始まり
第三章に錬金学園での授業その3を投稿しました。
実際に投稿したのは先週の日曜日ですが、もしまだでしたらご覧ください。
シルイト達が決意してから約一年がたったある日、シルイト達は旅立つときとは真逆の顔色で実家であるウィスターム邸へと帰還していた。
「ここまで何の痕跡もないとは思いませんでした」
「そうだな。よくよく考えれば俺が昔捜索していた時に見つけられなかったんだから見つかるわけないのかもしれないし」
シルイトが落ち込んでいるのを察したコンフィアンザは慰めようと口を開いた。
「いえ、ますた。今回は私もいましたし、以前の捜査と比べてもいろんなことができるようになったと思います。なので無駄ではなかったと思います」
「ありがとう。フィアン。とりあえず散歩がてら王都をぶらぶらと歩きつつ、なけなしの情報を整理してみようか」
「了解です、ますた」
そうして二人は王都の街へと踏み出した。
「まず地味に大事なことは、騎士団が何の情報もつかんでないということだ。直接聞くだけでなくわざわざ潜り込んでデータベースをさらっても見つからなかったよな」
「はい。つまり、騎士団でも捉えられない何者かによる犯行、または騎士団がデータを消さざるを得ない権力の持ち主による犯行ですね」
打てば響くようなコンフィアンザの答えにシルイトは満足気にうなずいた。
「俺もそう思う。そして、裏社会に潜り込んだ時も何の情報も得られなかった。基本的にあそこは金さえ積めば必ず本当のことを言ってくれる場所だ。そうしないとやっていけないからな。それでも知らなかったということは・・」
「裏社会の人間による犯行ではない」
シルイトは再びうなずいた。
「そして実家にも痕跡はなかった。まあこれはある意味当然だろうが」
実際にシルイト達は例の事件後も錬金魔術の開発であの家を使い倒していたため、たとえ事件直後は痕跡があっても今まで残っていることはなかった。
二人は事件の犯人が相当な実力者か権力者であると結論づけた。
「そういえば、もう学園を卒業してから一年ほど経ちますし一度学園を見てみませんか?」
「確かに。なつかしさを味わってもいいかもしれないな」
急いては事を仕損じるという言葉や急がば回れなどの言葉もあるが、この時にシルイトがコンフィアンザの言葉に従ったことによって結果的に黒幕打倒への近道となるのであった。
学園へ向かうことになった二人は近道である裏路地へ入った。
もともと三年間通っていたこともあり、一年のブランクがあっても特に迷うこともなく学園の裏門へ着いた。
「お、タイミングがいいな」
ちょうど学園は卒業式。
裏門にも卒業式と書かれた看板が立てかけられており、多くの生徒が晴れ姿で会話している。
そんな中、一人だけ異質な存在がいた。
「ますた、あの人は・・」
「ああ、俺も見えた。尾行してみようか。隠密モードに移行しておけ」
「了解です」
学園に入学してからコンフィアンザは多くの隠密系のスキルを身に着けることになった。
例えば単純に足音を殺すものもあるし、あるいは相手の様子をよく観察してこちらが気づかれていないか確認するといった芸当も可能になった。
しかし、これらのスキルを一つ一つ指定して許可を出すのは面倒である、ということで新たに隠密モードを追加することになったのだ。
一方で今問題なのはシルイト達が観察している少女である。
他の卒業生と違ってかなり低い身長に腰まで伸びる金色の髪。
ここまで来たらもう見間違えではないのは確定なのだが、おかしいのは他の卒業生はまるで気が付かないのか彼女に声をかけることも目を向けることもなく他の卒業生との会話を続けている。
「あれは・・」
「認識阻害魔術を使っていますね」
「どうして俺たちは彼女を認識できると思う?」
「おそらくですが、魔術を行使したときにその場にいなかったからだと思われます。効果範囲が決まっているのでしょう」
最近ではコンフィアンザが状況を考察する場面が増えて来た。
元はといえばコンフィアンザの方がシルイトよりも頭の出来はいいので、ある意味当然の帰結といえよう。
ちなみにシルイトが金髪の少女の名前を呼ばないのは、名前を呼ぶことで反応する魔術を警戒しての措置だ。
コンフィアンザもわかっているようで、学園で使っていた名前も含め少女のことは三人称のみで呼んでいる。
二人がしばらく尾行を続けていると、金髪の少女はやがて大通りから外れて路地に入っていった。
少しの間狭い路地が続き、やがて大通りに戻ると思わずシルイトが声をあげた。
「これは・・・!」
「どうされましたか、ますた」
「壁の中だ」
シルイトに言われてあたりを見渡すコンフィアンザ。
やがてすぐにシルイトの言った意味がわかった。
「王族や超名門貴族のお屋敷がある場所ですね」
「ああ。俺の家がまだ貴族だったころはよく来ていたからすぐわかったよ」
そこで金髪少女を尾行していたことを思い出し慌てて少女が歩いていった方を見ると、まだそこまで距離が離れてはいなかった。
それを見て安心した二人は再び歩き始めた。
「となると、さっきの路地は壁の外と中を結ぶ非公式のルートということですね」
「だろうね。一つ気がかりなのは、あんな路地なんて騎士団がとうに見つけて塞いでいるはずってことなんだけど」
「ますたでさえ見つけられなかったのなら騎士団が見つけられるわけありません」
「まあ、俺がこの付近を歩けてた頃はまだまだ子供だったからね」
そこから少し歩くと、やがて少女は一つの大きな屋敷の中に入っていった。
「これは・・」
「エーゼン邸ですか」
エーゼンとは、シルイト達が学園入学前にウィスターム邸へちょっかいをかけて来た人物である。
張本人であるダルス・エーゼンは同じエーゼンの名を冠してはいるものの本家筋とは若干異なっており、本人は散財を重ねて借金も多かったようである。
「そういえば気になっていたことがある」
「何の発表もなかった件ですね」
その通りと言わんばかりにシルイトはうなずいた。
「確かに本家ではないが、一応あいつもエーゼン家の末裔だからね」
そこで会話に集中しすぎたと気付き少女が行った方を見ると、ちょうど家の中に入るところだった。
なぜ何の関係もない少女が勝手に貴族の家に入れるのかという当然沸き起こる疑問をすべて吹き飛ばしたのは少女が家の扉を開けたときだった。
「!!、今の・・」
「ああ、聞こえた。悲鳴だな。それに、あいつ・・・・家に入る前にこっちを見てなかったか?」
と、いうわけで覚えていた方はおりましたでしょうか?
私自身もダルス・エーゼンを再登場させる気はあまりなかったのですが、せっかくの今作初めての敵ということもありますので個人的にはもう一度存在感を発揮させられてよかったです。
次話は来週の土曜日の零時に投稿します。




