表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀白の錬金魔術師  作者: 月と胡蝶
第四章 赤い月編
61/87

帰還 その2

その後は特に強敵と遭遇することもなく無事に王都へとたどり着いた。シルイトは密かに行きに襲ってきた人影が再び現れるのではないかと警戒していたが、現れることはなかった。


王都に到着してすぐにリクトはシルイト達に別れを告げた。リクトはシルイトがファナティスの嫌疑を晴らしてすぐに連れてきたため、ファナティスからすると自分の嫌疑やリクトの行方を心配しているはずだからである。

シルイトもわかっているようで、すんなりとリクトを解放した。あるいはリクトは用済みであるからかもしれない。ただし、今回の魔境への旅で見聞きしたことを絶対に漏らさないと誓いを立てさせている。


リクトを見送った後に王都に残る目的地は王城だけである。王城に着いた後、自らの名前を衛兵に告げて謁見を申し込むと、すぐに扉が開いてセレネ女王自らが飛び出してきた。

中にいた衛兵がセレネを止めようと慌てて飛び出してくる。


「シルイト!御無事でしたか。なによりです」

「いえ、セレネこそお元気そうですね」


シルイトの言葉が、衛兵に押さえられながら外に出た今の自分の状態も指していることに気がついたセレネは顔を赤くしながら周りの衛兵に説明をした。

説明を受けた衛兵達が次々とセレネの周りから離れていく。後にはセレネとシルイト、コンフィアンザだけが残された。


「見苦しいところをお見せしました。応接室へ案内しますのでそちらでお話ししましょう」


そう言って歩き始めようとするセレネをシルイトが呼び止めた。


「えっと、ここには生存報告として立ち寄っただけでして、すぐにウィスターム邸へ戻る必要があるんです」


シルイトはウィスターム邸の他にブラッキーやゴールディアンが戻っている浮島にも立ち寄るつもりだったが、わざわざ本当のことを話す必要も無い。そもそも浮島の存在はブラッキー達が所属していたアポストルズのメンバーとシルイトとコンフィアンザしか知らない。

一方で、シルイトの言葉を聞いたセレネは少しがっかりとした表情を見せた。


「そうですか、少し残念です」

「すいません。それで、一つお聞きしたいことがあるんですが」

「何でしょう?」

「ボモラ王子が使役していたオートマタ、機械人形はまだありますか?」


シルイトが今回王城を訪れた最大の理由がコレである。


「ああ、あの人と戦うためですね。技術開発のために保存するよう言っておいたのでどこかにあると思いますが」


その後、セレネは近くの衛兵にオートマタの居場所を聞いていた。

シルイトがオートマタを欲する理由はもちろんボモラ王子に対する有効な対抗策を考えるためである。ボモラ王子の主な能力は魔力の消去とオートマタの作成だけなので、その二つを封じる作戦を考えつけば負ける心配は無くなる。

コンフィアンザも自身の実験で使いたいようなので、ボモラ王子の対抗策を考えついた後はコンフィアンザに譲るつもりであった。

しばらくしてオートマタの管理を担当しているという責任者が現れた。


「また暴れ出すとも限らないので地下の牢に置いてあります。これから案内しますよ」


着いてこようとするセレネを執務に戻らせて、シルイト達は地下へと向かった。

地下には一体のオートマタが首がねじ切れた状態で横たわっていた。


「これをもらっていってもいいか?」

「女王様からお話は聞いております。どうぞ役立ててください」

「ありがとう。有効的に使わせてもらうよ」


戦闘時にボモラ王子が使役していたのは二体だが、一体はシルイトが体のほぼ全てをイシルディンに変換してしまったので、現物として残っているものはコンフィアンザと対峙した一体のみである。


その後、セレネにも礼を言った後、二人はウィスターム邸へと足を向けた。


歩く先はウィスターム邸だが、最初に訪れるのはウィスターム邸ではなく、浮島である。

王都を離れ、ウィスターム邸を囲む森に入った二人は、辺りに人目がなくなったことを確認してイシルディン製の翼が生えた椅子にそれぞれ座った。この椅子はどちらもシルイトがその場で創ったものである。

二人が座ると、二つの椅子が同じ周期で翼を上下に動かし始めた。翼は鳥の羽毛のような立体的な装飾が施されており、遠目には大きい鳥が飛んでいるようにしか見えないようになっている。もっとも、今の椅子は真上に向かって進んでいるため見る人が見れば鳥ではないとバレてしまうかもしれない。そういう理由もあって、人目が少ないウィスターム邸の周りの森まで来たのである。


