第四十三話 アロマとテラピー
店の奥から姿を見せたおばあちゃんはいろんな意味でデカかった。
そして、これ本当におばあちゃんなのか? というぐらい若々しかった。
孫のテラピーと同じく髪は白髪だが、孫の髪も白なことを考えると、白髪というよりはもともと白なんだろうな。
ただ、肌の色はこっちのおばあちゃん(?)は赤茶けた肌をしていて、何より女性にしてはなんとも逞しい。格好はシャツの上から白衣を羽織っていて、背は高い。確実にミラより高いし、成人した男でもここまで高いのはそうはいない気がするな。
きつそうな顔はしてるけど、美人と言って差し支えない面立ち。そして――なんか胸もでかい。身体の大きさも相まって、ドーーーーン! という効果音が似合いそうな感じだ。
そんなおばあちゃんが――カウンターに立つなり、ミラのことをまじまじと見つめだした。
「ふうん、確かに初めて見る顔じゃないか。しかも中々可愛らしい顔して、正直そんなに強そうに見えないんだけどね」
第一印象を容赦なく告げてくる。確かにミラは男にしては柔らかい面立ちだしな。そう思われても仕方ないかもだけど。
「まあいいさね。わっしはアロマ。この店の薬師さ。それで、店に来たって事は何か薬が欲しいのかい?」
なるほど。確かにさっきの幼女は薬師としては若すぎだしな。この人が薬師というなら納得が……いや、ちょっと逞しすぎてやっぱなんか違和感ないでもないけど。
「あ、はい、薬も見たいのですが、あと材料になりそうなのを少しもっていて」
ミラはカウンターの上にブラックウィドウの牙を置いてみせた。
確かにこれは薬師の店でなら買い取ってくれると言っていた素材だな。
「ブラックウィドウの牙だね。ふ~ん、まあ買い取ってもいいけど、10本あるなら、5本で通常の解毒薬1本と交換も出来るけど、どうするかい?」
解毒薬か――ゴブリンの事があるしな。
『ミラ、ここは解毒薬の方がいいと思う。ただ通常のってのが気になるけどな』
「うん、そうだね――あの通常のという事は他にも解毒薬が?」
「ああ、毒にも種類があるからな。大体の毒はこの解毒薬でいけるが」
そう言ってアロマがカウンターの上に小さな瓶を置く。中には薄緑色の液体が入っていた。ボックルから購入したのと同じタイプだな。
「ただ、中には毒は毒でも強毒という強い毒を持っているのもいる。そういった毒はこれでは無理だからねえ。こっちの強毒用の解毒薬が必要になる」
薄緑色の解毒薬の隣に濃緑色の液体が入った瓶が置かれた。こっちは……なんか見る限り苦そうだな。
「毒はその2種類だけですか?」
「いや、他にも血が止まらなくなる毒、麻痺毒なんてのもあるさ。それに毒以外にも石化や病、混乱、狂乱なんてのも状態異常としてはあるからねぇ。全ての状態異常に対応するとなると万能薬という形で扱っているけど、それなりの値段はするさね」
「それなりというと?」
「1本、3000マナ」
たか! 流石に手が出ないな……。
『ミラ、とりあえず解毒薬だ。今のところ他の状態異常を引き起こしてくるのもいないしな』
俺がそう告げると、ミラはコクリと頷き、それじゃあ、と、とりあえず解毒剤2本と交換した。
「毎度ありなの!」
店番担当というだけあって、素材と薬の交換はテラピーがやってくれた。
うんしょ、うんしょ、と薬を取ってくる姿がなんともいじらしい。
ミラも顔が緩みきってるな。
「他には何かいるかい?」
薬師のアロマがそう聞いてきたので、何があるかを聞いてみた。
すると、HP回復ポーションやMP回復ポーションは勿論として、特殊な効果のある魔法薬も取り揃えているようだ。
その中から予算内で買えそうなのをピックアップしてもらったわけだが。
「こっちは強化の薬。一時的に力を強化して攻撃力が上がる。これは疾風の薬さね、素早さが上がる。この鉄壁の薬は肉体が鉄のように固くなって防御力が上がるよ。他にも――」
どうやら各ステータスごとに一時的に強化出来る薬があるようだ。ただ一番効果の低い薬でも200マナと結構してしまうな――
とは言え、折角なので強化と鉄壁を一本ずつ購入しておくことにする。後はHP回復の効果・中を2本ミラが購入した。
「ところで……剣の耐久値を回復できる薬なんてありますか?」
これだけ買えばとりあえずいいかなと思っていたのだが、ミラがアロマに更に質問。
耐久値回復か……確かにあればいざという時に役立ちそうだけど、でもそう簡単には――
「うん? あるさね。テラピー」
「はいなの~」
て、あるのかよ!
そして、再びテラピーがうんしょうんしょっと棚から薬を取りカウンターの上まで持ってきた。
「これだよ。ただ、正直ちょっと割高になるさね。こっちの耐久値を10回復できる薬で、1本300マナだよ」
たか! つまり耐久値1につき30マナ掛かってるってことだ。ドゴンに頼めは1回復するのに5マナだから6倍にもなる。
「それでいいです。1本ください」
『お、おいミラ! いいのかよ!』
「うん、だっていざとなった時に、回復する手がないと困るしね。それに、これはお互いのためだよ」
ま、まあそう言われると確かにそうなんだけどな。俺の耐久値が0になればミラも……そう考えると確かに必要かもしれない。
「判った。買い物はこれぐらいかい?」
「はい、とりあえずはこれで……」
「そうかい、じゃあ後はテラピー頼んだよ。ああ、それとだ。その耐久値を回復できる薬はポーションと一緒ですぐに回復出来るわけじゃないからそこは気をつけるんだね」
なるほど。つまり、かけてから徐々に回復していくタイプってことだな。そう考えるとあまりギリギリにかけるのは不味いかもしれないな。
「はい、あの、色々とありがとうございます」
「別にわっしは客に説明しただけさね。まあ、精々身体には気をつけるんだね」
そう言って奥へと引っ込んでいく。そして後を任されたテラピーがカウンターに薬を並べてくれる。
「全部で820マナなの! 毎度ありなの!」
ミラは提示された金額を支払い、薬をウェストバッグに詰め込んだ。そんなに大きくない瓶だしな。
ブラックウィドウの牙と解毒剤を交換した影響で多少余裕があったようだし。
そして、また宜しくね、とテラピーに笑顔で述べ、ミラは店を後にした。
「この店は覚えておかないとね」
『ああ、何かしら役立つ薬が手に入るかもしれないしな』
うん、とミラが大きく頷き、そして途中で神秘の泉の水でミラが喉を潤し、水筒に水を汲んだ後、改めて来た道を引き返す。
とりあえずは、水が引いてると思うし、またあの場所まで戻らないとな――




