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第七話 洞窟

『なんだこりゃ……扉の外はこんなんなってたのか――』


 思わず感情が念に乗る。それはしっかりミラにも通じていたようだ。


「うん。エッジのいた場所だけちょっと特別だった、みたいな?」


 小首を傾げて戯けたように言う。

 こう言う仕草にはドキッとさせられたりもするな。

 て、何言ってんだ俺……まぁとにかく、ミラが入ってきた扉を抜けた先は左右に岩壁のそびえ立つ、細い通路だった。


 ミラが改めて後ろを振り返り、俺の刺さっていた台座のある箱型のそれを見る。

 窓一つない正方形の石の建物だ。ただ壁には妙な紋様が刻まれていたりはする。


 それが何をモチーフにしてるのかはさっぱり判らないけどな。

 幾何学っぽくもあれば無数の顔のようでもあり、悪魔にも見えなくはない。


 俺はそんな中にぽつんと突き刺さっていたってわけだ。

 ちなみに今回はミラの来た方の扉から抜けたが、この中には実はもう一つ扉がある。

 方向が判らないが、四角い空間の中にLを描くように扉が設置されてた形だ。


 しかし……天井はかなり高いな。俺の最初にいた建物が3階建てぐらいの高さなら、この天井は軽くその数倍はあるな。

 岩壁にしてもまさに絶壁といった様相。


 天井までは届いてないし、見上げると壁の上側も歩き回れるぐらいのスペースは十分にありそうにも感じられるが、高さが俺のいた建物を縦にふたつ並べてもまだ届かない程だから身体のみでよじ登るのは厳しそうだ。


「じゃあいこっか」

『あぁお願いする』


 自分じゃ動けないからな。 

 そしてミラは俺を背中にし移動を始める。

 革のベルトを袈裟懸けにして鞘を固定させている形だ。


 この為、俺の剣としての視線は背中に向けられる。

 鞘に収まったままでも、外を見ることが可能なのは鞘も俺の一部として捉えられているからだろう。


 そしてそれとは別にミラの視線からもしっかり前方を注視しておく。

 ふたつのモニターを並べて見てるような妙な感覚だが、違和感はない。


 左右を絶壁に挟まれており、渓谷の道を突き進んでるといった状況。

 歩いて行くとすぐに道は湾曲し、ぐるりと進んだ先には長い直線が続いていた。


 気になるのはこの直線部分には両脇の壁、高さはミラの頭より更に身体一つ半から二つ分ほど上方に何箇所が横穴が見えるって事。

 それが妙に怪しい気もするんだけどな。


「多分エッジがいれば、さっきよりは随分と楽になるとは思うんだよね」


 うん? 楽に?

 

 俺がミラの呟きを怪訝に思いつつ、進んでいる方に意識を傾けていると――


「ギャギャ!」

「ギェ! ギェギェ!」

「ギイィイイィイイィイイ!」


 突如またあの奇声が四方八方から飛び交い、かと思えば穴の中から一斉に投石。 

 するとミラは黒目を忙しなく動かし、投石の位置を把握、ロングソードである俺を背中から抜き右手で持ちつつ、左腕のバックラーで石礫を上手に捌いていく。


 なるほど……つまり壁際に見える穴にゴブリンが潜んでいるって寸法か。

 さっきミラが追われていたのも、ここから出てきたゴブリンが原因だろう。


 そしてゴブリンは投石が効果が薄いと判断するや、今度は穴から飛び降り前後に降り立った。

 数は明らかにさっきよりも多い。8体はいるが、投石は続いているから穴の中にはまだまだゴブリンが潜んでいるのだろう。


「ある程度は倒すけど、キリがないから駆け抜けるよ!」


 ゴブリンは前後からミラを挟撃しようという考えのようだが、相手の態勢が整う前に疾駆し、正面のゴブリンたちに斬り込んでいく。


 本当、見た目のわりに勇ましい事だ。ゴブリンも迎え撃つ姿勢だが、今度は少なくとも俺のおかげで武器の差がかなり大きい。


 ミラが下から跳ね上げるように振るった剣戟は、受け止めようとしたゴブリンの刃を叩き折り、勢いも削がれる事なく、胸からその醜悪な顔面に掛けてを見事に斬り裂いた。


 勿論それを喰らったゴブリンが無事でいるはずもない。


――――進化PT2を得ました。


――経験値24を得ました。


 うん? 経験値がちょっとだけ高いな。

 もしかして個体差があるのだろうか?


