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銀白の錬金魔術師  作者: 月と胡蝶
第五章 決戦編
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閑話 古の大戦ーとある錬魔師の視点ー

この章の話は、全体的に文章量が多くなりがちで、平均して一話当たり千文字程度多くなりそうです。念のため書いておきます。

~古の大戦~


「もう、この世界はおしまいだ」


今俺の目の前に広がる景色は、見渡す限りの赤。

地面は血で赤黒く染まり、爆発によって生じた火炎は建物全てを鮮やかな赤に彩っている。

空では黒い雲が全てを覆い隠すように立ちこめていた。


建物よりも大きな獣が兵器として作られては、捨て駒の如く大量に戦場に送られては多くの敵兵の命を巻き添えにして死んでいく。


もはや何が原因だったかもわからなくなっているこの戦争は、恐らくどちらかの陣営が完全に壊滅するまで終わらない。

そして、両陣営とも戦力が拮抗しているだけに今後もずっと続いていくのだろう。

だからこそ、俺たちはこの戦争を力尽くでも止めなくてはならない。


「そんなこと言うなよ。アポストルズが一致団結して、お前が考えた作戦を実行すればなんとかなるんだろう?」


俺の隣にいるコイツは俺の考えに賛同してくれた人の一人だ。

俺もコイツもお互い敵国同士だが、だからこそ計画の遂行がより簡単になった。


アポストルズとはすなわち平和を運ぶ使者。俺たちの結束の証。


「確かに世界自体は救われるが、人類が築き上げてきたものの大半は失われてしまうんだぞ」


人類退化計画。自らをも滅ぼしかねない力を手に入れてしまった人類の技術レベルを大幅に引き下げるというもの。

具体的には、錬金魔術を錬金術と魔術に分けて決して交わることがないように調整する。

下手にいがみ合って錬金術と魔術で戦争が始まっては元も子もないので、その辺りは細心の注意が払われた。


結果的には人類を救うことにつながると思うが、その過程には多くの命や、人類が発展させてきた錬魔術の技術全てが消えることになる。


「それでも、このままだと遠からず全てが無に帰す。全部が失われるか、ある程度の技術と少しの人類が残るかなら、俺は後者を選ぶね」

「そう言ってくれると嬉しいよ」


一度下げた技術レベルが再び急発展しないよう、監視者を作り上げる。その監視者が常に地上を観測できるように天空に新たな大地、月を作る。

全ては秘密裏に進んでいき、もう最終段階まできた。


すなわち、錬金魔術を知っている人間を全員排除すること。


幸いなことに、多くの国では錬魔術の研究は国家の中枢でのみ行われている。これらはスパイに対する対抗措置で、一兵卒などは仕組みも知らずに引き金を引いていることも多い。

だから、全人類を殺す必要は無くなったわけだが、それでも今戦争をしている両陣営は壊滅させなくてはいけない。錬魔術の存在すら消す必要があるからだ。


俺とコイツはお互い錬魔術の研究に携わっていた。そんな二人が合わされば、両方の国の研究結果をまるごと生かすことが可能となる。

そのおかげで、月には恐らくこの世界最高威力となる高エネルギー砲を搭載することが出来た。

まずはこれを使用して、戦争中の二国を消滅させなくてはいけない。


「残った地上の人間への意識操作は?結局出来るのか?」

「ああ。錬金術か魔術、片方を先に学んでいればもう片方に対して激しい憎悪を抱くように設定した」

「ちゃんと、アポストルズのメンバーは対象外にしてるんだろうな」

「問題ない」


月はそれ自体が巨大な錬魔術の装置だ。兵器でもあるが、同時に観測装置でもあり、錬魔術を思いつきそうな人間を事前に排除するための駒を用意する装置でもある。

駒の用意というのは、異世界から人とエネルギーを呼び出すことである。これにより錬魔術を身につけてしまった人間をより効率的に排除することが可能となるだろう。戦争中の二つの国を滅ぼすためのエネルギーも異世界から持ってきている。


