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銀白の錬金魔術師  作者: 月と胡蝶
第一章 ギルド編
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閑話 銀白色の暗躍ーとある男の視点ー


その男はただひたすら逃げていた。

若干小太りなその男を恐怖させている存在は二人。


一人は見たこともない銃を持ち寸分の狂いもなく正確に発砲する者。

一人は見たこともない銀白色のナニかを操り地面から自分たちの仲間を刺し殺していく者。


後ろから男が雇った護衛が放っているとみられる銃撃音が鳴り響くがどんどん音の数が少なくなっていく。

ややあって銃撃音は消えてしまった。

代わりに聞こえ始めたのは追跡者が男を追う音。


男は自分がどうしてこんな目に遭っているのかを考える。

今になって思えばあの依頼はとても不自然なものだった。


親族が皆殺しに遭った学園に通うくらいの年齢の子が当主を務める没落貴族の館を強襲させるのに大金を払うやつがどこにいるだろうか。

簡単な仕事で大金を手にできると息巻いていた当時の自分が恨めしい。

前金によって小金持ちになった俺は踊るように部下を集めにいき初めの強襲をした。

初めの強襲に失敗してから何度も部下を再結成させ襲わせた。

依頼不履行は認められず、逃げようとしても強要させられた。

前回より強い部下を集めるために少しずつ消費する金が増えていった。


そして、最初に強襲してから約一年後の今日、彼らがやってきたのだ。


もう何度とない敗北をし、もはや習慣と化している対策を練る作業に入っているといきなり緊急用の伝達魔術陣が光り始めた。

念のためと設置したものの全く使われずに薄くほこりをかぶっているような代物ではあるがその性能は王都で使われるものと同等以上を誇る。


そんな魔術陣からかなり切迫した護衛の声が聞こえて来た。


「二人組に襲撃を受けている!!」


荒事には慣れているその男は焦ることなく現状を護衛に尋ねる。


「そこで持ちこたえられそうか?」

「無理だ!こっちの攻撃は全部はじかれるし向こうは妙な遠距離魔術のようなものと変な銃を使ってくる!」


チッ無能どもめ、と男は心の中で毒づくがその行為自体に意味はない。

なぜなら今もなお魔術陣の向こうからは悲鳴が上がっているからだ。

銀白色という言葉が時折耳に入ってくる。

むしろ今はもっと襲撃者の情報を集めなくてはいけない。


「どんな攻撃だ?」

「一人が銃を撃つたびにこっちの人間が死んでいく!魔術を使ってる方は銀白色の・・ウギャァァァァァ!!!」


男は戦慄した。元々この緊急用の伝達魔術陣は護衛の中でも男が直々に選んだ精鋭の人間に渡している。

ゆえに簡単には死なないだろうと思っていたのだ。

しかし実際には連絡してからわずか数十秒。

この事実を受けてすでに男の頭は逃走に移ろうとしていた。


そんな男を魔術陣から聞こえて来た新たな男の声がわずかの間止める。


「ダルス・エーゼン、降伏しろ。度重なる強襲を指揮したお前の素性は割れている」


男は思った、なぜ自分の名前がばれているのかと。

普通ならそれで行動が慎重になるが極限状態に置かれているその男は違った。


これはブラフである。

こちらの戦う意思を削ごうと出まかせを言っている。


そう信じ込むことで逃亡という次なる行動へとより迅速に移ることになった。

契約書だけ手に持ち、ほかは魔術で部屋ごと燃やした。

これで証拠が残ることもないだろう。

そして証拠がなければこの場さえ逃れられれば処刑されることはない。


いまだに火が尽きていない作戦本部をしり目に万が一のために設定してあった脱出ルートへ全力で走る。

道中にまだ襲撃に気付いていない巡回中の護衛に声をかけ入口へ防衛に向かわせて時間稼ぎをする。

