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銀白の錬金魔術師  作者: 月と胡蝶
第一章 ギルド編
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金と銀の邂逅

ラジネスという単語に反応したのかざわつきだしたほかのトレーダーたちをしり目に二人はアロガンシアの討伐の為、ギルドをでた。


「ひとまずこの金を保管するために宿に戻るぞ」

「了解です、ますた」


昼時で騒がしい中を人をよけながら大通りを歩いていく。


「昼飯はどうする?」

「お金を預けたらどこかで食べるのはどうでしょう」

「そうするか」


コンフィアンザは人工生命体だが当然のように食物をエネルギーにしている。

宿に泊まって試験勉強する前はコンフィアンザが料理をしていたのだが、宿には宿泊客が使えるキッチンがないため必然的に外食をすることになる。


二人はしばらく大通りを歩いた後、人通りが少ない路地裏に入った。

路地裏の先に二人が止まる宿がある。

大通り沿いの宿は質こそ悪くないものの料金が観光客用で割高になっている。

そのため勝手を知っているトレーダーなどは路地裏の比較的質が良くて料金も安い宿を好んで選ぶ。


路地裏に入って数分歩いて二階建ての建物の前で二人は止まった。


「索敵魔術に反応有。ますたの部屋に何者かが侵入中のようです」

「たぶん朝にギルドに行ったときにギルド内にいた誰かだろうな。ラジネス討伐なんて普通は半日ではできるものではないから」

「排除しますか?」

「いや、いい。それよりも侵入者の目的を探る方が先決だ。隠密系の移動結界魔術Lv.4をフィアンのみに展開しておけ。それとLv.4までの全魔術と実弾の使用を許可する。モードに変更なし」

