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銀白の錬金魔術師  作者: 月と胡蝶
第五章 決戦編
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決戦 その5


~シルイト視点~


「だいたい、どうなってるんだ。こっちが攻撃しても効果が無いのに、相手の攻撃はかすっただけでも死ぬ危険性があるなんて異常にも程があるぞ」

「それはわらわ達のセリフじゃ。下界でいう神獣を何体も単独で屠りおって」

「こっちは瀕死だっつーの」


攻撃を食らっても無傷な奴と両腕を失って、魔力もイシルディンも底が見え始めている俺を同列に語られても困る。

まあ、腕に関してはイシルディンのおかげで無傷みたいなものではあるのだが。


それよりも、今はどうやってルストを倒すか考える方が重要だ。

まずは迫ってくるミスティルテインを避けつつ、さっきの光景を思い返してみよう。

俺の光線は確かに命中してルストの体を貫いているように見えた。だが、次の瞬間には無傷の状態で立っていた。


いや、そもそも命中したときに穴があいていたか?光線自体はルストの体の向こう側まで走っていたから穴があいて貫通したと思っていたが、先入観を廃してみると穴があいていなかった可能性は否定できない。


もし穴があいていないとしたら、考えられるトリックは三つ。

一つはブラッキーの時と似たような幻影を見ているというもの。一応、今戦っている部屋は明るいが、ティルスクエルが用意した部屋である以上は細工も簡単にできるだろう。特に、召喚が一瞬で終わってすぐにルストが姿を現した点は怪しい。

二つ目は、俺の方向感覚や精神に対して何らかの攻撃がされているというもの。現代の魔術や錬金術では、見当違いの方向へ攻撃させたりすることはできないが、旧時代の錬金魔術であれば可能かもしれない。

そして最後は、俺が見当もつかない方法である可能性だ。この三つ目が正解だとしたら俺は多分生き残れないだろう。


まずは、幻影かそうでないかを検証してみることにしよう。

検証方法は簡単。幻影なら強い光に当たることで、揺らぎや薄れが見られる。

ということで、大量のルクスリスを一度に放つことにした。

今のイシルディンの手であれば、以前のような指先からの発射だけでなく、手のひらにイシルディンを集積して発射することが可能である。

指先とも組み合わせれば、かなり太いルクスリスの光線ができあがるというわけだ。

早速両腕を前に出して、ルクスリスを放った。


「ビンゴ!」


かなり強い光を発するルクスリスが通過すると同時にルストの体が大きく揺らいだ。今までのルストの姿が幻影であったことの証拠だろう。

となると、本体はどこに?もしかして真後ろに回っているとか!?


「ここにいるよ」


俺の真後ろから声がした。ルストか!

慌てて距離を取りながら後ろを振り向く。そこには右腕をこちらに突き出すルストの姿があった。直後、黄金の光が瞬く。


「ああ、くそ!」


ローブに慣性制御を付与して上空へと逃げた。

ミスティルテインは俺が立っていた場所まで飛んでくると、そこで急停止して方向を変えるように俺に向かって枝を伸ばしてきた。


さらに上に向かって飛びながら下の様子をうかがう。

下ではルストが右腕を前に突き出した状態で顔だけこっちを向いていた。


さっきと同じ方法でもう一度ルクスリスを放つ。

するとまたしてもルストの姿が揺らいだ。


「これも幻影か!?」

「そう」


今度は俺の真上からルストの声が聞こえた。上を確認すると床に対して水平な状態で浮いているルストの姿。

もう一度下を見ると、さっきまでいたはずのルストの幻影は既に消えていた。

上を見ると、こちらに向けているルストの腕から金色の光が光った。


「やばい!」


ルストがミスティルテインを放ったのだろう。俺は真上にイシルディンによる壁を作った。

最初に放たれたミスティルテインの追跡もまだ終わっておらず、現在俺の真上と真下、そして斜め右下からミスティルテインの追撃を受けている。

しょうが無く左方向へと回避した。同時に壁となっていたイシルディンを地面へと落としてミスティルテインの追跡の妨害を図る。


俺の真下にあったミスティルテインはイシルディンの壁によってしばらく動きが止まっていたが、強引に突き破ってこちらの追跡を再開した。

完全に動きを止めることは出来なかったが、これでミスティルテインを少しの間足止めできることが分かった。

だが、俺が通るルートによっては先端ではなく、ミスティルテインの途中の部分が新たに分岐する可能性もあるので注意が必要だ。


とりあえず、まずは体勢を立て直して反撃の糸口を探す必要がある。


「そううまくいかないよ」


また俺の進行方向からルストの声。ある程度予想していたので、すかさずルクスリスを浴びせかける。

姿が揺らいだ。やはり幻影だな。


「幻影でも攻撃が出来れば問題ないんだよ」

「は?」


直後、黄金の光がきらめいた。


ユグドラシルのメリットは、人間よりも遙かに高い応答性を持っているということだ。

つまり、攻撃されたと認識してから防御の措置をとるまでのタイムラグがほとんどないということである。

人間が自分の頭でやるときは、攻撃がどんな種類のものかを自分の目で見て頭で処理し、どんな防御がいいかを判断して初めて防御のために動き始めるため、どうしてもタイムラグが出来てしまうのである。


【拠点防衛錬金魔術、ユグドラシルを緊急展開します】


脳内アナウンスが流れ始めるのと同時に壁ができあがっていく。数瞬後に俺も横へと回避を始めた。

どんな力か知らないが、今までの攻撃も俺が目を離した隙に幻影と本物が入れ替わっていたわけではなく、最初から全て幻影が攻撃を行っていた可能性があると言うことだ。

詰みじゃないか?


さっきよりも至近距離でミスティルテインを放たれたらしく、壁の生成が間に合っていない。イシルディンの壁によって防御が成功することはないだろう。ユグドラシルにとっては珍しい判断ミスだ。

俺も横に避けようとしているが、このままでは・・


「く、そおっ!!」


危なかった。ユグドラシル発動の合図とほぼ同時に今度は向かって右へと方向転換したのだが、ミスティルテインはイシルディン化した俺の左腕に当たっただけだった。それも一瞬しか当たっていなかったからなのか、腕が損傷を負った様子は見受けられない。

今はなんとか助かったが、こんな偶然がそう何度も起こるとは考えられないのも確か。


「このままじゃジリ貧・・っ!」


なんだこれは!?急に全身の力が抜けるようなけだるさが俺を襲った。

直後、俺の視界いっぱいにミスティルテインの黄金の光が映る。下を見ると、最初に発動したミスティルテインから新たな枝が真っ直ぐ俺に向かって伸びてきていたのが分かる。

どうやら俺はミスティルテインに貫かれたらしい。


「ユグドラシルが・・機能しない?」


恐らくユグドラシルは、一つ前の攻撃から俺を守るべく、まだイシルディンの壁を作っている最中だったのだろう。

同時に二つ以上の場所からされる攻撃に対応できないという、ユグドラシルの欠点が露呈してしまった形だ。


こうして考え事をしている間にも、どんどんと意識がもうろうとしていく。

最後の力を振り絞ってミスティルテインの斜線上から体をずらした。


魔力もイシルディンもまだ残っているのだが、何故かそれらを管理、維持することができなくなり、俺の体は地面へと落ちていった。

次回は来週の土曜日の零時に投稿したいです。

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