エピローグ
ミラは俺を携え、キュピを肩に乗せたまま高台の上へと続いている階段を上っていく。
一段一段しっかりと踏みしめつつ、いよいよ頂上までたどり着いた俺達の目の前にいたのは――これまで見た中でも最も厳しい姿形をしたゴブリンの姿。
それはゴブリンキングだった。戦いは熾烈を極めた。レベルの上ではゴブリンキングを含めたゴブリン軍団に分があった。
だが、それでもスキルを駆使し、ミラは最後に残ったキングを追い詰めた。
だが、そこへ現れた一つの影。それは俺たちを散々苦しめたあのゴブリンであった。
ゴブリンダッシュはオークキングを倒し、そこでなんと水筒の水を飲み干し進化。ゴブリンレーサーとなって俺たちに襲いかかってきた。
ナイフを持ったゴブリンレーサーと切り結ぶミラ。一旦は追い詰められるも、カウンターのコンボにより見事ゴブリンレーサーに勝利した。
『おめでとう君たちはファーストステージをクリアーした。生き残りをかけた進化バトルは次の舞台に移ることだろう』
ふと、ファンファーレと共にそんな声が鳴り響く。その時、ゴブリンレーサーが遺した水晶をキュピが欲した。
それを与えるミラ。すると突如まばゆい光。かと思えばキュピが美しい女性の姿に変化した。
『ば、馬鹿な貴様は女神イシス!』
『ふたりのおかげでようやく目覚めることが出来ました。覚悟なさい堕神ルキフェル』
わけがわからない俺たちだったが、どうやら元々この世界はイシスが治める美しく平和な世界だったが、別世界を追われたルキフェルの手でスライムに変えられてしまっていたらしい。
そしてルキフェルは地球の人間を集め進化を掛けたバトルロイヤルをさせたうえで、完全に進化した武器や魔物をコレクションしていたのだ。
だが、その堕神も女神の一撃で消滅した。女神はいう、元の世界にもどしてあげましょうと。
◇◆◇
目が冷めた時、俺は教室にいた。何か長い夢を見ていたようなそんな気がした。
「エッジってばまた居眠り?」
俺に声を掛けてきたのは矢田野 美樂だ。幼馴染の女子。ボーイッシュで男勝りな性格をしている。
ま、よく見ると結構かわいかったりするんだけどな。ただ、同じ剣術道場に通っているけど剣術では俺とミラは互角ぐらいの腕前だ。
ちなみに俺の本名は草薙 刃なんだがミラはなぜか俺をエッジと呼ぶ。
その方がかっこいいじゃんということだ。何だそれ?
「お前らさっさと席につけ、授業を始めるぞ」
「あぁ、次は亜呂摩先生か~」
「美人だけどきっついんだよなあの先生」
「でもスタイルいいよな。体育の土勤が旦那だなんて正直うらやましいぜ!」
「そういえばこないだ子どもの照日ちゃん見かけたけど可愛かったなぁ~」
う~ん、なんだろ? こんな日常が酷く懐かしく感じる。夢のせいかな?
「うん、マージュちゃんのサンドイッチ凄く美味しい。料理上手だよねぇ~」
「…………」
「えぇ、そんなことないよぉ~」
昼休み、ミラが仲良くしている麻珠を含めた三人で屋上で昼食を摂った。彼女のことをミラはマージュと呼んでいる。
ミラはなぜかこんな感じのニックネームを付けたがるんだよな。
そして麻珠は凄く恥ずかしがりやだ。俺とも結構会ってるんだけどいまだにミラの耳元で囁くように話している。
「邪魔するぜ」
すると、その場に似つかわしくない集団が現れた。俺はこいつらを知っている。
久留伊崎 亜久兒――元々は同じ道場に通う門下生だったが、ミラに勝てない事を逆恨みし仲間を引き連れて集団で彼女を暴行しようとしたが俺とミラで逆に返り討ちにした。
とくにこいつはミラに片金を潰された上、そのことが原因で破門にされたからな。
それからは荒れに荒れて警察の面倒にもなり学校も退学になってたはずだ。
他の三人は佐藤、田中、鈴木で麻珠を襲おうとしていた屑だ。駆けつけたミラによってボコボコにされたけどな。
「はは、全くあいたかったぜ。お前のせいで俺は破門になり退学も食らった。こいつらだって似たようなもんだ」
「なんだそりゃ? 逆恨みもいいところだな。全部自業自得だろ?」
「うるせぇ刃! 俺はお前だって殺すつもりなんだからな!」
「殺すって……その気もないくせに滅多なこといってんじゃねぇぞ」
「これでもか?」
そういったアクジの手元に、突如長柄の武器が現出した。何だこれ?
確か中世で使われていた複合武器、ハルバードに近い形状だが、全体的に真っ赤だ。
そして他の三人もそれぞれ武器を握り始める。
「へへ、どうやらこの様子だとやっぱこいつら覚えてないようだぜ」
「あぁ、あのルキフェルという神がいっていたとおりだ。向こうでの出来事は女神の手で記憶が消え去る。だけど、俺達だけは堕神の最後の力で残しておいてくれるってな」
記憶? 神? なんだこいつ何を言っている?
