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銀白の錬金魔術師  作者: 月と胡蝶
第四章 赤い月編
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パルテとイレハ、そしてリクト


シルイトによると、パルテは錬金学園の先進技術学、イレハは応用錬金学で准教授をやっているようだ。

リクトの方はおそらくギルドの方にいるだろうということで後回しにしている。

錬金学園という屋根のある建物に入ったものの、シルイトの指輪は依然として痛みを与え続けていた。どうやら赤い光に当たらないからといって痛みがなくなるわけではないらしい。


受付で自分が学園で使っていた名前を告げると、すぐに二人との面会の許可が下りた。

二人とも応接室に来てくれるとのことだったので、まっすぐ応接室に向かうシルイト。

応接室に入ると、ついさっき面会の許可を出したはずの二人が既に応接室で待機していた。


「お久しぶりです、ワイバー殿」

「ああ、久しぶり」


親しげに話しかけてくる二人を見て、まずは家名は名乗らないまでもシルイトという名前くらいは教えてあげようと思ったシルイトである。

コンフィアンザに対しては二人とも挨拶する気がないようで、コンフィアンザの方も二人に対して挨拶する気がないようだった。


「それで、今日はどのような御用事でこちらにいらしたんですか?」

「もしかして、さっきからの赤い月夜と何か関係が?」

「そうだよ。さすがにわかるか」


二人の理解力に笑みを浮かべたシルイトはボモラ王子の行動をざっと説明した。ついでに自分のことはシルイトと呼んでほしいとも説明した。


「なるほど、そうして赤い月が出現したと」

「そうなんだ。そしてここからが問題なんだけど、どうやれば月を元に戻せると思う?」


パルテとイレハはお互いに顔を見合わせたが、すぐに答えた。


「その、神様とやらとお会いになるのが一番だと思います」


シルイトがやはりそうかといった表情を見せたので、パルテとイレハは少し不思議そうな顔をした。


「実は王女・・いや、今は女王か。女王にも同じようなことを言われてね」

「そうでしたか。では、ここへは女王様の考えが正しいかどうかを確かめにいらしたのですか?」

「それもある。だけどそれだけじゃない。どうすれば神のもとへ行けるのか知っていないかと思ったんだよ」


それを聞いた二人は少し困ったような顔をして再びお互いに顔を見合わせた。


「残念ですが私たちはわかりません。ですが、似たような内容が記述されていそうな古文書をお貸ししましょう。今から探してきますので少しお待ちを」

「ありがとう。助かるよ」


パルテとイレハの二人は席を立つと書庫へと向かった。

少しした後、二人が帰ってきた。

想像よりもかなり早く本を持ってきたため、どうしたのか聞いてみると、どうやら学園の職員を総動員させて捜索したらしい。


二人が持ってきた本は二冊。

一冊は空に浮かぶ星について記述された本。

もう一冊は堕ち人について、複数の研究者が共同でまとめた本である。

いずれのテーマも、そもそも研究する人が少ないために本が少ないらしい。


そのまま本を持って行ってもらおうと考えていたパルテとイレハだったのだが、本を返しに戻るのが面倒くさく感じたシルイトは応接室で呼んでしまうことにした。

コンフィアンザには星について書かれた本、自分は堕ち人についての本といった風に分担して読むことにする。


その結果、いくつかの事実が判明した。


どちらの本も、目撃情報や証言から学者が考察をしているだけの、根拠のない内容となっていたのだが、今の状況に対して説明がつくこともいくつか記述されていた。

例えば、堕ち人がこの世界にやってくるときに空から堕ちるようにして現れたという目撃情報。

そして堕ち人の中に神様と会ったと証言する者の存在。

この二つを会わせて考えると、やはり神らしき人が星、それも月にいるようだと考察できるらしい。


ただ、現在の技術では月まで行くことはできない。

人が空を飛ぶためには魔術で風を起こすか、ドラゴンなどの翼を持つ生物に乗るしかない。

