろへ飛んだ。
「そいつは、何度か体が動かせなくなるほどの魔力欠乏を体験しているから、耐性ができているのかもしれん」
「確かに、今までミスティルテインを使用した相手はすぐに殺していましたから可能性としてはありえますね」
ティルスクエルがそんなに頭がいいことを言うか?
よくよく考えると、今日だけと言わずここ最近ずっと知能レベルが高かったような。誰だか知らないがいつから入れ替わっていたんだか。
話し合いが終わったのか、二人そろってこちらを見た。
「っ!、後ろか!?」
背中から殺気を感じ、斜め前へ倒れ込むように避けつつ後ろを振り返る。
そこには、いつの間にか俺の背後に移動したルストが刀を振り下ろした後の姿があった。間一髪回避できたと言うことだろう。
それにしても、また瞬間移動か?
さっきまでルストがいた場所を見てみると、まだ同じ場所に立っている。どちらかが幻影か、あるいはどちらも幻影かもしれない。
「よそ見をしつつ、他のことを考えているようだけど、大丈夫?」
「またかっ!」
またしても鋭い殺気を感じ、斜め前へと転がり込む。今度は頭のすぐ後ろで刀が風を切る音が聞こえた・・気がした。
また瞬間移動、いや分裂なのかこれは?
俺は転がりながら、後ろの二人のルストへルクスリスを発動させた。二本の銀白光線は確かにルストの心臓辺りを貫いた・・ように見えた。
見えたのだが、なぜかルクスリスの光が収まっても二人の体に穴が開いているようには見えない。
「瞬間移動でも分裂でもない?」
俺が思わずつぶやいてしまった直後、三方向から同時にミスティルテインが発動された。俺は三人のちょうど真ん中にいるような形になっている。
俺は、ある仮説を考えた。
「一か八か、当たって砕けろだ!」
最初に瞬間移動?したルストの方へと走る。
【拠点防衛錬金魔術、ユグドラシルを緊急展開します】
脳内でアナウンスが流れ、イシルディンが強制的に動き出すが、自分で動かすことで強引にユグドラシルの効果を止める。
そして、俺は最初に瞬間移動したルストのミスティルテインを体に受けた、ように感じた。
金色の光が俺の腹部を貫いているのが見える。だが、さっきのような脱力感はない。どうやら俺は賭に勝ったようだ。
俺が立てた仮説は、ルストは最初の一から一歩も動いていないというもの。瞬間移動しているように見えたものは、全て俺が見ている幻影ではないかという説だ。
ユグドラシルも確かに起動していたが、恐らく攻撃を受けたという俺の認識がユグドラシル起動のトリガーとなったのだろう。確か、設計時にそういう設定をした気がする。当時は、ユグドラシルが認識しない攻撃への対抗策として、目視で攻撃を確認できれば防御可能という機構が必要だと思ったのだが、まさか裏目に出るとは。
とにかく、これでルストの瞬間移動の謎が解けた。
今度はこっちのターンだ。
残りのイシルディンは大体ルクスリス数百発程度。数としては不安には感じないが、別の敵が現れる可能性もある以上は油断できない。
ルストは身の危険を感じ逃げようとしている。俺は、その周り一メートル四方に約百発のルクスリスを浴びせた。大抵の敵はこれで沈むが、相手は未だ未知数のルストだ。警戒しつつ、ルクスリスの光が収まるのを待つ。
光が薄れていくと、そこには体中穴だらけとなっているルストがこちらに顔を向けながら立っていた。
「やはりタネが割れては弱いな。所詮は固定砲と言ったところか」
「・・あなたは、だれ?」
やっとルストも気がついたか。
あれはティルスクエルなんかじゃない。
「ただの錬金魔術師だ」
「・・!」
ティルスクエルの体をしているそいつが言った言葉に心当たりでもあったのか、ルストは血相を変えてそいつへとミスティルテインを放った。
しかし、ミスティルテインはそいつの体に触れた瞬間、乱反射するかのように四方八方へと反射して霧散した。
「お前は、廃棄、だ」
そいつはルストの頭をつかむと、宙へと持ち上げた。
「まだ・・終わってない!」
ルストの周囲に十ほどの黄金色の球体が浮かび上がり、全ての球体から一斉にミスティルテインが発射された。
「無駄だよ」
またしても反射するように霧散される。そのタイミングで、俺はルクスリスを発動させる。
「それも同じだ・・!?」
ルクスリスは霧散させられることなく、そいつの頭部を貫通し、攻撃を受けたそいつは仰向けに倒れていった。。
ほぼ同じタイミングで、頭をつかむ手に力を込めたらしく、ルストが動かなくなった。
「これでさすがに終わりだろう」
とは言いつつも、ルクスリスをその身にくらいながらピンピンしていたような奴だ。恐る恐る近づいていく。
今にして思えば、あの復活したように見える奴らは全てルストの力を応用した幻影だったのかもしれない。そして、ルストが死ぬ直前にあれだけ本気で攻撃していたと言うことは、今俺が攻撃した奴が恐らく本体。
遠目から見ると、目をつむって倒れているためか、眠っているようにも見える。
そいつの側まで歩いて行き、脈を測ろうと手を伸ばした瞬間、そいつが目を開いた。
次回は来週の土曜日、零時に投稿します。




