決戦 その4
前回同様短めです。
~シルイト視点~
俺は目を開いた。
死んだのに目を開くというのも変な話かもしれない。だが、確かに目を開いたんだ。
するとそこに広がる光景は・・数瞬前と同じ、広い部屋。
違うのは、俺がアヴァライスの手の中にいないで地面の上に立っているということだ。
アヴァライスの手は、俺を握っていた手だけ手首から先が消えている。
「ウガァァァ!!」
痛みからか叫び声を上げるアヴァライス。
そういえばティルスクエルはどこに行ったんだ?周りを見渡すと、数瞬前と同じ場所にいて驚いたような表情を浮かべている。
「・・その腕は何じゃ」
「腕?」
まさか、サーフェイトに奪われた俺の右腕について蒸し返そうとしてるんじゃないだろうな。
そう思いながら視線を下に移すと、右腕ではなく残された左腕の方に異常が発生していた。
腕全体が燃える炭のように黒く、所々が火のように赤く光っている。
そして、セレネから貰った指輪が殊更に強く、赤く光り輝いていたのだ。
「そういえば、命だけは助かるとか言ってたっけ」
「っ!思い出した。それはわらわが昔無くしたと思っていた守護の指輪であろ!?なぜ汝が持っておる」
大事なものなら無くすなよ、とは思いつつも話がこじれるから口に出すことはしない。
「代々王家が受け継いでたみたいだぞ。少なくともお前よりはきちんと扱っていたんじゃないかな」
少し毒が出たが問題ないだろう。
よく見てみると、アヴァライスの手も俺の腕と同じように炭化しているようだ。
ということは、俺の左腕ももう長くないのかもしれない。
そう思っていた矢先、案の上と言うべきか、左腕が指の先端から崩れ始めた。
その崩れが指輪の部分まで到達した瞬間、指輪はさらに強い光を発した。
その光はルクスリスのように真っ直ぐ進み、アヴァライスを貫く。すると、今度はアヴァライスの体全体が炭化していき、すぐに体全体が崩れ始めた。
アヴァライスの全身が崩れ落ち、痕跡も残らなくなったのと同時に俺の左腕も完全に崩れて消えた。
「一時はどうなるかと思ったんじゃが、最後の一人で何とかなりそうじゃな」
守護の指輪はもう無い。どうやらあれは一回限りの効果らしく、アヴァライスを焼き尽くした後に指輪自体も溶けて消えてしまった。
それでも俺の命を一度は救ってくれたのだから文句はない。
「出でよルスト。とどめを刺せ」
またティルスクエルが何かを召喚したようだ。
一瞬で召喚が終わり現れたルストと呼ばれるものは、中性的な顔立ちをした人間型だった。
「死にかけ」
ルストと呼ばれる奴が唐突にしゃべった。
「そうじゃ。奴の得意技は銀白色の光線を放つことじゃったが、両腕がなくなった以上はその心配も無い」
「なら何故自分でとどめを刺さない?」
「念には念を、というやつじゃ」
よくわからないが、ティルスクエルとしゃべってくれているのはありがたい。腕がなくなってもルクスリスを撃つことは出来るのだが、そのためには準備が必要だからだ。
「?」
「ほれ、さっさととどめを刺さんか」
「言われずとも」
そう言ったルストは黒く染まった目をこちらに向けた。
「ッ!!」
本能的に恐怖を感じ、その場を飛び退く。
だが、後ろを振り向いてみても、俺が飛び退く前にいたところに異常が発生したわけではない。
もはや攻撃されたのかどうかも分からないが、攻撃は最大の防御という言葉もある。攻撃に移るとしよう。
俺は右腕を突き出し、人差し指をルストの方へ向けた。
「その腕は!?」
衝撃からかティルスクエルが叫んだ。
タネは簡単。ルスト達が話している間にイシルディンを使って腕を作っていたのである。
