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銀白の錬金魔術師  作者: 月と胡蝶
第五章 決戦編
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決戦の始まり

今回は長めです。

~シルイト視点~


「ん?」


今、俺がいるのは恐らく神域。いわゆる月というやつだ。

ボモラを倒したことで赤い月が元に戻り始めた影響か、いつもなら真っ赤に染まっていた内装が今は少し黄みがかった白色、つまり月本来の色になっている。

なぜ俺がこんなところでとどまっているのかと言うと・・理由があればこっちが知りたい。


どうやら転移の経由地点である神域から俺だけウィスターム邸に行けないようだ。コンフィアンザの姿はいつもの転移魔術陣の光とともに消えたから、多分ウィスターム邸に着いているだろう。

だが、俺だけ残されてしまってからは魔術陣を作ることも出来なくなった。これでは、地上に戻ること自体できない。

なぜ俺が地上に戻れないのか、原因は分からんがとりあえず聞くアテはある。


「ティルスクエル~!どこだ!」


あいつなら何かを知っているだろう。過去に俺と同じような現象に遭遇したこともあるはずだ。



・・・呼びかけても返事が返ってこない。

とりあえずティルスクエルを探すことにしよう。


転移の際に経由する神域の部屋は、ティルスクエルに指定されている部屋を使っている。

辺りを見渡すと、見慣れた経由用の部屋。経由する部屋を間違えたから地上へ転移できなくなっているのではないようだ。


部屋の片隅に一つの扉が設置されていた。

他にすることもないので、迷わず開く。俺の記憶が正しければ、ドアの先は廊下のはずである。ティルスクエルの部屋から廊下を通って経由用の部屋に入ったからだ。

だが、扉を開けた先はさらに大きな部屋だった。


「これは・・どういうことだ」


部屋に一歩足を踏み入れると、後ろから扉が閉まる音が聞こえた。振り返ってみると、後ろの扉が勝手に閉まり、そのまま壁と一体化して扉が消えてしまった。

警戒しつつも前へと歩みを進めていくと、前方にティルスクエルがいるのが見えた。


「あ、ティルスクエル!これはいったいどういうことだ?」

「これ、とはなんじゃ?」

「全部だよ。俺が地上に戻れなくなり、廊下だった扉の向こうはなぜかこんな大きい部屋になっている。理由を知っているんじゃないのか?」


なぜかティルスクエルは嘲笑うように笑みを浮かべた。


「もし知っていたとしても、汝にそれを教える理由がないじゃろ」

「は?」

「もっとも、教えない理由もないのじゃがな」

「どういうことだ?」


最初にあったときと同じように拳骨を食らわせて痛い目を見ないとわからないようだな。

そう思って足を一歩踏み出したのだが、なぜかティルスクエルから鋭い声が飛んでくる。


「それ以上近づくなっ!!」

「どうしたんだよ。今日のお前、なんか変だぞ」

「どうしてそう思う?」

「ほら、理由を聞いてくることなんか・・ッ!!」


俺が思わず言葉を切ってしまったのは攻撃を受けたからだ。

まさかとは思うがティルスクエルが自分に注意を引きつけて、その間に死角から俺を攻撃しようとしたのか・・?

視覚外からの攻撃に俺が対処できたのはひとえにこいつのおかげだ。


【拠点防衛錬金魔術、ユグドラシルを緊急展開します】


やっぱりコンフィアンザの声だが、効果は同じようだからとりあえず放っておこう。

ユグドラシルは俺のイシルディンの集合球体にアクセスして地面に壁を作ったようだ。


「地面からの・・攻撃?」


後ろを振り向いてみると、いつか見た人影が立っていた。

その人影は、既におれとそっくりなシルエットをしており、色が真っ黒な所以外はほとんど俺と同一だった。

魔境で戦った人影はイシルディンによく似た銀白色の物体を操っていた。つまり、今の地面からの攻撃はイシルディンによるものかもしれない。


「なんで、こんな所に現れたんだ・・」


どうして神域に人影なんかが出るのだろう。もしあの人影がイシルディンを操っているのだとすれば、魔境で戦ったあの個体である可能性もある。

問題なのは、誰がどうして人影を逃がしこの場に連れてきたのか。


「それが汝の前に現れた理由はただ一つ、じゃろ?」

「やっぱりそうなのか」


思わずティルスクエルの方を見てしまった。ティルスクエルはニヤリとした笑みを浮かべている。


「わらわが用意したに決まっているじゃろう。それより・・わらわの方に顔を向けていていいのかな?」


直後、人影が動き出した。右腕を前にあげて、人差し指をこちらに向けてきたのだ。

あれは俺がルクスリスを発動するときと同じモーション。


「おいおい・・マジか!!」


ローブに慣性制御の特殊効果を付与させて上空へと逃げる。幸いなことに、この部屋は高さもかなりあったので、空を飛んで逃げるのは楽だった。

人影の人差し指から三本の銀白色の光線が放たれるのが見えた。一つは俺がさっきまでいた場所へ、後の二つは左右に逃げたときに当たるように照準が定められていた。

こいつ、俺のルクスリスを再現しやがった!


