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銀白の錬金魔術師  作者: 月と胡蝶
第二章 学園編
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Endクラスと新たな信者


うららかな春の日差しが降り注ぐある日、シルイトとコンフィアンザは二人して錬金学園の門をくぐっていた。

合格発表の時と違うのは気候だけではない。

二人は今学園の制服を着用している。


いわゆるブレザーと言われるもので、錬金術に失敗しても大けがしないように簡単な加工がなされている。

制服には錬金術で加工がなされており王都に存在する魔術学園を除いたほかの学園と比べるとかなりの質をほこるのだが、錬金魔術をしっているシルイトからするととても非効率で低品質である。

カバンは革製の手提げかばんでこれも錬金術により効率的な加工がなされており見た目よりも入る量が若干多くなっている。

普通は入学式の今日は大した持ち物もないはずなのだがシルイトのかばんはなぜか膨らんでいる。


一応補足しておくとシルイトもコンフィアンザも何時ものイシルディンや拳銃はブレザーの下に隠して持ってきている。

万が一にもブラッキーがいる学校なので護身用である。


「学園にいる間は俺から離れることになるけど、何か話しかけられたら自分で応答できるようになったな?」

「はい、問題ないです、ますた」

「だから、マスターじゃなくて別の呼び方を考えておいてくれって言っただろう」

「あ、わすれていました。本で学んだのですが目上の人には御前様というのがいいらしいので外出時にはそう呼ぶことにします」

「いったいどんな本を読んだんだ・・もう、マスターでいいよ」

「了解です、ますた」


このようにコンフィアンザは時折変な本を読んで普通とは少し違った知識を身に着けてしまうときがある。

御前様なんていう呼称はシルイト自身一回も聞いたことがなかったしおそらくかなり昔の習慣だったのであろうと目測を立てた。

もっともそんな変な言葉で呼ばれたら余計に目立つので却下だ。


実はシルイトもコンフィアンザが入学後に人気が出るだろうことは予想している。

その上であからさまにコンフィアンザと接していると関係を疑う者が出てくる危険性がある。

そこで、家を出てからは登下校以外は基本的にコンフィアンザとは別行動をとろうということになったのだ。

実際のところ、こうして二人して登下校している段階で軋轢を生む下地を作ってしまっているのだがそれには気づいていない。




こうして学校が始まる前から別の意味での緊張感に悩まされながらもシルイト達は入学式を無事に終えた。

入学式は学園の体育館で行われており前に新入生、後ろにその保護者が座り一番前の壇上で校長などが演説する。

ちなみに入学式で座る順番もすでにクラスごとに異なっている。

後ろには新入生の保護者も座っておりAクラスには期待のまなざしが、Eクラスには冷ややかなまなざしが降り注がれていた。

新入生の方もAクラスはきちんとした生徒が多いのに対してEクラスはどこか落ち着きのないやばい(シルイト目線)奴が多かった。


ますます不安を膨らませたシルイトはその心情をそのまま表情に出しながら教師に誘導されてE組の教室へと向かった。

一年生の教室は学園の三階にある。

二年生は二階、三年生は一階という具合だ。

廊下の右側には窓、左側に教室といった配置である。

学校の設備自体はAクラスとEクラスで特に異なるものではない。

実は教える内容も同一なのだが例年下のクラスになるほど授業中の態度が悪く、下手すると授業にならないクラスもあるため必然的にAクラスの授業内容が一番多くなっている。

これに関してはシルイトのクラストップとしての腕に期待である。


また、入学時に下のクラスでもきちんと勉強すれば年に二回の中間テストと年度末テストで上のクラスに移動もできる。

逆にクラスが下がることもあるので注意が必要だ。


とにもかくにもまずは部屋に入ろうということでシルイトはがらりと教室の後ろ側の扉を開けた。


――中は野生であった。


思わず扉を閉めたシルイトは混乱した頭でよく考える。



今俺は何を見た?

ー野生を

野生とは?

ー暴れまわっている生徒ども

つまり?

ー行っておとなしくさせればいい

そのためには?