「あ、あんたらいいかげんにしなさいよ! 警察呼ぶわよ!」
「警察? あぁ呼べばいいさ。ただし」
アクジが戦斧を振った、校庭と体育館がまっぷたつに割れ大爆発を起こした。マジ、かよ……。
「あ~はっは! どうだ俺様の進化武器バグゲイルの威力は! この中にはな大量の殺人鬼の魂だけが宿っている。血と破壊を求めているのさ! 警察なんて好きなだけ呼べ! 自衛隊でもいいぞ。全部俺がぶっ壊してやるよ!」
狂ってる――俺は本気でそう思った。
「へへ、俺達はこっちの麻珠を頂くぜ」
「……あ、あ――」
「震えちゃってか~わいい」
「へへ、みろよこの巨乳、あぁたまんねぇ。さっさと全員で――」
『やれやれ随分と舐められたものだな』
「ぐべっ!」
それは突然の出来事だった。麻珠の影が伸び、鎌状に変化して鈴木を吹き飛ばしていた。
「は、な、なんだこれ!」
「ちょ、ちょっと待て、こいつ記憶にあるぞ。まさか!」
『ほう、覚えていたのかね? 久しぶりだな。それにしても二度も娘を襲おうとするとは、いい度胸だ』
「ぱ、パパ、そんな出てくるなんて駄目だよぉ」
『そうはいってもな。お前は向こうの事は忘れてるようだが、こいつらは危険なんだ。流石に異界では制約があって力はふるえなかったが、こっちであれば私は力を存分につかえる』
「え? え? 何これ? パパって、マージュのお父さん?」
一瞬固まってしまった俺だが、ミラはすぐに反応して麻珠に問う。
「あ、違うの、これはその、いやその、そう、なんだけど……あのね」
「すごい! カッコいい!」
「……え?」
あぁそうだ。ミラはこういう奴だったな。
「すごいよマージュちゃんのパパ! かっこいいよ!」
『ふむ、JKからかっこいいと言われるのは悪い気がしないな』
「怖くないの?」
「どうして? 全然かっこいいよ!」
それ答えになってないぞミラ。
「ふ、ふざけるなこの化物が!」
「俺達だって武器を持ってるんだ! お前なんかにふぎゃん!」
ふたりまとめてふっとばされた。そのまま落下して頭から星を出している。
『やれやれ弱すぎだな』
「な、なんだそりゃ。ふざけんなよ! なんなんだお前は!」
『ふむ、なんなのかといわれれば、我は地上において魔物退治を専門としているハンターであるとしかいいようがないのだがな』
「ふ、ふざけやがって! ふざけやがって! だったらせめてミラだけでもぶっ殺してやる!」
アクジがバクゲイルを振ると屋上に亀裂が走り、俺たちと麻珠が分断された。無茶苦茶やりやがる。
「さぁ、決めてやるぜ!」
「くっ、どうすれば」
『思い出すのだエッジよ』
「え?」
『直接女神と会ったお前であれば思い出せるはずだ。あの世界での出来事をな』
あの世界での出来事? 女神? 世界、異世、かい、異世界!
「おもいだした! そうだ俺は、俺は、剣だった!」
その瞬間、俺の体が変化する。体の構造が変わりそして、あのときの、一本の剣に。
「え? うそ! エッジが剣になっちゃった!」
『そうだ俺は剣だ。ミラ思い出せ俺たちは一緒に迷宮で旅をした。ミラなら俺を使えるはずだ。俺を手に取れ!』
「させるか死ねぇえええぇ!」
だが、ミラが俺を手にとり、その瞬間光が溢れ出す。俺の姿がさらなる進化をとげた。
『ふむ、ふたりの想いが重なったことで、最終形態になれたようだな』
「ば、馬鹿なこんな……」
「エッジ! 思い出したよ! 私も!」
『あぁ、そしてなることが出来た! 最終進化、草薙の剣に!』
「あ、ありえねぇ」
アクジが後退りする。恐れがその顔にはりつく。だが――
「認めねぇ! 俺が、俺こそが、この進化武器で世界の覇者になるんだ!」
「あんたには一生無理だよ。奥義! 修羅刹那!」
「ぎゃああぁあああぁああぁああ!」
あの四人が目覚めた時、まるで借りてきた猫のようにおとなしくなっていた。結局テロを起こした犯人ということで警察につれていかれたが、あの様子だと二十年はでてこれないだろう。
「でも、随分とおとなしくなったね」
『邪気を斬ったからであるな。われわれハンターでしか出来ぬ技をこうもあっさりやってのけるとは全く恐れ入ったぞ』
そういわれてもな。ちなみに俺はまた人間に戻った。ただ、パパが言うにはなろうと思えばいつでも剣になれるらしい。
『ふむ、これは丁度よい。お前たち、我と一緒にハンターとして活動せぬか? それだけの実力があれば十分可能であるぞ』
「え? 本当! やるやる! 面白そうだし。ね、刃、てあれ?」
やっぱな嫌な予感がしてたんだ。でもな、正直そういうのはごめんだぜ。
「こら刃! 待ちなさい! 一緒にハンターやるわよ!」
「勘弁してくれ! 武器になるのは異世界だけで十分なんだよ~~!」
必死に逃げる俺。だけど、ミラのことだからきっと勝手に厄介ごととに首を突っ込んで俺もまきこまれるんだろうなぁ。はぁ全く、俺の人生は前途多難だ――
おわり♪
進化の剣の物語はこれで完結となります。ここまで読んで頂きありがとうございました。




