二つの戦い その1
「ワイバー!俺と模擬戦をしろ!」
いつものようにコンフィアンザと登校したシルイトが朝のホームルームまで少し時間があったため学校の中庭を歩いていたところにリクトが憎悪に歪んだ顔で叫ぶようにしてそう切り出した。
自分がそこまで恨まれているとは思っていないシルイトは少し首を傾げた。
「なんで急にそんな話になったのかはわからないけど別にやらなくていいでしょ」
「勝った方がウィスターさんの所有権を得る、というのでどうだ!?」
「こっちの話聞いてないし」
そもそも模擬戦というのは錬金学園で採用されている半ば合法の喧嘩と言ってもいい。
当初の目的は兵器などを開発した生徒同士で実戦的に試験を行うというものだったが最近ではただの錬金術を用いた喧嘩となっている。
「とにかくアイツの所有権とか誰も持ってないから。仲良くなりたいなら自分で努力すればいいだろ」
シルイトはもっともなことを言うがそれを聞いたリクトはさらに顔を歪ませた。
「それで仲良くなれるならそうしている!俺は話しかけてもなぜか無視されるし肩をたたいて呼び止めてみてもすぐに振り払われてしまうんだ」
シルイトは嫌われてるんじゃないかと思ったがその場ですぐに口には出さない。
なんとなくあきれたような雰囲気を漂わすシルイトが少ししてから口を開いた。
「それ、嫌われてるんじゃないの?」
リクトはそれを聞いて顔を下に向けて体を震わせていた。
「残念だけど叶わない恋っていうのもあるんだし、もう・・」
「そんなものはない!」
ふいに顔をあげたリクトは大きな声をあげてシルイトの言葉を遮った。
「俺は、俺がかなえられないことなんてないんだ!俺は!」
「いや、でもそんなに嫌われてたら無理でしょ」
ワイバーよ、貴様は勇者か。
若干傷心して錯乱気味のリクトへ躊躇なく言葉の刃を突きつけるシルイトに言うとしたらこの言葉しかないだろう。
一方でリクトの方はもう精神的に余裕がないらしくシルイトの方をにらみつけている。
「お前の、お前のせいだ!」
「何だよ急に」
「お前がウィスターさんを俺から奪ったんだ!」
「うわ、言いがかりすぎる」
思わず本心が漏れてしまった。
「お前さえ、お前さえ倒せばウィスターさんは救われるんだ」
「なんだそりゃ、俺はさながらお姫様をさらう魔王ってか?」
「俺は勇者でお前は魔王。お前は倒されるべき人間なんだ!」
「よくわからんが、俺はそんな面倒くさい模擬戦なんぞやらないからな」
後ろを向いてそのまま出ていこうとするシルイトにリクトが声を荒らげて引き留めようとする。
「逃げるのか!?」
「別にそう取ってくれて構わないよ。対外的に特に問題があるわけでもないし」
「なら言ってもいいんだな。お前の本当の家名を」
その言葉に出しかけていた足が止まった。
別に学園で偽名を使うのはそこまで少ないことではないため偽名だったことがばれるのは問題ないのだが、ウィスタームの名前が知られるのは少しまずい事態になるとシルイトは考えている。
そもそもブラッキーに悟られないように生徒に紛れ込まないといけないのにそれがばれてしまっては潜入している意味がまるでないからだ。
「俺がリクトとの模擬戦を受託すれば言わないでもらえるのかな」
「それに関しては保証しかねる」
「なら条件を一つ追加だ。俺が勝ったらその情報を教えた人物を教えろ」
そして情報を引き出したらリクトから記憶を奪おうとシルイトは考えた。
「ああ、別に構わないよ」
この肯定によってリクトが自分で調べたのではなく誰かから教わったことが判明した。
「わかった。それなら模擬戦をやろう。日時はいつだ?」
「今日だ」
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一方、コンフィアンザの方でもひと騒動起こっていた。
「ウィスターさん。少し私とお話をしませんこと?」
ホームルームまでの時間を教室で過ごすことにしていたコンフィアンザに一人の女生徒が話しかけてきた。
その生徒は金髪に縦ロールという典型的なお嬢様の姿だった。
同じクラスでは見たことがない顔だったためコンフィアンザは少し首を傾げた。
「お喋り自体はかまいませんがどうして私なのですか?」
「まあ!お喋りだなんて、程度が知れますわね。ともかく行きますわよ」
女生徒はその場でコンフィアンザの質問に答えるのをさけ、勝手にすたすたと教室を出ていった。
相変わらず首をかしげながらもその女生徒を追って教室を出ていくコンフィアンザの背中を残った生徒が不安げに見つめていた。
女生徒は教室を出ると階段を下り始め、一階にまで下りると校舎の外に出た。
ちなみにこの学園には上履きなどに履き替える規則はないので教室にも土足で入る。
そこから裏に回り込んで校舎裏の学園の塀との境の場所で足を止めた。
「ウィスターさん。あなた、この学校から出ていってくれませんか?」
女生徒は前置きもなくそう切り出した。
異世界ものに金髪縦ロールお嬢様はつきものですよね。