第四十九話 アロマの依頼
「いらっしゃいなのー! また来てくれて嬉しいなのー!」
梯子を昇った後は予定通り、薬師の店に赴く形となった。すると喜々として幼女のテラピーが出迎えてくれる。
う~ん、相変わらず可愛らしいな。見てるだけで癒される。それはミラも一緒のようで、完全に表情がふにゃけていた。
「ふむ、あんたらか。それにしても、随分と早い再来店だね」
俺とミラがテラピーにほんわかしていると、奥から薬師のアロマが姿を曝した。それにしても相変わらずおばあちゃんとは思えない若々しさだな。
だけど、どうも口調とか雰囲気はドゴンに重なる部分もある。年取ると(というのは失礼かもしれないが)似たような感じになってしまうのかね。
「それで、またなにか薬を所望かい?」
アロマが訊いてくる。薬屋にきてるぐらいだから、勿論それはそうなんだけど、妙に迫力あるよなこの人。胸とかそのあたりも関係してるかもだが。
『とりあえずミラ、水中で使えそうな薬がないか聞いてみようぜ』
「う、うんそうだね」
前回と同じように、ミラは相手に気づかれないようにこっそりと頷き呟く。
ドゴンの時はつい俺から念を飛ばしてしまったけど、人語を理解出来る武器というのがどういう扱いなのか不明確な部分も大きいからな。
そんなべらべらと正体をバラすこともないだろう。
「ちょっとあんた、別にそんなコソコソ話さなくてもいいさね。この間も気になってたけどね、別に意志のある武器なんてここじゃそんな珍しくもない。もっと堂々としてな」
「へ? え? き、気がついてたんですか?」
「バレバレだよ」
「テラピーにも判ったなの!」
あはははぁ、と苦笑するミラ。まさかとっくに気がつかれてたなんてな……しかもこんな小さな幼女にまで。
全く、わざわざ気を遣ってたのが馬鹿みたいだな。
『判ってるなら教えてくれてもよかったんじゃないのか?』
とは言え、バレてるならこっちも遠慮することはないな。とりあえずアロマに向けて念を飛ばす。
「はっ、妙にコソコソしてるから最初は様子を見てたさね。でも、そうしょっちゅうコソコソされてもうざったいからねぇ」
アロマが眉を広げて返してくる。ふむ、逆に言えば傍からみてすごくわかりやすくコソコソしてたわけか。なんか間抜けだな。
「お婆ちゃん、今話したなの?」
「うん? そうだけどね……ああ、そうか。きっと念話のLVが低いんだろうね。だから対象が1人だけなんだろうさ」
『うん? LVが上がれば違うのか?』
「ああ、LVが上がれば声の届く範囲が広がるさ。まあ通常のLVと違って、スキルのLVは何がきっかけで上がるか不明確な部分も多いけどねぇ」
LVが上がるのが不明確? なんだそれ?
『そんなこともないだろ? リストからスキルを選んでポイント消費すれば上がるわけだし』
「……は? リスト? ポイント? 何を言ってるんだい?」
アロマが目を白黒させていた。この表情、俺を誑かそうとか、そういう風には見えないな――と、いうことは進化PTについては知らないってことか?
