シルイト達の戦い その1
門の中に入ると、敵味方が入り乱れる乱戦模様が繰り広げられていた。
銃器を装備した遠距離攻撃部隊は、門を直接狙うために門の正面に配置されていたようで、シルイトのルクスリスであらかた消し飛んでいた。
残る兵のほとんどは剣と鎧しか持たない一般兵だったため、訓練だけではなく実際に危険指定とも戦うトレーダーに敵うわけもなかった。
敵がどんどん切り伏せられているのを見たシルイトは、任せて大丈夫そうだと考えて王城へと急いだ。
「ますた、少し止まって下さい」
もう少しで王城が見えるというときに、コンフィアンザが突然シルイト達を制止した。
「敵か?」
「はい、正面をふさぐ敵が約百と伏兵が二十ほどいます。倒しますか?」
「少し待て」
戦闘を始めて敵を全員倒すのも手の一つではあるのだが、今のシルイト達の任務はなるべく早くボモラ王子を捕獲することにある。
下手に警戒レベルを高めるような真似をしてしまうと、今後の戦闘がさらに大変になったり、王子に逃げられる可能性も出てくる。
「セレネ王女、王女は知っているけど王子は知らないような裏口ってありませんか?」
これは決して無茶ぶりではない。
女性しか使えない部屋というのは大きな城にはつきものなので、その延長線上で女性にしか知らされていない抜け道があるかもしれないと思ったのである。
王女は戦闘については二人に任せるというように何も言わずに二人のやり取りを見ていたのだが、シルイトの質問にすぐに返事をした。
「ありますよ。案内しますか?」
「お願いします」
一応、ローブに隠ぺいの効果が付与されているとはいえ、堂々と兵の前を通ってしまえばばれるのは必至である。
家と家の間や塀の上も駆使して人目に付きづらいルートをたどりながらシルイト達は進んだ。
「もしかして、セレネ王女・・」
シルイトが思わず聞いてしまったのは王女が城からの抜け道だけでなく、城から出た後のルートまで熟知していたからだ。
王女もその真意に気付いたようで、さほど時間を空けずに答えた。
「はい。定期的に城を抜け出してました・・」
呆れたような顔をしながらも、今回はそれが功を奏したとため息までは出さないシルイト。
数分程、そうして歩き続けると、一行は城の裏手にある小さな公園にたどり着いた。
「この公園の奥に私の部屋の廊下に繋がる抜け道があります」
セキュリティー上大丈夫かと心配になるが、それがなければ迅速に城に潜入することができないので感謝することにしたシルイト。
「ただ、案内する前に・・」
そう言うと、王女は自分の右手の薬指にはめていた指輪を取り出して、シルイトの左手の人差し指にはめた。
はめられた指輪を見ると、黒いリングに赤い蝶が載ったデザインで、比較的控えめなデザインとなっていた。
「これは・・?」
「王族に伝わるお守りのようなものです。これをはめていれば神のご加護で命だけは助かる・・という噂です」
「驚きました。王族は無神論者だと聞いていたので」
事実、王族は何か特定のものに肩入れするのは禁じられている。
それは宗教であっても同じことで、特定の宗教を優遇したり、競合している宗教を落としてしまうことにもつながるために、統治する王は無神論者が望ましいとされているのだ。
「本当に神かどうかはわかりませんよ?先祖の霊かもしれませんし」
一方で、王女は言い訳のように口をとがらせながら反論した。
「それはともかく、なぜこれを?」
「私の命はシルイト様が守ってくださるのでしょう?ならばシルイト様の命を守るものが必要です」
シルイトとて自分の命を犠牲にしてまで他人を守る気はないのだが、王女の有無を言わさぬような語気から拒否するのは容易ではないと感じた。
それよりも問題なのは、ここで押し問答をすることで時間を食ってしまうことだった。
「そうですね。とりあえず今は俺が預かります。王女の命はこんな指輪に頼らなくても俺が守ります」
その言葉に少し顔を赤らめながらも、王女は案内を始めた。
王女についていくと、以前城に潜入したときと同じような景色が見えてきた。
「ここから先は王城内部です。まずは謁見の間に向かいましょう。私が案内します」
謁見の間は城の主である国王が座る場所である。
王子の性格について詳しいわけではないが、王子が自らの王位を主張するなら謁見の間の玉座に座ることが一番効果的と考えるだろうと推測したのである。
謁見の間に近づくにつれてだんだんと兵の数が多くなってきた。
こちらに気付く前に首に即効性の睡眠薬を打ち込むことで排除していったのだが、とうとうそれだけでは対処しきれない人数となってしまった。
「謁見の間で正解だったようですね。この兵の数は異常だ」
「はい。しかし、どうやって潜入しましょう?今までのようにはいかないと思いますが」
「問題ありません。要は目くらましができればいいんです」
そう言うと、シルイトは兵たちが集まる謁見の間の扉の前へ向かって球状の物体を放り投げた。
兵もそれに気づき、何事かと上を向いたその時、その物体からとてつもなくまばゆい光が放たれた。
「なんだ!?敵襲か!?」
「敵はどこだ!?」
「ばか!それは味方だ!」
兵は完全に目がやられて敵と味方の区別もつかなくなっていた。
「今のうちに中に入りましょう」
「あの、今のは・・」
王女は光が放たれる直前、シルイトによって目をふさがれていたため目がやられないで済んでいる。
シルイトとコンフィアンザも同様に目をつむることで回避した。
「閃光弾と命名しています。強烈な光で敵の目をつぶします。ただ、タイミングが悪いと自分たちも目をやられるので運用には注意が必要ですが」
素早く説明したシルイトは、王女を連れて謁見の間の扉を開け、中へと足を踏み入れた。
正面には案の定、ボモラ王子が座っており、周りは王族を守護する親衛隊が護衛としてついていた。
「殺人、及び軍隊による不法占拠の罪でボモラ王子を拘束する」
特に拘束命令が出ているわけでもないし、そんな法律があるかもわからないのだが、こういうのは勢いが大事ということで堂々とシルイトが宣言した。
だが、大して動揺した様子もないボモラ王子は誰が入って来たか見定めるように視線を動かした。
「なんだ、セレネ王女とその連れか。君たちは負けたんだよ。退場したまえ」
王子はそう言うと、腕をクイッと動かした。
それが合図かのように数人を王子の周りに残して、他の親衛隊が全員こちらに向かって襲い掛かって来た。
次回は明日の零時に投稿します。




