女王とコンフィアンザ
ゴールデンウィークも忙しかった・・。
「神様にお会いしてはいかがでしょうか?」
先のボモラ王子の発言からすると、一連の事件の黒幕は全て同一の人物、神のような存在であることがはっきりした。
つまり、その神を押さえればボモラ王子の行動も制限可能だろうという計画である。
セレネ王女はまだシルイトの錬金魔術について知らないため、一連の戦闘は全て魔術によるものだと考えている。
そのため、魔力を消去するという異能を手にしたボモラ王子と直接対決するのは避けるのが望ましいと考えたのだ。
「いい案ですが、どうやるんですか?」
突然の王女の提案に驚きはしたものの、実際に神とやらと交渉できれば今後の戦闘においてもかなり有利に進められるのではないかとシルイトは考えた。
現時点でも一応戦闘することは可能である。
銃弾も魔力を使わないものを作ればきちんと飛ぶだろうし、ルクスリスによる電磁砲も一度発動してしまえばただの光速で飛ぶ金属粒子に過ぎないので魔力は関係ない。
ただ、イシルディンによる直接攻撃は効かなくなるし、コンフィアンザの行動もかなり制限されてしまう。また、指輪の痛みをなんとかしなければ戦闘に集中するのも難しそうだ。
諸々を鑑みると、王子に異能を授けた張本人と交渉するのが一番効率的なのである。
だからこそシルイトもうなずいた上でやり方を聞いたのだが、王女にとってはシルイトがやり方を知らないのが意外だったようだ。
「あら、ウィスターム家の方は知ってらっしゃるとお父様から聞いたんですが・・」
自分の家がそんなわけのわからない存在と会うことができたとはにわかには信じられないシルイトだったが、何も手掛かりがないよりはまだましだと思いなおした。
だが、仮に事実であったとしても今のシルイトがそれを知っている道理もない。
「幼いころに一家は全員死んでしまいましたからね」
もしかしたら神はこうなることを見越して一家の殺害を命令したのかもしれない、とシルイトは神の先見の明にうすら寒い思いを抱きながらもそう答えた。
「っ!すいません・・」
意図せずにシルイトのトラウマをよみがえらせてしまったのではないかと、慌てて王女は謝った。
「いいんですよ」
またしてもマスターの気分を害したと敵意を向けようとするコンフィアンザを手で制しているシルイト。
「とりあえず王女・・いえ、もう女王ですね。セレネ女王はこの件の後処理をするのでしょう?」
「ええ、そうなります」
「では、俺達は一度家に戻って調べてみることにします」
具体的なやり方こそわからなかったものの、手掛かりはウィスターム邸にあることははっきりわかった。
家に戻れば何かのヒントがわかるかもしれない。
ただ、シルイトはすぐにウィスターム邸に戻ろうとはしなかった。
「この、指輪とれないんですけど・・」
「え、本当ですか!?」
さっきからずっと光り続けてシルイトの指に痛みを与え続けているこの指輪。外せばいいのだが、外そうとしてもまるで体の一部化のようにくっついており、ピクリとも動かない。
痛み自体は王子が去ってから少し軽減したものの、万全とは言いがたい状況である。
シルイトの言葉に女王もコンフィアンザも駆け寄ってきた。
「おかしいですね。その指輪、別に呪われているわけでもないんですが・・」
「やはりこの女は信頼できませんでしたっ」
暴走気味のコンフィアンザをまあまあとなだめるシルイト。
もちろん女王が悪いとは思っていない。もともと指輪をはめていたのは女王だったわけで、彼女が自分の指から外すところもこの目で見ているのだ。
女王が外したときと今で何かが違うとすれば、この赤い月だろう。
「やっぱり、先に神様をなんとかしないといけないですね。指輪はこちらでなんとかします」
「申し訳ありません!ご迷惑をおかけしました」
直接的な原因は女王にはないが、それでも自分が渡したものがシルイトの負担になっているのは申し訳ないのだろう。
「大丈夫ですよ。それじゃあ、俺たちはそろそろウィスターム邸に向かいます」
そう言って、軽く頭を下げるとシルイトは女王に背を向けた。
だが、背を向けたシルイトに女王が声をかけた。
「あの!!」
予想以上に大きくなってしまった声に恥ずかしくなってしまったのか、少し顔を赤らめている。