ー鎮静剤の投与

OK,落ち着いた。



ガラリと勢い良く扉を開けたシルイトは最初に教室全体を素早く見渡した。

既に自分以外のすべての生徒が教室に入っており最も無害そうな人物が二人、うるさく会話しているのが四人、どう見ても頭おかしいようにしか思えない奴が三人という風に判断すると、シルイトはとりあえず最も野生に近い三人から処理を開始することにした。


その三人のうち二人は市販の花火でお互い遊び、もう一人は壁を殴りまくって教室を破壊していた。

それを見たシルイトはパパッとイシルディンの集合球体から注射器を造った。

はたから見るとベルトから注射器を出したようにしか見えないだろう。

針の部分は熱量変化で殺菌をしておく。

そして、カバンを開けると中から様々な状況下に適応できるように常備している薬物ケースを取り出す。

見た目は名刺入れ程度の大きさなのだが学校のカバンよりもはるかに効率的な錬金魔術による加工がなされており中には約十種類の薬剤が瓶に入れられて保管されている。

その中からシルイトは鎮静剤が入っている瓶を取り出しふたを開けると一気に注射器に入れ俊足で野生児のもとへ向かった。


三人の内シルイトが最初に向かったのは教室を破壊している男である。

一瞬のうちに首もとに注射針を差し込むと一気に内容物を注入した。

破壊男はすこし目を見開くと途端に気絶した。


「やべ、ちょっと効きすぎてる」


とはいってももう後戻りはできないシルイト。

破壊男が崩れ落ちていく間に再び針を殺菌しながら鎮静剤を注射器へと入れる。

今度は花火男女を黙らせるため注射器を二つに増やした。

そして俊足で二人に近づき首へと注射する。

同じように気絶して崩れ落ちていく花火男女。


地面に倒れた後にやけどでもされたら困ると倒れている間に花火の火をイシルディンの熱量変化で消すために注射器を花火のところへ落とす。

注射器は花火の上へ落ちると同時に液体のように広がり花火を全て鎮火させた。

一人目の破壊男が地面へ倒れる音が聞こえて来たタイミングでそのイシルディンを集合球体へと戻した。

これはクラスの人間が全員破壊男の方へと目を向けるだろうと見越してイシルディンの正体がばれないようにするための行動である。

実際にはそこまで秘匿しなくてはいけないものでもないのだが余計な面倒は避けたいという思いによるものだ。


そして花火男女が倒れる音がした時には噴霧型にしたイシルディンを手に持ちお喋り男共を全員黙らせたシルイトが立っていた。



今まで自分たちが目にしてきた異常を全部目の前の少年がやったと気付き呆然と口を開ける無害男女。

流石にこのままではまずいとシルイトが弁解のために口を開こうとすると、


「「スゴイです!」」

「・・へ?」


なぜかそろって尊敬の目でシルイトを見ている。

二人とも金髪で線が細い印象を受ける顔をしている。

その眼はキラキラと輝いて開いていた口は興奮で釣りあがっている。


「僕たちでは彼らにガツンと言うことができませんでした」

「あのままだと私も授業とかできないんじゃないかなって思ってました」

「それを全員静かにさせるなんて」

「「さすがです!」」

「あ、いや、そんな尊敬されることはしてないと思うんだけど」

「いえ、僕たちが勝手に尊敬してるだけなんで気にしないでください」


そういわれるとシルイトも何も返すことができないのでとりあえず話題をそらすことに。


「ああ、そう。あ、もしかして二人とも敬語だけど俺も敬語にした方がよかったりする?」

「いえ、僕たちが勝手に敬語してるだけなんで気にしないでください」


だいぶ個性的な人たちと同じクラスになったなと思いつつも一応社交辞令としてあいさつはしておこうとシルイトは思った。

学生証ではシルウィス・ワイバーとなっているが、偽名とはいえなるべく明かしたくないシルイトはとりあえずファミリーネームの部分だけ明かすことにした。


「ああ、そう。まあ、とにかく俺の名前はワイバーだから。よろしく」

「僕の名前はパルテと言います。こちらこそよろしくお願いします」

「わ、私はイレハといいます。よろしくお願いします」


どうやらシルイトはギルドで慕われているカルク以来の信者を得たようである。

名字はわからないが貴族の出ではないことは確かだ。

年齢を聞かれないのはおそらくそういう風習だからだろう。

シルイトは王都どころか一般社会にもほとんど出てこなかったため世俗には疎い。


シルイトが思わず苦笑いすると廊下からこちらへ向かって走ってくる足音が聞こえてくる。

時計を見てもまだ集合時間にはなっていない。

どういうことかと首をかしげているとシルイトが騒ぎが外に聞こえないように教室に入るときに閉めた教室の後ろのドアが勢いよくガラリと開いた。

そこには先生ではなく一人のイケメンが息を切らして立っていた。

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