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銀白の錬金魔術師  作者: 月と胡蝶
第四章 赤い月編
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帰還 その1

足下の魔術陣からものすごい光が出てきて思わず目をつむってしまったシルイトは、再び目を開けると自分が地上に戻っていることに気がついた。

辺りを見回してみると、コンフィアンザと、リクトの姿が目に入った。

コンフィアンザも数瞬前に地上に戻ったようで、シルイト達が急に現れたことに驚いたリクトが固まったまま動けていない。


「ますた、ご無事でしたか」

「ああ、問題ない。フィアンも大丈夫だったか?」

「はいっ」


シルイトに心配されたからか少し上機嫌になっているコンフィアンザを見て大丈夫そうだとほっと一息つく。

シルイトは、とりあえず未だに放心状態が続いているリクトに説明をすることにした。所々は端折りながらも、伝えておかないと話が通じない月の戻し方だけはきちんと説明した。また、転移の能力についても説明したが、神域を経由するというシステムについては触れていない。リクトは、シルイトが直接目的地に転移する能力を身につけたと考えているだろう。

一通りシルイトの説明が終わった後、ようやく落ち着いてきてシルイトの話も飲み込めたのかリクトが口を開いた。


「つまり、その転移能力を使えばボモラ王子のところまで一瞬で行けて、そいつを倒せれば赤い月も元に戻るってことか?」

「まあ、要約すればそうなるな」

「で、ボモラ王子の居場所は?」


辺りに沈黙が訪れた。


「まさか、どこにいるかわからないのか?」


シルイトはまだ口を閉ざしたままだ。あさっての方向を向いているようにも見える。

その姿に何かを感じたのか、再びリクトがシルイトを問い詰める。


「どこにいるのか聞かずに、転移の能力だけもらってきたのか?」


リクトがさらにシルイトを追求しようとしたそのとき、コンフィアンザが助け船を出した。


「これ以上ますたを問い詰めるのは止めてください。ますたにはきちんとお考えがあって、敢えてお聞きにならなかったに違いありません」


ですよね、ますた?とシルイトの方を見て首をかしげるコンフィアンザ。

その真面目な表情からは、本気でシルイトに考えがあってやったのだと信じているのか、リクトを黙らせるためにその場しのぎの嘘をついているだけなのかは判断できなかった。

シルイトがコンフィアンザの真意を推測していると、リクトがコンフィアンザの擁護に反論する形で言葉を発した。


「敢えて聞かないなんてあるわけ無いだろう。他に聞く当てがあるのかもしれないが、聞いておいて損はないはずだ。それなのに聞かなかったと言うことは単純に忘れていただけなんじゃないのか?」


リクトもリクトで自分の考えを決して曲げないという態度をとっている。リクトのさらなる発言でコンフィアンザが本格的に切れそうになったとき、やっとシルイトが口を開いた。すでにその時点でコンフィアンザの手はローブの下の銃に伸びており、取り出して相手に向けようとするのをシルイトが上から押さえる形となっている。


見る人が見ればいつもの光景だとわかるものだが、普段の二人のこうした様子を見ていない人からすると、まさか自分を撃とうとするのを止めている最中だとは思わないだろう。

それほどまでに二人のやりとりは自然な流れで行われていた。

そして、シルイトはコンフィアンザの腕を押さえながら発言している。


「考えが合ったか無かったかはどうでもいい。要は、神域に行って聞ければそれでいいんだろう?」


考えが合ったか無かったかについてはリクトとしては掘り下げたい話題ではあったのだが、あんまり追求しすぎると隣のフィア(リクトはまだ本名を知らない)に大変な目に遭わされることを感づき始めていたため、異を唱えることはなかった。おとなしく頷いて同意を示す。

そのリクトの姿を見てコンフィアンザも落ち着いてきたのか、シルイトの押さえる力に抗う形で銃を取り出そうとしていたのを止めて、シルイトに迷惑をかけたことを謝った。もっとも、シルイトからすれば、わりとよくあることなのでもう慣れてしまったといっても過言ではない。気にするなと一言返してリクトに向き直った。