「ギェッ!」

 

 狭い道だが、ゴブリンは小柄だから横にも数体並ぶことが可能なようだ。

 ミラの斜め前方で待ち構えていた槍隊が一斉に突きを繰り出してくる。


 しかしミラは横に跳躍しそれを避けた。だが後方に控えていたゴブリンがニヤリと口元を歪める。

 ミラの跳躍した先が壁だったからだろう。

 つまり槍をもったゴブリンからすれば、壁際に着地した瞬間を狙えばいいという事になる。


 だが、ミラは壁に脚を掛けるとそのまま平行移動しゴブリンの思惑を嘲笑うように彼らの背後に回りこんだ。


 つまり壁走りをしてみせたわけだ。確かスキルは持ってないって事だったけど、壁走りってスキルがないなら、本来の身体能力でそれをやってのけたって事か? 何この子凄い。


 そしてゴブリンの裏側に回ったミラは、剣を振るう! 振るう! 振るう!

 結局6体の槍持ちゴブリンを殲滅してしまった。

 

――――進化PT2を得ました。


――経験値24を得ました。


――――進化PT2を得ました。


――経験値22を得ました。


――――進化PT2を得ました。


――経験値24を得ました。


――――進化PT2を得ました。


――経験値29を得ました。


――――進化PT2を得ました。


――経験値24を得ました。


――――進化PT2を得ました。


――経験値29を得ました。


――レベルが上がりました。


 本当、手に入る経験値はバラバラだな……てか、レベルが上った!

 これは、多分。


『ミラ、もしかしてレベルが上がった?』


「うん、よくわかったね。それも声ってやつ?」


『まぁな』


 俺とそんなやり取りをしながらもミラは更にゴブリンを斬り倒していき、アナウンスが絶え間なく流れていく。


 そして斧持ちや棍棒持ちのゴブリンも難なく返り討ちにし、更に移動しながらも数体のゴブリンを片付けた頃、ゴブリンの達の勢いがおちた。

 

 後方にはミラを睨み続けるゴブリンの姿。だが数メートルの距離を保ったまま近づいてこようとしない。


「この先に泉があるんだけどもしかしたらその影響なのかも」


 なんとなく俺の気持ちを察したのか、ミラが教えてくれた。

 渓谷の道はあと数歩も進めば行き止まりになってしまうが、向かって左側には馬蹄状の口がぽっかりと開いている。

  

 ミラの話で言えばこの中に泉があるようだ。


 ミラは俺に説明した後、ゴブリンは放っておいて穴の中に入っていく。 

 弓でも持っていれば楽に経験値稼ぎが出来そうとか思ってしまったけど、ミラはそんなものを持ち合わせていないし、俺にもそんな力はないから仕方無い。


 穴の中は俺が刺さっていた建物に比べれば随分と狭隘な空洞だった。

 向かって右側にカーブしてる横穴だが、距離にすれば歩いて10歩もないぐらいで、最奥の土壁に沿うようにしてその泉があった。


 地面に穿かれた穴に水が溜まってるといったところかな。

 ただ汚れは全く感じられず澄み切った綺麗な水ではある。


 真ん中辺りからはコポコポと水が噴き出しているので、水源は地下なのかもしれないな。

 常時水を満たしてるとしたら間歇泉みたいなものだろうか?

 ただ一度掛けてもらったのは冷たかったしな。


 そもそもなんで冷たいって思ったのかってところだけど。別に剣を攻撃に使われても痛くないしわけだしな。

 まぁ剣が意志を持つぐらいだし、これも魔法的な現象なのかもしれないが。


『これが神秘の泉なのか』


「うん、でもこれって神秘の泉っていうの?」


『あぁ、声がそういっていたんだ』


 そうなんだ、と笑顔を輝かせる。

 そしてミラは一旦俺を背中の鞘に収め、両手ですくって泉の水を喉に流し込んでいく。


「う~ん冷たくて美味しい! 疲れも取れそう」


『実際疲労度が回復するんだっけ?』

 

「あ、うん、そうだね。でも一度に回復するんじゃなくて、自然に回復する量が増える感じかな」


 なるほど。自然治癒みたいなもんか。もともと疲労は休んでいれば少しずつでも回復するらしいけどな。


『怪我も治るのかな?』


「だと良かったんだけど、それは無理みたいなんだ」


 眉を落としつつミラが応える。

 そう都合良くはいかないか。

 それにしても……


『白骨……』


「あ、うん、僕が来た時には既にあったんだよ」


 ミラが視線を動かした先に横たわる白骨死体が俺の視界にも飛び込んできた。

 みた感じ明らかに人間のなんだけど。


「実は今僕がしてる装備も元はこの遺体のなんだ。申し訳ないと思ったけど、何もないとどうしようもなかったから……」


 なるほど。それで装備が随分とぼろぼろだったわけだな。

 ただ、気になる事は色々あるんだけどな。


『……ここに来た時って事はやっぱりミラはどこかからここまで来たって事か? でも一体どうやって?』

 

 思わず質問を重ねる。何せここは狭い洞窟みたいなもの。

 出入り口も一つしかない。

 かといってこの中以外は左右に絶壁が聳え立つ峡谷の道しかない。

 少なくとも俺の刺さっていた小屋までは一方通行だ。


 そうなると、一体彼はどこから来たのか? て話になるんだよな。

色々と謎が多い子です。


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