学園入学によって判明した事実
シルイトのブラッキーに対する口調を変更しました。
次話は予定通り今日の24時投稿です。
今年も荒れそうである。
と、思ったのはいつだっただろうか。
あれから何事もなく平和に時が過ぎた。
いや、何事もないというのは言い過ぎだ。正確には「結果的には何もなかった」というのが正しいだろう。
シルイトもブラッキーやゴールディアンの内情を探るよりも錬金術の学習へと意識をシフトしていきいつの間にか卒業となった。
パルテとイレハはあれから猛勉強するようになり目標は自分たちで新たな学校を作ることだと豪語するようになっていた。
リクトもあんなに強かった憎悪の念はどこへ行ったのかもっぱらファナティスと一緒に行動することが多くなっていた。シルイトが聞くところによるとトレーダーとしての活躍も多くなり容姿も相まって今ではシルイト達よりも有名になっているらしい。(顔が見えた方が話は伝わりやすいというものだ)
ブラッキーやゴールディアンともいろいろな事件があったがそれはまた別の話。
かくしてシルイトは錬金学園を卒業した。
まずはウィスターム邸へ戻ることになったシルイトとコンフィアンザは二人で学園を後にした。
「結局、オスカリダ先ぱ・・ブラッキーが私たちのことを襲撃させたのはなぜでしょうか?」
「ん?ああ、そうか。フィアンはあの場にいなかったんだったな」
理由を聞く際にシルイトとブラッキー、そしてゴールディアンまで巻き込んで一種のイベントがあったのだがそれはまた別の話。
「あれは、アポストルズが俺たちの安否を確かめようとしたからと聞いた」
「・・・おかしくないですか?」
「この話は本当だぞ。そもそも本当に襲いたければ直接殺しに来ればいいだけだからな。こっちの身元は割れてるわけだし」
「でも、ブラッキーに依頼されたって男は確実に私たちの命を狙いに来てましたよ。それにゴールディアンは入学前に私たちの宿を家探ししていたじゃないですか」
「なんでも俺たちがどうしてるか調べてこいって依頼したらしい。宿の方は、俺達が急激に力を付けた理由を探りたかったんだと。何か変なものに手を出しているんじゃないかってね」
「ゴールディアンの方はとりあえず納得しました。しかし、調査を依頼して殺そうとするのは飛躍しすぎだと思います」
「俺はあの男がリクトと同じように誰かに意識を操作されたんじゃないかとにらんでる。例えば依頼の内容を”生きてるか調査しろ、生きているなら殺せ”とかね」
「そんなこと誰が・・・もしかして何年か前にますたがおっしゃっていた女神という存在ですか?」
コンフィアンザの言葉にシルイトが軽くうなずく。
「状況的に似てはいると思う。本当に女神かどうかはわからないけどその存在は人の意識を簡単に書き換えることができてなおかつ俺達の命を狙っているらしいってことはわかる」
「なぜでしょうか、それにアポストルズは本当に敵対していないんですか?」
「アポストルズは俺たちの味方だよ。それは保証する。入学する前に金色が攻撃してきたときも致死威力にならないように調節していたというし、なんなら俺が命令したことは何でも従うって金色が言っていたからね」
少しコンフィアンザの顔が曇るがシルイトはスルーした。
「俺達の命を狙っている理由なんだが、錬金魔術なんじゃないかと考えてる」
「といいますと?」
「全員が錬金魔術を使えば今の生活水準は飛躍的に向上するはずなんだ。でもフィアンも授業を受けただろう?どうだった?」
「一年生の頃は魔術師をどう倒すか、魔術は何がダメかをひたすらやっていましたね」
「その通り。確かに長い慣習によるものも当然あるとは思うがそれ以上に魔術と錬金術を争わせて技術の発展を滞らせたい誰かの意思をはっきりと感じた」
幼少期での半ば洗脳的な教育は後の人格形成にそれなりに影響を及ぼすが、全員が全く同じ思想に染まることはほとんどない。
多くの場合は大人になって見分を広めていくうちに自分の考え方を見直すようになる。
だが、錬金学園の教師はそろって魔術に対する憎しみにも似た感情を持っていた。
それはもはや刷り込みといってもいいレベルで生徒と教師の間の魔術に対する感情にも温度差が生じていた。
そう、生徒は魔術に対してそれほど強い思いはなく精々錬金術のライバル的な位置づけをしていたのである。
「たぶんだけど、成人するなりで一定の年齢に達すると自分が学んでいない方の学問に対して強い憎悪を植えつけられるんじゃないかな」
ーちょうどリクトが俺に対して抱いていた憎悪のようにー
この言葉はシルイトの胸の中にしまわれた。
「だけど、俺達は魔術も錬金術も両方学んでしまった。誰かさんからすると俺たちはかなり都合の悪い人間ってわけだ」
「なるほど。だから命を狙ってきたわけですね」
「そうだと思う」
「では、心苦しいかもしれませんがあえて言いますが、ますたのご親族を殺害したのはいったい誰なのでしょう?結局王国騎士団の捜査もかいくぐって逃げおおせていますが、当時はまだ錬金魔術などといった技術は開発されていませんよね」
「そうなんだよな。だからこそ、これから誰が殺したのか。調べようと思う。なんならアポストルズの力も借りてね」
コンフィアンザが同意しようとすると思わぬ方向から妨害が入った。
「へぇ~、また犯人捜しするの?」
妨害してきた相手はブラッキー。
シルイトに敵ではないと言われたもののいまいち信用しきれないでいるコンフィアンザは若干の警戒心が残っていた。
「あ、オスカリダ先輩。聞いていたんですか」
「もうブラッキーでいいわよ。学園は卒業したわけだしね」
オスカリダとしての仮面はもう被っていないからか相変わらずのニタニタ笑いを続けている。
「わかった。ブラッキー、これでいいか?」
先輩でもなくなったということで敬語は解いたようである。
「うん、よろしい。それでそのウィスターム邸襲撃の犯人捜しだけど、こっちでも調べてみるわ」
「意外だな。そんなに簡単に引き受けるなんてなかった気もするが」
「あら、好きなように命令していいって言ってたんじゃないの?」
「そこから聞いてたのか・・・。まあ、それはいいとしても命令していいと言われたのは金色の方だ。ブラッキーはむしろいつも対価を要求してきたような・・」
「今回は私も興味があるからね。だから借りに思う必要はないわよ。それじゃあまたいつか会いましょうね」
言いたいことだけ言うとブラッキーは黒い煙となって消えていった。
「私、あの人苦手です」
「まあ、そう言うなって」
「ですが・・」
「そんなことより、これから大変だぞ。誰かもわからない人を探すんだから。とりあえず家をもう一回探してみて、その後は騎士団、あとは裏社会にもう一回潜ってもいいかもな」
シルイトの頭の中でどんどんスケジュールが組まれていく。
シルイトは希望で満ち溢れていた。しかしやる気とは裏腹に捜査は難航していた。
そして一年の時が過ぎた。 ~第三章 王位継承編に続く
と、いうわけで第二章はこれにて終了です。
次話からは第三章 王位継承編です。
三章では二章ほど時間が飛ぶことはありません。
二章に閑話を追加したときは同時に本編も投稿する予定なので本編の前書きか後書きで告知します。
四章の一話目は次の土曜日の零時に投稿します。
それでは今後ともよろしくお願いいたします。