「それで、さっき言ったよな。転移の能力をもらったって」

「そりゃ、そうだけど・・ってまさか!?」

「そう、そのまさかだ。俺は自分の能力を使うことで簡単に神域にもアクセスできるようになった」


いたずらっ子のような表情でにやっと笑いながらシルイトが話す。ある意味で重要な情報の一つを明かしてしまった訳だが、一方で転移能力を使って神域にも行けると言うことは、シルイトが使えるようになった転移能力が目的地に直接転移するタイプの能力であることを相手に印象づけることにもつながるだろう。


「そうか、確かに、神域に簡単に行けるのなら特に問題じゃあないな」


リクトもシルイトの説明に納得したのかシルイトに対する強気な態度が押さえられて少し落ち着いた様子となった。

神にいつでも会えるとなれば、わざわざ一辺に情報を聞き出す必要も無いということである。


「ボモラ王子の居場所はあとで聞くとして、今はとりあえず王都に戻ろう」

「王都ですか?」


コンフィアンザが聞いたのは、行き先がウィスターム邸ではないのかということである。確かに部外者であるリクトもいるが、リクトは一人で王都に帰らせればいいだけであり、シルイト達までついて行く必要は無いと考えたからだ。


「そうだよ。セレネにも帰還の報告をしないといけないしね。あと、ボモラ王子が使役していたオートマタも出来れば回収して分析したいし」

「なるほど、了解です」


王都に戻るに当たって、まずすべきことは、神域への転送装置を囲むように壁を作っていたイシルディンを回収、そしてシルイト達そっくりに変化していた人影の様子を確かめて、可能ならば回収か実態の調査をして消す作業が必要となる。

イシルディンの回収の方はつつがなく終わった。そもそもシルイトが自分で設置しているのだから当たり前である。


問題は人影の方だった。

シルイト達が転送装置の階段を下へと下っていくと、違和感はすぐに訪れた。


「あれ、ますた?確かここに捕獲してありましたよね」

「そのはずだが」


シルイト達の視線の先には本来人影を閉じ込めているはずの銀白色の箱、立方体は影も形もなく消え去っていた。

シルイトとコンフィアンザはお互い顔を見合わせた後、そろってリクトの方を向き直った。


「違う!俺は何もしてないぞ」


さっきシルイトを問い詰めるときは意気揚々としていたリクトだが、逆に自分が問い詰められる側に回ると完全に萎縮してしまっている。端から見ると、やましいことがあるように思えてならないが、コンフィアンザがリクトの言葉を肯定した。


「嘘はついていないようです」

「そ、そうだぞ!第一、今まで装置の周りには壁が出来ていたんだし、万が一閉じ込めた奴らを逃がそうと思ったって物理的に無理だよ」


思わぬコンフィアンザの援護に少し安心したらしく、段々と口が回るようになったリクト。

シルイトも、リクトの言葉はともかくとしてもコンフィアンザの言葉は信用しているので、リクトの仕業ではないと判断した。


「じゃあ一体誰の仕業なんだ?リクト、お前は何か見てないのか?」

「いや、特に何も見てないよ。もしかしたら魔獣か何かが通ったときに蹴飛ばしたりしたんじゃないか?」


リクトが出したアイデアに、シルイトは首を横に振ることで返事をした。


「あの箱はそんなことでは動かないように細工もしてあったんだ。それに、人間並の知能を持って、堕ち人並みの特殊な能力でも無いと回収できないような材質で出来ている」


イシルディンとは動かすことが出来る金属である。そして、イシルディン同士をつなぎ合わせれば、それは一つの金属の塊として認識される。すなわち完全に合体するということだ。

人影を捉えた箱も同様にして作っており、継ぎ目も金属的に弱い部分もないため、並の剣や魔術、錬金術では金属の箱を破壊するどころか、箱ごと持ち去ることも出来ない。

元々箱が置いてあったはずの地面をよく見てみると、どこに置いてあったかわからないくらい完全に痕跡が消されていた。明らかに人為的なものである。

しばらく無言で考えた後、シルイトは口を開いた。


「まあ、考えていても仕方が無いな。もし敵でもう一度襲ってくるようなら返り討ちにすればいいだけの話だし、敵でないならなおさら気にする必要は無いだろう」


何かモヤモヤとしたものを感じつつもシルイト達は王都への道を進んだ。

一応補足しておくとセレネは女王の名前です。


次回は来週の土曜日、零時に投稿します。

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