第六十四話 フカヒレ、カニ、タコ?
魔法具の水息器のおかげで、以前よりかなり水中の移動が楽になった。
ただ、アクアシャークやエレキエイに関しては、基本的には避けられる相手は避けていこうとミラと決めて動くこととする。
理由は、やはり魔力の温存が大きいな。何せあの宝箱のあった水中洞窟とは別に、奥へと続く道もあったわけで、今度の狙いがそこにある以上、どんな敵に襲われるか判ったものじゃない。
だからここであまり魔法の無駄打ちは出来ないと考えたわけだ。
それに、そもそも水中での戦闘は思ったより旨味がない。なぜなら、水の中で魔物を倒してしまうと、魔物を解体するのが酷く難しい。
だから素材や魔晶は手に入らない。ミラの経験値や進化PT、熟練度を稼ぐために戦ってもいいが、正直その為の苦労を考えると割に合わない。
フカヒレを集めたときみたいに、比較的陸地に近いところで戦う分には、倒した魔物の骸を引き上げてという事も出来るんだけどな。
そんなわけで、ミラは上手いこと水中の魔物はやり過ごしている。
途中念のためにあの蟹の出た場所に立ち寄ったりしたが――残念ながら蟹はいなかった。話によると守り蟹とかいう魔物は宝箱を守るために出現するらしいから、肝心の中身がなくなったらもう出ないのかもな。
だからとりあえずそこから離れ、そして西の方を目指す。するとわりとすぐに地盤が上がり始め、そして浅瀬に出た。
「ふぅ、やっと喋れるよ」
『ああ、水中じゃミラは喋れないからな』
特に水息器は口に咥えるしな。まあとはいっても全く水がないわけでなく、膝下ぐらいまでは水に浸かってる状態だけどな。
で、そこからは細い直線の道が続いていた。天井は結構高いな。ミラ3、4人を縦に並べたぐらいあるかもしれない。
ただ天井の高さと逆に幅はかなり狭い。ミラが2人並んだらキツキツだろう。それぐらいの狭さだ。
そんな道を、ジャブジャブと歩いて行くミラだが――やはり、何もなく終わるほどこの迷宮は甘くないか。
何故かというと、俺達が向かおうとしている先に、鎮座している一体の魔物がいたからだ。
そして――
「うわぁあああ、ねえ見てよエッジ! タコだよ! 今度はタコがいるよ! 大きいよ!」
うん、やっぱりな。ミラなら多分そこに反応すると思ったよ。
でも、サメにカニにタコかよ、水が絡むと水棲生物がやっぱ多いな。まあ、このタコは殆ど陸に上がっているようなものだけど。
『ところでミラ、鑑定は出来るか?』
「うん、名前はレッドオクトパスでLVは16だって」
レッドオクトパスか。確かに見た目はまんま赤いタコだな。頭、というか頭に見えるあれは胴体か。壺みたいな形の胴体と触手の根本に頭、目もその部分についていて、そして長大な触手が8本、うねうねと動き回っている。
全体的な大きさは、ミラの倍ぐらいか? 幅はこの通路を塞ぎきってギチギチという軋み音が聞こえそうな程だ。
なんとなくあの巨大イカを思い出したけどな。ただ、LVでいえばあれよりはまだ何とかなりそうではある。
何よりこいつは倒さないと先に進めないしな。
『ミラ、いつも言っている事ではあるけど』
「うん、初めて見る魔物だしね。慎重にいくよ」
うん、それはもう敢えて言わなくても判ってるってとこか。
でもなあ、まだちょっと迂闊なところはあるから心配は心配だ。
そして、ミラはそこから更に数歩前に出るが――ヒュンッ! と風を切るように触手が飛んでくる。
それをよく見てバックステップで避けたミラだが――
『……速いな、それに鋭い』
「うん、まるで鞭みたいだよ」
確かにあれはまるで鞭だな。しかもそんなのが8本もあるんだ、厄介なことこの上ない。
何より、場所があまりよくない。何せ左右が狭い細長い通路だ。ミラには動き回れるスペースがない。