あくまでも即興で作った簡易なものなので、細かい作業をするのには向いていないだろう。だが、ルクスリスを放つには十分だ。
しかも、いつもの自分の手と違ってイシルディン製の腕は帯電させやすい。つまり、より高威力かつ高速にルクスリスを発動させることができる。
ルストに指を向けると、俺は無言でルクスリスを発動させた。
銀白色の光が瞬き、鋭い光線がルストへと走る。
そして、ルストの心臓の辺りに命中した。
「避けることもしないのか。大したことないな」
「本当にそう思っておるのか?よく見るのじゃ」
「なんだよ・・・は?」
そこには、傷一つ無い状態のルストが立っていた。
「今度はこちらの番」
ルストは右腕をこちらに向ける。
直後、黄金に輝く光線が放たれた。
【拠点防衛錬金魔術、ユグドラシルを緊急展開します】
なけなしのイシルディンが使われ、自動的に壁が形作られてゆく。
俺の視界のほぼ全てが壁に覆われたのと同時に光線が壁に激突したようだ。
甲高い衝突音が周りに響き渡った。
「これは、ゴールディアンの能力に似てるな」
「逆じゃよ」
ずっと光線が当たっていたせいか、イシルディンの壁から白煙が上がり始めている。
この現象はゴールディアンとの戦闘では起きなかった。
「あの金色が受け継いでいる力はそもそもルストの能力をまねて作られているのじゃ」
ティルスクエルも金色と呼ぶのか。
「だから、能力の強さも当然オリジナルであるルストの方が強いぞ」
気付けば、光線はもうすぐ壁を貫通しそうだった。壁が薄くなったためか、こちらにまで金色の光が漏れて見える状態である。
俺は、慌てて横に飛んだ。
同時に光線が壁を突き破って俺が一瞬前まで立っていた場所まで飛んできた。
逆に言うと、俺は無傷である。
「いくら強いと言っても、軌道が直線なら簡単に避けられるぞ」
「それはどうかな」
疑問に思い、光線の方を見た俺は衝撃と同時に納得した。
少し前まではただの棒状だった光線だが、今はまるで木の枝のように沢山の小さな光線が新たに伸びてきている。
「正式名称、ミスティルテイン。万物の命を吸い取る木に見立てられて設計されておる」
「ティル、余計なことは言わないで」
ルストはティルスクエルのことをティルと呼んでいるようだ。まあ、どうでもいいが。
もし、ティルスクエルの言うことが正しければ、ミスティルテインに触れた瞬間に命を失う危険性があると言うことだ。
ならば、向こうの攻撃が当たらなければいいだけの話。
やってやろうじゃないか。
新たに伸びる光線の速度はそれほど速くない。だが、光線が一度飛んだら終わりだと考えていれば不意打ちを受けてやられていたかもしれない。ティルスクエル様々だ。
ミスティルテインは正確に俺がいる方へと枝を伸ばしてきている。恐らく枝を伸ばすのにも何らかの力を消費するのだろう。
もし無条件で使えるのであれば、一斉に伸ばした方が逃げ場をなくすためにも効率が良いからな。
だが、いくらこちらに向かって伸びてくる本数が少ないとは言え、当たると即死する可能性もある光線。あくまでも可能性ではあるが、実際に攻撃を食らって確かめてみる気にもならないため真実だと考えて行動した方が得策だろう。
そして、最大の問題は、どんなに枝が伸びても最初に放たれた物を含め全ての光線が消えることなくとどまり続けているということだ。
つまり、時間が経てば立つほど俺の逃げ場がなくなっていくということ。
これは早急にルストを倒す手立てを考えなくてはならない。
書く時間が本当に取れないため、毎週投稿を実現するべく短くなってしまっています。申し訳ないです。
今月中か、遅くても来月の中旬には落ち着く予定です。年内には完結させたいと考えています。
次回も来週の土曜日、零時に投稿します。