「わかっているじゃろうが、それは汝の戦闘を分析して戦う兵器。地上で言う神話の時代の残り物じゃ。ボモラとの戦いはしっかりと観察させてもらっていたぞ」

「うるせえ!」


ティルスクエルはどういうつもりだ?

可能性として考えてはいたが、本気で俺を殺すつもりかもしれない。ボモラが倒れた今となっては俺は用済み。そうなれば姿を見られた俺を排除しようとするのはある意味自然な流れとも言える。


「くそっ」


ダメ元ではあるがルクスリスを発動する。今度は正面、左、右、上の四本を放った。

人影は俺をまねして上空に逃げようとしたようだが、俺のローブに付与した慣性制御は再現できていないようで、ただのジャンプで終わっていた。

慣性制御で逃げられた場合を想定して若干上目を狙っていたのだが、逆にそれが功を奏したようで、見事にルクスリスは人影の頭に命中した。


「勝った・・か?いや、防御されたか」


人影は銀白色の何かを壁のようにしてルクスリスを防いでいた。

あの銀白色の何かは本来のイシルディンではないのは明白。というのも、俺のイシルディンは、たとえ硬質化させてもルクスリスを防ぐことができないからだ。


チラッとティルスクエルの方を見てみると、まるで高みの見物と言わんばかりに椅子に座って寛いでいる。

流石にこれには俺もムッとした。手持ちの銃はイシルディンを送り込むタイプしかないが、むしろ殺傷能力が低い分ティルスクエルを捕まえるには十分だろう。


ローブの内側から取り出し、迷うことなくティルスクエルを撃った。

だが、イシルディンの弾丸はまたしても銀白色の何かで出来た壁に阻まれてしまう。


もしやと思って人影の方を見ると、案の定ティルスクエルの方へ右腕を向けて何やらポーズを取っている。あの壁は多分人影が作ったのだろう。

いくら俺でも、あんなに離れたところに突然イシルディンの壁を創り出すことなんて出来ないぞ。


これで俺は確信が持てた。俺の戦いを分析だのとほざいていたが、人影に出来るのは現象をまねすることだけ。

イシルディンの壁がすべての攻撃を防いでいるように見えたから、あいつが作り出す銀白色の壁はどこにでも出現してどんな攻撃でも防ぐことが出来るんだろう。

一方で、ローブへの慣性制御の付与は、傍目には何をやっているのかわからないから再現できなかったんだ。


もし、見たことをまねできるだけならば、ボモラとの戦いで俺の頭に銃口を押し付けられたとき、何が起こっていたのかは把握できていないはずだ。ユグドラシルの展開は頭の中の音声でしか知ることは出来ないからな。


ならば、人影の頭に銃口を押し付けて引き金を引けば、倒せるかもしれない。

いくらいつも使っている弾とは違うと言っても、超至近距離から頭を打ち抜けば流石に殺せる。

あくまでも人と同じ体の構造をしていればの話だが。


迷っている暇はない。そうと決まれば接近するだけだ。

俺は人影に向かって走り始めた。人影も反撃しようと右手の指をこちらに向ける。


それを見越して、俺は再びティルスクエルの方へ銃弾を放った。こうすることで人影は守る方に集中せざるを得ないだろう。

案の定、人影は右腕をティルスクエルに向けてポーズを取るような格好をしていた。俺はあんなポーズ取ったこと無いと思うんだが。


とにかく、その一瞬のおかげで俺は接近することが出来た。持っていた銃をそのまま人影の頭に突きつける。


「これで、終わり・・!?」


持っていた銃が突然溶け出し、こちらに向かってこようとしていた。

この挙動は・・イシルディン変換か!?


