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銀白の錬金魔術師  作者: 月と胡蝶
第五章 決戦編
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オートマタと効率的に戦う方法

昨日と今日の二日連続で投稿しています。

山奥の寒村。少し都心から離れればいくらでもあるような寂れた村の一つにボモラ王子は拠点を構えていた。


貧しい畑と枯れかけた水源以外何もなかった村からは人が失せ、その穴を埋めるようにオートマタが歩き回るようになった。

物資の不足にもかかわらず村の周囲は堅い壁で覆われて、外敵の侵入を防いでいる。


「あの壁は何で出来ているのでしょう?」


コンフィアンザの見つめる先は村をぐるりと囲む壁。

その壁の周りを複数のオートマタが巡回している。


「確かに変だな。ボモラ王子にはオートマタ以外の物質は作れないはずなんだが」

「とりあえず近づいてみましょう」


あたりは月によって赤く照らされるのみで、どこも薄暗く隠れる場所は一見多く見える。

だが、オートマタは人間とは違うことを考慮に入れると、暗視が可能である場合も考えられる。行動には慎重を期さなければならない。


「ちょっと待て。とりあえずこの位置から地下を使って巡回中のオートマタを無力化していこう」

「了解です。イシルディン変換ですね」


シルイトは頷くと、イシルディンを地面に潜らせ始めた。

音が出ないように細心の注意を払いながら地下を掘り進めていく。

五十メートルほど離れたシルイトとオートマタの距離の、ちょうど中間辺りまできたとき、シルイトは違和感を感じた。


「ん?」

「どうされました、ますた?」

「今、何か堅いものにぶち当たった」


直後、爆音とともに壁の近くの地面が持ち上がり、中から十数体のオートマタが現れた。

持ち上がった地面はというと、中にいたオートマタが全て外に出た後、今度は下がっていき再び地面と一体化した。どうやら地面が変形して襲ってくることはないようで、攻撃力を持たない、ただの格納庫としての役割しか任されていないらしい。


中から出てきたオートマタはいずれも近接戦闘用のようで武器は持っていないのがわかる。

巡回していたオートマタの方を見てみると、音でこちらに気がついたらしく、銃器のようなものを構えてこちらを狙っている。

だが、シルイト達と銃を構えているオートマタの間に近接戦闘用のオートマタが立っているので、仲間に誤射する危険も考えて実際に撃つことはないだろう。


「魔力はまだ使えるか?」

「はい。問題ないです」

「俺もだ。やっぱりオートマタの研究をしておいてよかったな」


王城に残されていたオートマタを研究してわかったことはいくつかあるが、最大の発見はオートマタの動力に魔力も使われていたということだろう。

すなわち、ボモラ王子が神聖術で創っていたオートマタは全て錬魔術で稼働していることになる。

これはボモラ王子と戦う上で重要な要素だ。つまり、オートマタが動いている場所では魔力を自由に使えるということを意味する。


コンフィアンザもシルイトとは細かい意見交換をしていないものの、シルイトが研究をした後にもらったお下がりのオートマタを研究したため、仕組みについては理解している。


「じゃあ、フィアンはここでオートマタを殲滅してくれ」

「了解です」


もちろんシルイトはコンフィアンザをそのまま放り出すことはしない。

オートマタがこちらに向かって走り出した段階で、シルイトは一つの錬魔術兵器を作り始めていた。


「電磁砲型錬金魔術、ルクスリスですね。ありがたく使わせていただきます」

「ある程度のダメージには耐えられるように作ってあるから、安心してこき使ってくれ」

「わかりました」


すでに完成し、砲身の中で弾の充填も終わったルクスリスを背に、シルイトは横方向に走り出した。物陰を経由して居場所がバレないように進んでいく。

シルイトが走り始めてすぐにコンフィアンザがルクスリスの第一撃を放った。

もちろん殲滅の目的もあるが、敵の注意をシルイトに向けさせない狙いもあっただろう。

その攻撃によってコンフィアンザとの距離を十メートル以内にまで詰めていたオートマタが、弾道上にいた個体のみ綺麗に消失した。

すぐにオートマタがコンフィアンザに攻撃できる距離まで詰めてくる。


しかし、コンフィアンザは慌てることなくルクスリスの砲台についているもう一つのスイッチをおした。

すると、素早く砲身が変形して再び火を噴いた。今回は射程が約二メートル程度と短くて、その代わりにかなり広い範囲に拡散されたイシルディンが発射されている。

射程は短いものの、至近距離まで接近していた敵を倒すには十分であった。

そうしてコンフィアンザは近づいてきていた全てのオートマタを消失させた。



安定したコンフィアンザの戦いを見てほっとしたシルイトは、やがて村の壁の目の前までやってきた。

コンフィアンザが注意を引きつけているおかげで、壁の周りを巡回していた全てのオートマタはコンフィアンザの方に向かっている。


「よし」


一息ついたシルイトは、再びルクスリスの砲台を作り出す。口径はちょうど人が一人入れる位のサイズだ。

そして壁に向かって発射して、一人がちょうど行き来できる程度の穴が壁に開いた。

発射時には銀白色の光も発せられたのだが、近くにオートマタがいないおかげでバレずにすんでいる。


壁の内側にはたくさんの倉庫が作られていた。試しに近くの倉庫をのぞいてみると、中には大量のオートマタが立ったまま静止している。休止中のようで、シルイトがのぞいても動き出すことはなかった。おそらくは、セレネと戦うときに王都を強襲するためのオートマタなのだろうが、下手に動けば起動しかねないのも事実である。