不思議なことに、多くの国では異世界の研究はタブーとされているようで、特に戦争中の二国は軍事研究にばかり重きを置いている。

もし異世界の研究をやっていれば、さらに強力な兵器が誕生していたかもしれない。まさに急がば回れだ。


「子供の時にちらっと錬金術の本を見ただけで、魔術が使えなくなったりはしないだろうな?」

「ちゃんと対策は考えてあるさ」


憎悪を呼び覚ます装置が実際に効果を発揮するのは生まれて十八年経ってからに設定してある。

もっとも、親はもう片方の技術に対して憎悪を抱くだろうから、その子供も悪いイメージしか抱くことはないだろう。


「なら、いいけど」

「さあ、無駄口叩いてないで、錬魔師を全員殺しに行くぞ」


今、戦争をしている二国が練魔術の最たる国だが、他にも密かに練魔術の研究をしている場所もある。そうしたところを一つ一つ潰していかなくてはいけない。


「やるか」


~~


全ては終わった。


さっきまで見ていた赤色の中に今は俺もいる。俺自身も赤く染まっていることだろう。


月からの砲撃は問題なく実行された。

世界の裏側まで聞こえそうな爆音とともに、両陣営の国土全体が火の海に包まれた。おそらくそこに住んでいた人々は悲鳴を上げる間も、痛みを感じる間もなく消失しただろう。


そして他の国の錬魔師も全員排除した。


「俺たちは、やりきったんだよな」

「ああ、これでもう戦いはなくなる。人類は約千年前の技術を手に、新たな道を歩み始めるんだ」


すでに監視者の起動も終わっている。最初の仕事も設定済みだ。

異世界から大量の駒を呼び寄せて、この戦場の上に新たな大地を築き上げる。そうして錬金魔術の痕跡すら消して、新たな平和な世界を生み出す。


「俺たちは、正しかったんだろうか」

「それを決めるのは後の世の人だろう。といっても、俺たちの存在が歴史に残ることはないだろうが」


歴史に残らないのは俺にとっては救いだった。恐らく俺は歴史上、もっとも多く人殺しをした人間だろうから。

たとえそれが自らの正義のためだとはいえ許されることではないのはわかっている。

月の監視者の創造も倫理的に限りなくアウトに近い。生命の創造は技術としては昔のものだが、人を創造するとなると、倫理的な問題から実際に行われている例は少ないと聞く。


月には任意の相手に任意の能力を一つ付与する装置が組み込まれている。

エネルギーは全て異世界由来なので、月で新たに生成する必要は無い。だが、能力を一人に二つ以上付与すると、月に高い負荷がかかって赤化してしまう危険性がある。赤化したからといって、月の機能にすぐに異常が発生するわけではないが、月には何かがあると悟られないためには注意しなければならない。

そうした月の異常が起こらないよう管理するために監視者、ティルスクエルが作られたわけだ。


一つ心配なことがあるとすれば、そのティルスクエルのことだろう。

賢いと反乱を起こされると思って知能を下げてしまったが、命令には忠実に動いてくれることを祈るばかりだ。


そして遠い未来、もし錬魔術が戦闘の道具として普及しそうになったそのときには、どんな手を使ってでも止めて欲しい。


あとはティルスクエルと、地上で人類を導くアポストルズに託そう。




~現在~


その後、戦争で作られた獣は神獣と呼ばれ、危険指定を倒して生計を立てるトレーダー達のロマンや畏怖の存在となって語り継がれている。

一方で錬金魔術は影も形もなくなり、移動手段も車はなくなり馬が主に使われるようになった。


月で異世界からたくさん人を呼んだせいか、自然発生的に異世界から人がやってくることもあるが、それらも堕ち人と呼ばれて俺たちの駒が人間社会に溶け込むのに貢献している。

錬金術と魔術はお互いにいがみ合ってはいるが、戦争をするほどの余裕はなくなった。


ほとんど全ては俺の考えたシナリオ通りに進んでいった。

ただ、ティルスクエルの知能だけは設定をミスしてしまったかもしれない。


ティルスクエルの一回のミスのせいでシルイト・ウィスタームは錬金魔術を身につけてしまい、結果的に浮島限定ではあるが普及することにつながっている。


そもそも、浮島の存在自体ティルスクエルのミスによるものだな。呼んできた異世界人には能力を与える前に思考を操作しろと生前にあれだけ言明したのに、ティルスクエルは恐らく忘れてしまったのだろう。それにしても、月の一部をまるごと切り離されるとは。

最初はティルスクエルへの良い教訓になるかと思ったが、どうやらそれすらも忘れているようだし。


アポストルズも、錬金魔術を意図的に後生に伝えなかったせいで、危険性までもが忘れられている。

もっとも、アポストルズの方はシルイトと行動理念が違うから、錬金魔術を習得してしまっても大きな問題とはならないだろう。積極的に広めることは阻止する必要があるが、アポストルズ内の錬魔師を殺す必要は無い。むしろ世界の平和のために活用してくれそうだ。


だが、問題のシルイトは、とうとうティルスクエルよりも性能の高い人間を作り上げてしまった。これは俺が生きていた頃でも行われなかった技術だ。

浮島の本当の機能に彼らが気付く前に、シルイトを葬り去らなければならないのだが、もはや体もなく、この世界を見守ることしか出来ない俺にはどうすることも出来ない。


ティルスクエルはこの事態を収拾する義務がある。



ティルスクエルよ、彼を殺せ。それがお前の存在する理由だ。



ーー


「ん?」

「どうした、ティルスクエル?」

「今何かビビッときたのじゃが・・。気のせいか」

「? なんともないなら、ボモラ王子の能力を止めることは出来ないか?」

「それは無理じゃな。代わりに、能力の詳細については教えてやろう」


シルイトは気付かなかったが、ティルスクエルの目は今まではなかったはずの深い知性を携えていた。


別に、ティルスクエルが今まで知性ゼロだったわけではないですよ?


書き溜めが出来てきたので、次回は明日、日曜日の零時に投稿します。


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