バサバサと翼を羽ばたかせながら椅子はゆっくりと空へ昇っていく。

しばらく上昇していると、浮島の底面がぼんやりと見えてきた。はっきり見えない理由はと言うと、浮島全体、正確には下部の全体に常に認識を阻害する魔術がかけられているからである。地上からは普通の空を見ているのとまったく変わらない景色に見えており、たとえ何らかの方法で浮島に接近したとしても、そこに何かがあると決めて凝視しない限りは、ほとんどの場合空気が揺らいでいるだけと勘違いするという寸法である。

ただ、島の上面には認識を阻害する技術はつかわれていないため、島の上面まで上昇すると一瞬でバレてしまうため注意が必要である。もちろんそんな高度まで上昇してくる人が現れることは滅多にないが、もし部外者が浮島と同程度の高度まで上がろうとしていたら、突風を吹かせたり遠距離から動力部を破壊するなどして上昇を阻止することが予定されている。


ぼんやりと考え事をしているシルイトを載せた椅子はやがて浮島の上に降り立った。


「シルイト君、お帰り。もっと早く帰ってくると思っていたわ」

「おかえり、ぎんいろ。にんぎょうもおかえり」

「た、ただいま?」


ブラッキー達の出迎えにはてなマーク混じりに答えるシルイト。


「この浮島はもうシルイト君の家と思って構わないのよ」

「ああ、そういう理屈ね」

「もうボモラ王子はシルイト君がウィスターム家の人間だって気づいているようだし、地上のウィスターム邸はしばらく使わない方がいいかもね」


確かに、シルイトはボモラ王子と相対したとき自分がウィスターム家の人間であることを明かしてしまっている。下手にウィスターム邸に滞在していると、家をめがけて何らかの攻撃がなされる可能性もある。ボモラ王子を倒すまでは浮島を利用するのは理にかなっていた。

シルイトがブラッキーの提案に頷こうとしたそのとき、コンフィアンザが間に割って入った。


「少し待ってください!」

「どうしたんだ、急に?」

「あのティルスクエルからもらったものを使って実験をしたかったのですが、ウィスターム邸が使えないとなると実験に支障が出てしまいます」


コンフィアンザはシルイトから与えられたウィスターム邸の一室を使って実験をしている。シルイトにとってはコンフィアンザが何の実験をしているのかわからないため、時間が経つと測定不能になってしまうものだった場合に取り返しが付かなくなる可能性もある。かといって、実験の内容をコンフィアンザに直接聞いてみても秘密だと言われてしまい、放置してはだめかどうかもわからない状態だ。


結局シルイトはコンフィアンザの実験室を今まで通り使うことを許可した。


「ウィスターム邸の中に俺の能力で転移すればボモラ王子にも気付かれないだろう」

「他の人も転移できるんですか?」

「もちろん。そうじゃないと転移のたびに衣服が置いてかれて素っ裸みたいなことになっちゃうからね。さすがに無条件にとは行かないみたいだけど、ある程度の面積がふれあっていれば一緒に転移できるみたいだよ。早速行くかい?」

「はい、わざわざ私のためにありがとうございます。しかし、それならこの浮島に来るときも転移を使えば良かったのでは?」

「森の中だとどこに人目があるかわからないからね。転移の能力はできるだけ本番の戦闘までは隠しておきたいんだ」


浮島とウィスターム邸の内部を行き来するだけなら誰かにばれる心配も無い。存分に転移を使用できるというわけだ。

シルイトは説明を終えた後、コンフィアンザに近づいていき、ぎゅっと抱きしめた。


「ま、ますた!?」

「大丈夫だから、じっとしていて」


その後、シルイト達の足下に転移用の魔術陣が出現する。今回は、深海から戻るときよりも早いタイミングで魔術陣から光が放射された。

約一分後、行きと同じような魔術陣が現れ、今度はシルイトだけが再び浮島に戻ってきた。


「今のは?」

「その話もしたいから、とりあえず建物に入ろう」


ブラッキーはうなずき、自らの家へと案内した。ゴールディアンも無言でついていっている。


前来たときと同じ応接室に案内されたシルイトは、神域に行ったことやティルスクエルとのやりとりを説明した。

次回は来週の土曜日、零時に投稿します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