「……まあいいさね。どっちにしろ武器とかそういったことはわっしは専門外だしねえ」
結局アロマはそれ以上このことには触れなかったな。まあ、俺の方も敢えて突っ込むほどのことでもないしな。
「それで、あの実は――」
で、ここからが本題ってことでミラがアロマに事情を話す。水門を抜けて先に進んだのはいいが、水中戦で苦労しているから何か役立つ薬はないかといった相談だったのだが。
「それだったらここの薬よりも魔法具の方が効率はいいと思うけどね。あんたらの求めてるのがなくはないけど、効果時間はそんなに長くはないんだよ」
そういいつつ、アロマはカウンターにヘモグローションという塗り薬を置いてくれた。
これを身体にぬると水中でも皮膚から空気を取り込んで溺れないですむらしい。
「これが一瓶200マナ、効果時間は5分ってところさね」
「5分ですか、結構短いですね」
「そうさね。だから魔法具を購入したほうが後々を考えれば安くつくだろうね。初期費用は掛かるだろうけど」
『でも、俺たちその魔法具の店ってのが判らないんだけどな』
「なんだそうかい」
するとアロマはカウンターの上に紙を起き、羽ペンでスラスラと簡単な画を書き込んでいった。
「今あんたらのいるあたりがここ、そして梯子が出来たのがこのあたりなら、魔法具師の店はここさね」
「ここなの~!」
アロマの真似をするテラピーが可愛い。とはいえ、教えてもらうとなんてことはない。梯子のある位置から少し北西に向かったあたりなようだ。
「意外と近かったんだね。なら、薬は大丈夫かな?」
『いや、でもその魔法具がいくらかわからないからな』
それもそうか、とミラが返す。実際あんまり高かったら厳しいしな。
「そもそも、あんたら水中の相手に何で戦う気さね?」
「え? あ、はい。勿論この剣で」
「剣かい……だとすると魔法は使えないんだね?」
「え、ええ、確かに魔法は全く……」
そう言われてみると、確かに魔法といえる魔法は覚えてないな。バスタードソードに進化して、おまけに土の属性も付いたんだから、何かあっても良さそうだけど、熟練度が上がったりしたらまた違うのだろうか。
「それなら水の中で戦うのは流石に無謀さね。水中じゃまともに剣なんて振れやしないだろう?」
「う、た、確かに――」
肩を落としてミラが言う。確かに言われてみればその通りか。あの魔物を倒せたのも地上から勢いをつけたりと、出来るだけ水中戦以外の面で頑張った結果だしな。
「それなら、先ず必要なのは魔法の効果が施された腕輪だろうさね。専門外だから詳しくはないけど、魔法具には魔法が使えるようになる腕輪もあるらしいからね。安いのでもいいから購入しておいた方がいいさね」
「な、なるほど――」
ミラが腕を組んで難しい顔を見せる。この表情、懐を心配している可能性があるな。なにせそうなってくると何か色々と入りようになってくるな。ゴブリンロードを倒したりして多少は金になったとはいえ、余裕なんてこれっぽっちもない。
『正直マナの残りが不安になる話だな。少しでも稼がないと――』
「それなら丁度いいさね。あんた達アクアシャークにエレキエイを相手しているんだろ? アクアシャークのフカヒレと肝、エレキエイもヒレが素材として役立つからねぇ。持ってきてくれたなら買い取るさね。特にフカヒレは今なら少しだけ色つけとくよ」
「本当ですか? それなら助かりますが、でも、ヒレが薬の材料になるのですね」
「まあ、エイはともかくフカヒレは完全に食用さね。スープに漬け込むといい味が出るのさ」
「フカヒレなの! フカヒレスープ万歳なの!」
あんたが食いたいだけなのかよ! そして孫のテラピーもよだれよだれ!
『全く……でも、素材を回収するなら、やはり水に潜れないと仕方ないな。ただ魔法がつかえる魔法具と水の中で息ができる魔法具とやらが一緒に買えるかどうかかな』
「う~ん、行ってみないとなんとも言えないだろうけどね~」
「ふむ、そうさね、とりあえずフカヒレ10枚の納品を約束してくれるなら、この1本はサービスしておくよ。後はフカヒレだけなら本来買い取りは1枚30マナだけど、10枚纏めてなら最初だけ600マナで買い取るさね」
……つまり倍か、悪い条件じゃないかもな。勿論色々戦い方や回収方法を考える必要があるけど、そのあたりは先ず魔法具の店とやらに行ってからでもあるか――でも。
『ミラ、これは受けておこう。その薬1本でも譲ってもらえるのは有り難い』
「う、うん、そうだね。判ったよ。フカヒレ10枚お約束します」
「決まりさね」
そんなわけで、アロマから依頼を受けることになったな。それにしても、フカヒレのスープとやらはそんなに美味しいのかね。
まあ、どっちにしろ俺は味わえないけど、でも店を出てからも、フカヒレかぁ、とミラがなんか涎を垂らしてた。
やれやれ、結構食いしん坊だなミラは。