これでは俊敏さを活かした戦い方が出来ないな。
『仕方ない、こうなったら魔法を試してみるしかないな』
「うん、そうだね! スパークボルト!」
そして、腕輪を嵌めた方の腕を翳して、電撃の球を発射する。
俺たちにとって狭いスペースはあのタコにとってはもっとだ。幅に関してはギリギリで、あれじゃ本体はまともに動けないだろう。
つまり、スパークボルトを避ける手段がない。
そして思惑通り、スパークボルトは見事レッドオクトパスに命中するが――
「あれ? き、効いてるのかな?」
『……う~ん』
正直微妙だ。何せ全く反応がない。当たったと言うのに、少しも痺れた様子がないしな。
『鈍感なだけならいいんだけどな』
「と、とりあえずもう何発か試してみるね」
そして、ミラは更に数発相手に電撃を命中させるが、やはり反応はない。
参ったな。これはもしかしたら全く効いてないかもしれない。そうなると、MPの無駄以外の何者でもない。
『さて、とりあえず魔法は一旦中止だな。MPが無駄になる。だが、どうするか?』
とりあえず触手の範囲の外にいれば、相手も何もしてこない感じだがな。
「だったら僕にいい考えがあるよ!」
うん? いい考え?
『それで、どんな手なんだ?』
「こうするんだよ!」
すると、ミラはなんと、壁を蹴り反対側の壁に移り、それを繰り返して上に上にと移動していった。
『……なんかものすごいけど、確かにこれならやり過ごせるかもな』
「え? 違うよ! 倒すんだよ!」
倒すつもりだったのかよ! でも、だったらどうするんだ?
「こうやって少しずつ懐に潜り込むんだ! 魔法が通じないなら、それこそエッジの出番だしね!」
……確かにあのカニみたいな特殊な能力でもなければ、物理的攻撃と魔法攻撃、どっちも平気って事はそうはないかもしれない。
ただ、あくまで雷系の属性が通りにくいだけって可能性もあるんだけどな。
まあでも、悪い手ではない。このレッドオクトパスは触手が長い分、接近されると反応が遅れる可能性が高い。
正直、見た目かなり軟体っぽいけど、それなら逆に切る攻撃は有効な可能性が高いしな。
それに器用で運動神経も良いミラなら、相手の触手の射程外から近づいて、一気に接近戦に持ち込むのだって、て!
『ミラ! 危ない!』
「わっと!」
俺の念に反応して、ミラが咄嗟に体を撚る。その横を炎の礫が通り過ぎていった。
だが、攻撃はそれだけでは終わらない。第二波の炎がミラに迫った。
やはり同じように礫上の物で、大きさはちょっと大きめの石ぐらい。
それがメラメラと燃えた状態でミラに飛来した。自然落下したミラは、避けようがないかと思ったが――しかし円盾を受け止めてそれをガード。
多少勢いに押されるも、くるりと回転して着地した。
『危なかったな。でも、少しはダメージはあるか?』
とは言え、俺はミラに被害を確認する。何せ盾で守ったとは言え、あれは明らかに魔法による攻撃だ。
今持ってる盾は魔法への耐性がない、筈だが――
「うん、大丈夫。これ、火には多少耐性があるから」
ミラのその言葉で思い出した。そうだ、あの蜥蜴の皮で出来た装備品は、火に関してはそうだったな。
ただ、やはりそう簡単にはやらせてくれないか。魔法を行使したのはあのタコだ。
どうやら触手の何本かは魔法が行使出来るようになっているらしい。
さて、どうしようか――
なんと、こちらの拙作が第五回ネット小説大賞(旧なろコン)の二次選考を通過致しました!
個人的にはちょっとびっくりです。流石に二次は厳しいかなと思っていたので……
ですが、通過出来ました!これも偏にいつも応援頂けている読者様のおかげと思っております。
本当にありがとうございます!後は最終選考がどうなるか……ちょっと緊張です(汗)