シルイトはその声に反応して足を止めて、こちらを振り返った。
「なんでしょう?」
「一連の騒動がひと段落したら一度そちらの邸宅に遊びに行ってもよろしいでしょうか?」
「いけません、ますた」
間髪入れずにコンフィアンザから否定の助言が入った。
「いいですよねっ!?」
それに対抗するかのように女王ももう一度問いかける。
二人の美少女に見つめられて一瞬たじろいだシルイトだが、既にシルイトの中では答えは出ている。
「いいですよ。いつでも来てください。歓迎します」
「そんなっ、ますたはだまされていますっ」
「こら、フィアン。あんまり女王陛下を悪く言うもんじゃないぞ」
シルイトがコンフィアンザの頭をポンポンと軽くたたきながら注意した。
それを見て、少しムッとなった女王がシルイトに対して一つ要求をした。
「シルイト様、私のことはどうかセレネとお呼びください」
一瞬ぽかんと口を開けてしまうシルイト。
「あの、だめ・・・でしょうか??」
首を傾けながら上目遣いでお願いされてはシルイトも断ることができない。
思わず首を上下に振ってしまった。
「ますた!?」
「ありがとうございます!!」
「ただし、セレネも俺のことはシルイトと呼んでください」
セレネもさっきのシルイトと同じように一瞬だけぽかんとしたものの、すぐに笑顔に戻って答えた。
「はい、よろこんで!!シルイト!」
そうして、シルイトとコンフィアンザは二人してウィスターム邸への帰路へ着いた。
ブラッキーとゴールディアンは一度浮き島に戻ると言って、先に帰っている。
そして、彼女らが帰っていった空は依然として黒に染まり、その中で赤い月が依然として妖しく地上を照らしている。
まっすぐ王都の外のウィスターム邸に向かうかと思われた二人だったのだが、予想とは裏腹に二人の足は錬金学園へと向かっていた。
「王都の外へはこちらの道の方が近いと思われますが・・?」
コンフィアンザはそのことに違和感を覚え、シルイトに尋ねることにした。
「そうだね」
「何の用事でしょうか?」
コンフィアンザが疑問を抱くのも当然のことである。
空が暗いままだと農作物にも影響が出かねないし、今後も様々な悪影響が予想されるため、なるべく早く現状を打開する手掛かりを見つける必要があるからだ。
だが、シルイトは
「これも必要なことだから」
とだけ言って先を急いだ。
着いたのは錬金学園。
「こんなところに今更なんの御用が?」
「会いたい人がいるんだ」
そこに恋愛的な意味合いを感じ取ったのかどうなのかはわからないが、シルイトの発言に間髪入れずにコンフィアンザが質問した。
「どなたでしょう?」
コンフィアンザの勢いに若干驚いたものの、すぐに落ち着いた様子で答えるシルイト。
「一人はフィアンも知っているリクトっていう堕ち人だよ。あとの二人はパルテとイレハっていう同期生で今はこの学園の准教授をやってる人だ。少し話を聞いてみようと思ってね。パルテとイレハは知ってる?」
「三人とも知っています」
リクトのことを覚えているのはシルイトも予想していたが、パルテとイレハに関してはシルイト自身に話しかけてくることは多かったものの、コンフィアンザと話している光景を見たことがなく、面識はほとんどないと考えていたため意外感を覚えた。
実際には、学園内でシルイトと話すことが多かったパルテとイレハに対して、コンフィアンザが嫉妬してひと騒動あったのだが、それはまた別の話。
パルテとイレハについては素性もわかるレベルで知っていたコンフィアンザだが、それでもひとつ知らなかったのは二人して錬金学園の准教授となっていた点だ。
シルイトと一緒に卒業した時点で既に二人に対する興味は失っていたので、その後彼らがどのような職業についたのかはコンフィアンザは全く知らない。
そのため、そんな細かいところまで調べているシルイトに対してさらに尊敬の念を抱くコンフィアンザだった。
書き溜めはあまり進みませんでしたが、するすると話が進んでいくので問題ないと思われます。ただ、校正する時間があまり取れてないので、どこかで一気に編集するかもしれません。
思ったより文量があるので、第五章まで行く可能性も出てきました。あるいはこの章の名前を変えるかも?
次回は次の土曜日、零時に投稿します。