しかし、いずれの方法であっても限界飛行高度というものが存在する。

魔術で起こした風は、ある高さを超えると空気自体が薄くなって、揚力が生まれなくなってしまう。

ドラゴンならば、もっと高くまで飛べるのだろうが、今度は逆に人体がもたない。

空気が極端に薄いために呼吸ができなくなるのである。

この事実がわかって一瞬絶望的になったものの、実際問題として堕ち人は神と会って月から降りてきているようなので、何らかの方法はあるはずである。

少なくとも、月に何かがいるということは確定した。


シルイトはパルテとイレハにお礼を言うと、コンフィアンザを連れて学園を後にした。

次に向かうのはギルドである。


「どうやらリクトはそれなりに名の知れたトレーダーになってるらしいから、案外すぐに見つかると思うよ」


ギルドは学園と同じ王都の中にあるため、移動距離は少ない。

二人はギルドに到着すると、迷わず中へと入っていった。

今の二人は銀白色のローブを着ていないため、それほど目立つこともない。


中は、普段よりも大分混雑していた。

赤い月が出て普段はないような危険指定の討伐依頼でも出ているのではないかと集まっているようだ。

そんな、人を探すのに向いているとは言いがたい状況だったものの、シルイトの言葉通りリクトはすぐに見つけることができた。

リクトの周りだけ特別人が集まっていたからである。


「あれですね」

「あの人垣を超えるのは大変そうだけど、しょうがないね」


そう言いながら人垣を超えようとしていたシルイトだったが、コンフィアンザはそれを止めた。


「こちらへ呼べばいいんですよ。わざわざ私たちが行く必要はありません」


そして、シルイトが止める間もなく大きな声を発した。


「リクト・ユーガミネさん。あなたと面識があるシルウィス・ワイバー様がお聞きしたいことがあるそうです」


当然のように、場はしんと静まりかえってギルドの中にいた人のほぼ全員がシルイトたちの方を見た。

恥ずかしさでいたたまれない気持ちになっているシルイトとは対照的に、コンフィアンザは堂々とした様子でリクトの方を見ている。

そんな気まずい雰囲気を破ったのはリクトだった。


「おや、お久しぶり。お二方とも。ここでは何だし、少し場所を移動しようか」


笑顔でこちらに話しかけてくるリクトからは昔のような憎悪は全く感じられなかった。



着いた場所はまたしても応接室。といっても、今回はもちろん学園の応接室ではなく、ギルドに備え付けられている応接室である。

普通はギルドマスターなどのお偉方が、同じようなお偉方と会談する際に使われる部屋なのだが、そんな部屋をリクトがつかえるというのはリクトがギルドにおいてそれ相応の地位を築いていることの証明だろう。

シルイトもギルドの応接室が上流階級の人しか使わないということを知っていたため、リクトが出世したことがわかった。リクトにもシルイトたちに伝えたいという意図があったのだろう。

上流階級と聞いて、中はどれだけ豪華に作られているのだろうとシルイトは考えていたのだが、想像とは裏腹に学園のそれと大して変わらなかった。


リクトはシルイトたちを応接室のソファーに座らせると、ローテーブルを挟んだ反対側のソファーに腰掛けた。


「まずは久しぶり」

「そうだな、一年ぶりくらいじゃないか?」

「卒業後は一回も会ってないからね」


最初は他愛もない世間話をする二人。コンフィアンザがこの会話に入っていくことはない。

二人の間の空気が和やかなものになってきた段階で、シルイトは本題に入ることにした。


「それで、今日リクトに会いに来た理由なんだが・・」

「何か聞きたいことがあるらしいね?」


そこで初めてリクトの目がコンフィアンザに移った。しかし、それもすぐシルイトに戻った。

リクトに見つめられたシルイトはコホンと咳払いをした後、表情を真剣なものにして口を開いた。


「神様に会ったことはないか?」


その言葉にリクトの目が見開かれる。どう見ても心当たりがあるような様子であった。


次回は来週の土曜日零時に投稿します。

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