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銀白の錬金魔術師  作者: 月と胡蝶
第三章 王位継承編
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戦端は開かれた


「どうしましょう」


王女にとっては予想外のことだったようで、おろおろとしながら部屋の中を行ったり来たりしている。

ここは壁外に作られた隠れ家的な王女の活動本部。

王女が王城内にいると危険だと感じたシルイトがまだ日が昇り切らないうちに王女をここまで連れて来たのである。

ここには何かあったらすぐに動けるようにアポストルズを含め様々な人たちが集っていた。


「まずは現在の状況を確認しましょう」


そう言ってシルイトは王女を含め、アポストルズの人々や親王女派で一緒に活動してくれている人たちに向けて説明を始めた。

現在、少なくとも壁内は王城を含めてすべて親王子派の貴族の私兵が占領している。

そのボモラ王子からカリガン国王が亡くなったという情報と共に、自らが次期王となるという宣言が発せられている。

ただ、王国の正規兵にはまだ情報が伝達されていないため、実際の敵はボモラ王子とそれを取り巻く貴族の私兵のみとなっている。

また、シルイト達のような王女の陣営も、一方的なボモラ王子からの宣言が信用に値するものではないとしているためボモラ王子を王と呼称することはないし、カリガン国王も前国王と呼称することはない。

ボモラ王子が次期王であるという宣言に対しては壁の内外から反発の声もあるものの、特に壁の内側では兵士が常に巡回しているため、大きな声をあげることはできていない。


「これは・・本当にどうするんですか?」


王女は状況に半ば絶望したのか顔を真っ青にして口を押えている。


「私兵をすべて倒すか、後ろ盾となっている貴族のもとへ赴いて交渉するか、王子を直接抑えるしかないでしょう」

「それって、結局私兵を倒さないといけないですよね」

「まあ、そうなります」


人殺しに忌避感を抱く王女とは対照的にシルイトを含めほとんどの人は血気盛んな様相を呈していた。


「心配ありません。俺たちが全て排除します」


王女は止めようとするものの、それにかぶせるようにしてコンフィアンザが言葉を発した。


「間接的ではありますが、ますたのご家族のかたき討ちともなりますね」

「そうかもしれないな」


場が敵の殲滅という一案にまとまりそうになっていたのだが、そこで王女が大きな声をあげた。


「皆さん、待ってください!!」


血気盛んだった場がしんと静まる。

大きな声をあげたことで少し恥ずかしくなったのか、若干顔を赤らめつつ、それでも毅然とした表情で言葉をつづけた。


「皆さんが兄の陣営の兵を武力で倒してしまったら私たちも兄と同じことをしていることになりませんか?」


その言葉に場が再びざわざわと騒ぎ出したが、シルイトは王女の問いを予測していたようで、冷静に返事をした。


「ボモラ王子は既に兵士を活用して王都、ひいては王国全体を武力で制圧しようと考えています」


王女も同意するかのようにうなずいた。


「つまり、このままでは俺たちが戦わなくても遠くない将来に武力衝突が発生します」

「そ、それは・・。でも私たちが戦わずに王になれば武力衝突もなくなると思います」

「もしそんなことが可能だったとしても、今度はボモラ王子が俺たちに反旗を翻すかのように兵を差し向けるでしょう。丁度カリガン国王にそうしたように」


王女はハッと思い出したかのような表情して手を口に当てた。

今は極めて重要な局面である。

今ならまだ王国の正規軍は王女の敵ではないし、貴族の私兵もほとんどが壁内を巡回しているため回り込まれる心配もない。


「どうか、ご決断を」

「・・・皆さん、先ほどは申し訳ありませんでした。私のために戦っていただけませんか?」


深々と頭を下げる王女を見て一瞬ぼうっとなってしまった支持者たちであったが、すぐに持ち直して口々に了承の意を表した。

王女は感動のあまり泣きそうになっているが、これだけは守ってほしいと一言付け加えた。


「兄はどうか生け捕りにしてください。父殺しの罪として正当な裁きを受けさせます」

「はい。任せてください」


力強く王女に返事したシルイトは、打ち合わせを始めた。


「まず、アポストルズの中で戦闘力が高い人は手をあげてください」


白いローブを身にまとった人々の三分の一くらいがバラバラと手をあげた。その中には律儀なことにブラッキーとゴールディアンもいた。


「それじゃあ、皆さんは戦闘に参加してもらいます。残りの人は、貴族の中でもどこの家が親王子派なのかを調べてください。方法は問いません」


異議はないようで、アポストルズの全員がうなずいた。

残るは一般の親王女派の人々だ。


「残っている人は俺たちについてくるのもいいですし、おまかせします」


シルイトがそう言うと、腕に覚えがある人が次々と前に出てきて戦う意思を表明した。

貴族が多い親王子派は、その貴族の私兵が戦力となるのだが、一般民衆が多い親王女派は普段から危険指定を討伐するトレーダーをやっている者も少なくないため意外と戦力は揃っている。