ボモラとの戦いを見ているのだとすれば、このまま銃を持ったままだとイシルディンもどきに魔力を奪われ尽くしてしまう。

慌てて銃から手を離した。銃は、俺の目の前でドロドロの銀白色の何かに変わり、虚空に消えていった。


俺がイシルディン変換した後はいつも集合球体に戻すのだが、人影から見るとこんな風に写っていたのだろう。

これでは人影にとどめを刺せない。恐らく金属は人影に触れた瞬間に変換されてしまうだろうから、今から新しい銃を作るのも悪手だ。


銃の代わり・・そんなの一つしか無いだろう。ルクスリスだ。

だが、ルクスリスも弾はイシルディンを使っている以上は普通に撃つだけでは無効化されてしまう危険もある。人間の反応速度では到底変換できないだろうが、ユグドラシルと同等以上の反応速度があればユグドラシルの弾を即座に変換することくらいは出来てしまう。


これを人影相手に通用する武器にするためには人影の素直さを信じるしかないだろう。

手始めに独り言をつぶやく。


「なるほど、金属は溶かされるのか」

「汝も使っておったであろ?それを再現しただけに過ぎんよ」


遠くからティルスクエルの声がする。これは良い兆候だ。ティルスクエルと会話するようにブラフを混ぜる。


「なら、金属以外の攻撃をしないといけないわけだ」


ティルスクエルと会話している間にも人影からの攻撃は止まない。格闘戦を仕掛けてきた人影にたいして、手首が折れるのを覚悟で素手でガードする。


「っく!」


マジで痛い。だが、変換がルクスリスには通用しないと信じさせるまでは耐える必要がある。


「ふっ、汝に金属以外の攻撃法があるのかな?」

「・・ああ。あの銀白色の光線は純粋な魔力の塊だからな。金属ではない」


すぐにガードしていない方の手の人差し指を人影に触れさせた。実際にルクスリスを発射するのは指の真横であって、指と人影の頭の接触面ではないのだが、そんなことは関係ないだろう。

人影にとっては接触された状態で攻撃をされることに意味があるのだから。

俺は迷うことなくルクスリスを発動した。予想通り、ルクスリスは銀白色の何かに変換されることなく人影の頭を貫通した、

もしかしたら、変換する機能は生きていたのかもしれないが、いずれにしても超至近距離からルクスリスを放たれれば防御する時間も無かっただろう。


そうして俺は人影を倒すことに成功した。


「ふむ。まさかそれほどあっさりと倒してしまうとはな。相打ちとは行かないまでもそれなりのダメージを負わせる予定だったんじゃが」

「なにがあっさりだ。こっちはガードした左腕が痛いのなんのって」


もしかしたら骨にヒビくらいは入っているかもしれない。人影にとっては怪力を発揮するコンフィアンザの上に立つ人という位置づけだろうから、それ相応の筋力を持っていたようだ。


「それで、教えてくれるんだろうな」

「別に教えるつもりはなかったんじゃが、わらわが教えることで自発的に死んでくれるかもしれんからの。特別に教えてやろう」


どれだけ上から目線なんだ。


「太古の昔、錬金魔術のせいで多くの命が失われた。その歴史が繰り返されるのを防ぐべく、錬金魔術を無くすために生まれたのがわらわなのじゃ」

「おいおい、まさかその役割を果たすために俺を殺すって言うんじゃあないだろうな?」

「もちろんそのまさかじゃよ」


もしティルスクエルが言っていることが本気なら、コンフィアンザも含めアポストルズのメンバーは皆殺しに遭いかねないぞ。


「アポストルズのメンバーを殺すことはないぞ。彼らは汝と違って錬金魔術を戦闘特化にせず、平和的に利用しようとしていたからの」

「その違いか。だが、お前に戦闘能力があるとは思えないが?」


俺の言葉にまたしてもティルスクエルは嘲笑うような笑みを浮かべた。


「わらわの戦い方はもう見せたはずじゃ」

「・・またさっきみたいな人影か!?」


あのとき魔境から消えた人影は合計三体。であればあと二体も倒さなければいけなくなる。

同じ倒し方は避けた方が良いし、そうなると苦戦を強いられることになるだろう。


「残念じゃが、コピー人形はさっきのが最後じゃよ。戦闘能力を底上げするために三体を合成したからの。じゃが、わらわの手駒はあれだけではない」


直後、部屋の床にとてつもなく巨大な魔術陣が浮かび上がった。


「神話の時代の獣。地上の人間は神獣とでも呼んでおったか。これは、かつて万の兵を一体で倒したとも言われる伝説の七兵器の一つ」


魔術陣からはすさまじい地響きと音とともに巨大な獣が浮かび上がる。

形としては頭に角が生えたドラゴンに近い。だが、その体はウロコではなく毛で覆われ、顔の造形はオオカミに近い。

その獣は魔術陣から顔が出るやいなや、轟音ともとれる吠え声をあげた。


「名をサーヒュアリーという」


どうやら俺はとんでもないものと戦おうとしているようだ。


次回は来週の土曜日、零時に投稿します。

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