護衛が向かった先から銃声が聞こえてきたがそれもすぐに止んでしまった。

二人組の襲撃者が全て倒している。

そしてその襲撃者がもう自分のすぐ後ろにまで迫ってきたことに気付き現実逃避気味に軽く回想をしていたというわけだ。



回想を終えて後ろを振り向く。

男はすでに走ることを止めていた。

それは男が名前を知られたからではない。

逃げても無駄だということを悟ったからである。


襲撃者は二人とも普段目にしないような銀白色のフード付きのローブを身にまとっている。

そのせいか二人の顔まではよく見えないが自分たちが襲撃してきたあの家に連なるものだろうという推測は立つ。


「君たちか、私の護衛たちを殺しまわったのは」

「そりゃ愚問だよ、おっさん。こっちはあくまでも正当防衛さ」


二人の内こちらから見て左側が返事を返してきた。

声からして男だろう。

さっきの魔術陣から聞こえてきた声も同じ声だった。


もう一人の襲撃者は右手に拳銃を構えていた。

確かに、あれは見たことのないタイプの銃である。


「普通の人間二人ならあの量の護衛全員を倒すなんて普通は無理だと思うんだが」

「まあ、そこは企業秘密ってところだな」


さっきから喋っているのは左側の男だけである。

左側の男は少し調子に乗りやすい傾向がありそうだ。

彼一人ならおだてて何とか逃げのびることができる気がする。


問題は右側の奴だ。


さっきから一言もしゃべらずにただただ右手の銃をこちらに向けて構えているだけである。

そして何より危険なのが猛烈な殺気を放っているという点である。

左側の男からは微塵も感じられないためどちらもその異常さが際立っている。


かつて紛争地帯の傭兵と生活したことがあったが彼が放っていた殺気よりも何倍も濃密だ。

恐らくこちらが少しでも反撃しようとすればあの銃が撃ちこまれるだろう。


「それで一つ聞きたいことがあるんだよ、ダルス・エーゼン」

「そんな名前は知らないが何のことかな?」

「おや?俺はただダルス・エーゼンって言っただけだけど?まあいいや、とにかく俺が聞きたいのはあんたの黒幕が誰かを教えてほしいってことなんだ」

「無理だと言ったら?」

「そんな仮定は存在しない」


正直少し迷った。

俺に依頼してきたやつの名前を言うのは簡単だ。

でもここでその名前を言っても二人が助けてくれる保証はない。

むしろ用済みとしてすぐ処理されるだろう。

それよりはここであえて黙秘することで捕虜のような待遇を受けられるかもしれない。


「無理だ」


答えは短く簡潔だ。

だがその答えを言い終わる前に右側の奴が発砲した。


その弾丸はそのまま自分の右手首に命中した。


「ウワァァァ!!!」


思わず絶叫する。


「聞き間違いかな?今おっさんの口から無理とかいう言葉が聞こえた気がするんだけど」


くそ、この冷酷な化け物め。


「もしおっさんが正直に黒幕の名前を言ってくれないともっと痛い目に遭ってもらうけど」


その言葉を聞いて痛みに耐え黒幕の名前を話すことにした。


「俺に依頼したのはブラッキー・ティンクチャーだ」

「本当か?」

「ああ、そいつに依頼された。ウィスターム家を強襲して内部の研究を盗み出せってな」


そこまで言って思わず痛みに顔をしかめる。

言っていることに嘘はない。

実際にブラッキー・ティンクチャーを名乗るニタニタ笑いの妙な女から依頼を受けた。


「薄情な奴だな。曲がりなりにも味方の名前を売るなんて」

「さあ、俺は正直に黒幕の名前を言った。助けてくれ!」

「無理だ」


短く簡潔なその言葉が発せられた直後、自分の体が銀白色のナニかに貫かれていることがぼんやりとわかった。


「・・銀白色の・・・操者・・・・・」


急速に薄れていく意識の中でなぜかその言葉が頭に浮かんだ。


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