周りを見渡してみると、少し先に他の建物よりも高い建造物があることがわかった。


「あそこが目的地かな」


壁内を巡回しているかもしれないオートマタを警戒しつつ、シルイトは急いだ。

幸いなことに、壁内のオートマタは全て地面を歩いて地上を警戒しているだけだったので、屋根伝いに移動することでオートマタに居場所を知られることなくボモラがいそうな高い建造物の近くまでやってきた。


その建物の出入り口では他の建物の数倍の人数のオートマタが守っていた。

建物全体が黒一色で塗りつぶされて、ある意味統一感のあるデザインとなっている。

よしんばボモラ王子がいなかったとしても、何らかの重要な役割を担っているに違いなかった。


「強襲するしかない、か?」


窓がない以上、空中から中に侵入することは出来ない。また、裏口も確認できなかったため、必然的にエントランスからの正面突破以外はないだろう。

転移能力を使えば簡単に入れるのかもしれないのだが、敵のど真ん中に出て全方位から攻撃される可能性もあるため、迂闊に使うことは出来ない。一方で、入り口から全ての敵を倒しつつ前に進めば、逃げる際に安心して後方に転移が出来る。


シルイトが身にまとう銀白色のローブに重量変化を付与させて、ふわりと無音で着地した。そのおかげかオートマタはまだシルイトの存在に気付いていない。

着地後、ローブに硬質化を付与させてオートマタが銃撃したときに身を守れるようにすると、右の腕を前に突き出した。握っていた手の人差し指だけを開き、オートマタに向ける。


「ルクスリス、発動」


直後、指くらいの太さの光り輝く線がシルイトの指から放たれて、オートマタの心臓の辺りに命中した。

シルイトの攻撃が命中したオートマタは一瞬で機能を停止し、その場に倒れた。


「やっぱり使えるな、これは」


シルイトが行使したのは電磁砲型錬金魔術ルクスリスの応用形である。

弾の径を指大まで小さくすることで、特殊な圧縮用の機械を作らずとも瞬時に発動できるよう改良されたものだ。

壁に穴を開けるときも、この応用型ルクスリスを使ったのだが、そのときは低威力に押さえていたため発光しなかったのである。


ネックだった発動時間も大幅に短縮されたため、一見欠点はないように見えるが、まず指さす必要があるし、そもそも弾の径が小さいため命中しても局所的にしかダメージが入らないのは考慮に入れなくてはいけない。

特にダメージが局所的になってしまうのは、元のルクスリスと比べるとかなりのディスアドバンテージとなってしまう。それを補うために、シルイトはオートマタの研究を行ったのだ。どんな兵器でも弱点に攻撃が命中すれば大ダメージを負うのは避けられない。シルイトはオートマタの弱点を探るためにサンプルを王城から回収したのである。


そうして判明したオートマタの弱点は、心臓の辺り。オートマタの心臓部分には、人間の脳と似た機関が搭載されており、これが失われたり、大ダメージを受けたりするとオートマタは活動を停止してしまうことがわかった。

ボモラ王子が新たな神聖術を授かるときも、心臓の辺りに月から飛んできた光が刺さったが、それとも何か関係があるのかもしれない。

ともかく、オートマタの心臓部分にルクスリスで風穴を開けてやるだけで簡単に処理できる、というのがシルイトが編み出したオートマタに対する対抗策である。


間近で仲間が倒れたにもかかわらず、人の心を持たないオートマタは動じることなく突進してくる。銃を持っているのを見ると、近距離戦しか出来ないわけではないはずである。もしかしたら距離をとると自分たちに不利になる武器を、こちらが持っていると考えたのかもしれない。

実際、今来ているオートマタの数は多く、一般に普及しているような銃だと装填に時間がかかるため、近距離戦に強引に持ち込まれてしまうだろう。そして、人よりも力があるオートマタにとっては近距離戦の方が遙かに優位に立てるだろう。


だが、ルクスリスに次弾装填の必要は無い。


シルイトは、今度も人差し指を襲ってくるオートマタのうち一番端の個体に向けると、指を横にスライドさせながらルクスリスを連続で発動させていった。

秒間に何十本ものまばゆい光線が放たれ、オートマタの心臓の辺りに次々と穴が開いていく。


数秒後には、その場にいたオートマタは全滅し、地面に折り重なるように倒れていた。


「フィアンの方はもうすぐ終わるか・・?」


壁の向こうから聞こえる爆発音に、コンフィアンザの戦いぶりを想像しながらシルイトは建物の中に入っていった。

次回は次の土曜日の零時に投稿します。

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