「了解です。しかし、私も気配を殺すことはできますが」

「念のための保険だよ。可能な限り殺さずに捕獲するんだ」

「了解です。隠密結界魔術Lv.4を行使します」


通常の結界魔術は発動するときに位置が固定される固定結界になるため術者が動いても結界が動くことはない。

しかしそれは防御系の結界魔術に限ることであり隠密系などは術者が動くと結界も一緒に動かすことができる移動結界にできるという事実はあまり知られていない。

というのも、一般的に教わる結界魔術で発動するとすべて固定結界となってしまうからである。

コンフィアンザが扱う結界魔術はかつて繁栄していたウィスターム家の技術を用いているため移動結界を使うことができる。


シルイトはシルイトで気配を殺したうえで自身の銀白色のローブに隠蔽の効果を付与した。

シルイトは自分が作ったイシルディンに特定の効果を付与することができる。

特定の効果とは、魔力吸収、衝撃吸収、隠蔽、硬質化、帯電化、熱量変化、慣性変化の七つと隠し能力一つを加えた合計八つである。

それぞれ名前と同等の能力を持ち、必要な時に応じてその効果を付与することで戦闘時などに応用することができる。


欠点といえば同時に複数の効果を付与することはできないということだろう。

別の効果を付与するとそれまで付与されていた効果は相殺されていしまう。


だが、それを差し置いてもイシルディンの特殊効果の威力は絶大である。

例えば、ラジネス討伐時に多数の獣を穿ったイシルディンには硬質化が付与されていた。

そして獣を穿った後に魔力吸収の効果に付与されなおされることで獣が保有している魔力を完全に吸い取って絶命に追い込んでいた。

今回の隠蔽はコンフィアンザが発動させている隠密系結界魔術のLv.5を超えるか超えないか程度のものである。

しかし、特殊効果の付与だけでは不安が残るためコンフィアンザには別に結界魔術を発動させたのである。


二人はあえて表の扉から中に入っていった。

中は二人が家を出ていったときと同じように向かってすぐに受付があり、左右に部屋へと続く通路と階段が存在している。

しかし、朝と違うのは受付に人が座っていないということである。

二人は警戒しながら部屋へと続く階段を上り始めた。


いつもは錬金術によってつくられた明かりで明るいものの、今はその明かりが全て取り払われている。

その暗さを引き立てるように階段から時折ギシっという音が鳴る。

隠ぺいや隠密によりその音が侵入者の意識にのぼることはないといってもやはり少しはビクリとなるシルイトであった。


ビクビクしながら二階にたどり着いた二人はいつも泊まっている二人の部屋から明かりが漏れているのを確認した。

そして中の様子をうかがうために部屋の扉の隙間から中を覗いた。


扉の隙間から見えたのは白いローブを纏った三、四人の集団が家探しをするかのように部屋を荒らしまわっている光景だった。


「まだ見つからんのか!?」

「すいません!もう少しで見つけます!」


これは直接話を聞いた方が早いと悟ったシルイトは目くばせでコンフィアンザに突入の意志を伝えた。

二人の存在がばれていない時点ですでに二人より劣る手練れであると判明している。


無言で五秒カウントしたシルイトはバンっと大きく扉を開き部屋の中に入っていった。


「ばかな!帰って来ただと!?」

「おいお前ら!あいつらはSランクの危険指定討伐でしばらく帰ってこないって言ってたよな」

「今はとりあえず逃げましょう」

「いや、ここで殺しておこう。討伐が成功にせよ失敗にせよ消耗はしているはずだ!」


二人が急に入ったことでうろたえたのか侵入者の行動がバラバラになっている。


「封鎖結界を発動します」


鈴の鳴るような声が聞こえた後、シルイトとコンフィアンザの二人の周りに半球状の結界が発生した。


「フィアン、展開場所を間違えてないか?」

「いえ、ますた。私は行使していません」


二人が思わず顔を前に向けるとそこには黒のローブをまとった男達の中央に金色のローブをまとった少女が立っていた。

もっとも、顔はローブについているフードの所為で全く見えず、少女と判断した決め手はローブから除くショートヘアの金髪と声である。

女ではなく少女だと判断したのは他の男達と比べて身長がかなり低いところとソプラノの声である。


「コード持ちは全員撤退してください。殿は私がつとめます」

「「コピー」」


白ローブたちは揃ってそう言うと足元に白い影が広がりその影にずぶずぶと沈んでいった。


「認識阻害開始。ジャミング率60パーセント・・・おや、結界を破壊しましたか」

「ああ、その通りだ」

「条件クリア。戦闘許可を受託。モード変更。ペンサンドの鍵を開錠」


金ローブの少女がそう言うと少女の足元から金の光が漏れ出し始めた。

それと同時に少女の様子も変わった。


「なんかやばそうだな。全魔術Lv.5までと実弾使用を許可する。自己優先モードだ」

「了解です」


コンフィアンザは両手に銃を持ち迷いなく金ローブの少女の心臓に打ち込んだ。

しかしすべての弾が少女の足元から出ている金の光にはじかれて何処かへ飛んで行った。

次に金ローブの少女が立っている床から銀白色のナニかが突き出て来た。

しかし少女に突き刺さることなく金の光に当たった部分から同じような金の光に分解されていった。


「能力・・?いやオリジナルの魔術みたいだな」

「そのようですね。どうしますか」

「特殊効果にちょうどいいのがある」


銀白色の金属、イシルディンにできる特殊効果は七種類ある。

その中から一つ選んで付与するのだが、さっきは相手を貫通させるために硬質化を付与していた。

しかし、イシルディンを分解させていくのが魔術によるものであるならば魔力吸収を付与するだけで相手の魔術は通用しなくなる。


「ジャミング率80パーセント」


今度は床からの奇襲ではなく正面から、正確にはシルイトの腰のベルトについている銀白色の球体からの攻撃をするために若干の準備をする。


「ジャミング率95パーセントを突破。条件クリア」


シルイトは準備が整い完璧な対策をとったといえるが金ローブの少女も準備が完了したらしい。

恐れることなくシルイトの方をまっすぐと見据えていた。

かぶっているフードから軽く覗くことができる口元からは一切の感情もうかがうことができない。


「攻撃は最大の防御という言葉を知っているか?」

「っ!!」


直後、数百の金の光の線が金ローブの少女の足元からまっすぐシルイトへとコンフィアンザのもとへ飛んでいく。

即座に感知したシルイトは攻撃に回していたイシルディンを含めほぼすべてのイシルディンを壁として設置した。

銀白色の壁が出来上がると同時に金の光線が壁にぶつかった。


「このままもつといいんだが」


シルイトが少し不安げにつぶやくがその心配はすぐに晴れることになる。

なぜなら金の光線がすぐに止んだからである。

銀白色の壁を取り払うとそこにはもう誰の姿も見えなかった。


「結局何の情報も得られないまま逃げられてしまったな」

「どうやら彼女は知覚や感覚、魔術での認識をほぼ百パーセントまで阻害できるようにしてから脱出したようですね」

「フィアンは奴らが誰かわかるか?」

「彼女の魔術の効果で認識不可能でした」

「釈然としないな。家の方は大丈夫か?」

「索敵魔術には引っかかっていませんが確認した方が良いと思います」

「そうだな。今日はもうアロガンシア討伐は諦めよう。一回家に帰ることにする」

「了解です」


なにか盗られたものはないか確認し、魔術の痕跡がまだ残っていないかも確認して宿を出た。

もちろん何の魔術の痕跡もなかったし何も盗られていなかった。


金ローブの少女が使っていた認識阻害魔術は戦闘を隠ぺいする役割も兼ねていたようで周囲が大騒ぎするということもなかった。

今から考えると同じように認識阻害されていたのであろう受付の宿の店員にしばらく戻らないかもしれないが部屋はそのままにするようにと告げて外に出た。

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