「俺が扉ごと壁内の敵を吹き飛ばすので、皆さんはその後に壁内に侵入して攻撃を開始してください。俺とコンフィアンザは王城に潜入してボモラ王子を捕獲します」


シルイトが自分の少し後ろにいたコンフィアンザを隣まで引っ張りながら指示を出した。

すると、今まで黙っていた王女が声を出した。


「あの、シルイト様が兄の捕縛に向かわれるのでしたら、私も連れて行っていただけないでしょうか?」

「なぜです?」

「私は汚いことをすべて他の人に任せて自分はずっと綺麗な場所にいるのが耐えられません。もし、私の味方が戦うというなら私も同じ場所に立ちたいです」


始めは王女の同行を断ろうとしたシルイトだったが、王女の何を言っても断固としてついて来ようとしている目を見て考えを変えた。


「かなり血生臭くなりますし、ご自身の命も保証しかねますがよろしいですか?」


シルイトは最後に試すような目で王女を見た。

もちろん、本当に王女が死ぬと戦う意味も無くなってしまうので、あくまでも脅しの意味合いが強い。

しかし、王女も逃げずにまっすぐシルイトの目を見て言った。


「覚悟はできています」






その後、シルイト達は壁の中と外をつなぐ扉の前へとたどり着いた。


「少し準備が必要なので、皆さん離れたところで待機していてください」


アポストルズを含め、全員がシルイトから離れて待機する。

それを横目で見ながらイシルディンを動かし始めたシルイトは、コンフィアンザに指示を出した。


「フィアン」

「なんでしょうか、ますた」

「扉の向こうにどれだけの敵がいるのか、偵察してくれ。ついでに民間人がいないかどうかも」

「了解です」


コンフィアンザはこくんと頷くと、大きく跳躍して民家の屋根に上った。

その後何処かへ駆けていってしまい、その姿は見えなくなってしまった。

やがて、シルイトが操るイシルディンが電磁砲ルクスリスの姿になり始めたあたりでコンフィアンザが帰還した。


「扉から約四十メートル先まで一本道の大通りが広がっており、その道には兵が門を警戒しながら配置されています」

「民間人は?」

「確認できませんでした」

「わかった、ありがとう」


コンフィアンザの頭を軽くなでて、シルイトは電磁砲型錬金魔術ルクスリスの調整へと取り掛かった。

出力を絞らずに発動してしまえば射線上のすべてを消し去ってしまうため、事前の調整は必須である。

今回は特に正面に王城がそびえているため、下手に撃つことはできない。

一分ほど経って、調整が完了したのかシルイトは待機している面々の方へ向き直った。


「準備が完了しました。これより、門を砲撃します。一撃で穴が開いて突入できるようになると思うので、ご自身のタイミングで突入してください」


説明を終え、ルクスリスの発動を開始する。


「電磁砲型錬金魔術ルクスリスを準備段階に移行」


すると、すぐに筐体が震え始め、砲身から煙が出始めた。

以前使ったものから既に改良を終えたルクスリスはかなりの効率化、高威力化が達成されている。


「スタンバイオーケーです」


砲台を点検していたコンフィアンザがシルイトに報告する。


「よし、ルクスリス、発動」


瞬間、まばゆいほどの光の束が砲身から生み出された。

その光の束は一瞬のうちに門を貫通して、四十メートル先までのすべての敵を文字通り消し去った。


「こ、これは一体・・・」


後ろで見ていた面々が動揺しているが、この状況では命取りである。

シルイトもわかっていたのか、すぐに発破をかけた。


「戦端は開かれた!王女のために戦え、同志たちよ!!」


ハッと我に返り全員が雄たけびを上げながら門の中へと突入していく。

たちまち生き残っていた私兵たちとの戦闘が始まった。


残ったのはシルイトとコンフィアンザ、そして王女。


「それじゃあ、俺達も向かいましょう」

「はい」


シルイトとコンフィアンザは持ち前の銀白色のローブを、王女もシルイトから借りたローブを身にまとい、隠蔽の効果を付与させたうえで門の中へと足を進めた。

次回は来週の土曜日の零時に更新します。

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