第四十話 ゴブリンロードとの再戦
ミラは鞘に収めた俺を背中に装着すると、決意めいた表情で横穴を進み始めた。
俺が言ったように、奥の穴は上に向かっているようで、勾配がミラから見て上がる形で付いており、それが螺旋状に回転しながら続いていた。
正直ぐるぐる回っていると方向感覚が狂いそうになるが、幸いなことに分かれ道などはなさそうなので、このまま上っていけば件の決戦場所に辿り着けそうである。
「出口が見えてきたね」
ミラがそう述べると、確かに視線の先で真上に昇るための穴がぽっかりと見えた。位置的にもあそこを上がれば、ほぼ間違いなくゴブリンロードの待つ、あの戦場に出ることだろう。
「じゃあ、行くよ!」
意を決してミラが穴のすぐ下まで移動する。だが、にやけたゴブリンロードの顔がすぐ真上にあった。その大剣の刃はミラに向けられている。
『狙われてる! 引っ込めミラ!』
「な!?」
ミラが一旦身体を穴から引っ込めると、大剣が地面を深く抉った。
それに思わず顔を青くさせるミラである。流石に今のは後少し反応が遅れていたら串刺しになっていたところだからな。
それにしてもどうして判ったんだ? と、そんな考える暇も与えるかと、ゴブリンロードが剣を引き抜き、やたらめったらと地面に刃を貫通させてきた。
横穴の中にいるミラを串刺しにするつもりかよ! とにかくミラは慌てて後ろへと下がっていく。急げ急げ!
「な、なんで出るタイミングがわかったのよ――」
そしてなんとか追撃から逃れたミラが、怪訝そうに述べるが、俺にはピンっとくるものがあった。
しかし、とは言え、まさかそんな方法で来るとはな。
『多分、あれはずっと俺達が出てくるのを待ってたんだ。あのゴブリンロードは俺達がどの穴に入っていったかよく見ていた可能性がある。それならば、入った位置から出てくる穴も判断できるだろう』
「え? ということは、僕達が出てくるのをずっと待っていたってこと? 何で気の長い……」
確かにな。だけどあの体格じゃ中には入ってこれないしな。だから相手からしたら待ち続けるしかなかったんだろう。
『しかし参ったな。あんなところでずっと待ち伏せされてると、動くに動けないじゃないか』
「……いや! 大丈夫だよ!」
ん? 何かミラは思いついたのか? そう思いつつミラの様子を見ていると。
「もう! なんで僕の居場所が判っちゃったんだよ~~~~! こんなのおかしいよーーーー!」
突如ミラが大声でそんなことをわめき始めた。何事か? と思ったが、ドスンドスンドスン、とゴブリンロードの足音が響いてくると同時にミラがあの穴に向かって移動を始める。
あ~なるほどそういうことか。
ミラの考えが判り俺が感心していると、案の定、ミラが大声を上げたあたりにゴブリンロードの剣がブスブスと突き刺されていく。
ゴブリンロードからしてみれば穴の中まで覗き込めない以上、ある程度は音で判断するしかなかったってわけだ。
上から覗いて、ミラがやって来るのを確認する分にはいいが、そんな真似が通用するのは一回限り。それは相手も重々承知の上で、だからこそ今度はミラの声を頼りに攻撃を仕掛けてきたんだろうけど甘かったな。
やはり、他のゴブリンよりは賢いといっても、限界はあったようだ。そしてミラは余裕の表情で地上へ脱出。
するとゴブリンロードがこちらに気が付き、地団駄を踏み始めた。うん、悔しそうだな。
そしてその直後、先に仕掛けてきたのはゴブリンロードの方だ。
ドスドスと重苦しい音を奏で、地面を揺らし距離を詰め、上段に構えてミラに迫る。
俺がバスタードソードに進化したとはいえ、単純な大きさならゴブリンロードの持っている大剣の方がでかい。
ゴブリンロードのもともとの体格の良さもあってか、大剣を構えるその姿はかなりの迫力だ。
そして――振り下ろされる豪剣。
ミラは斜め後方に飛び退きそれを躱す。しかし大剣の重さとゴブリンロードの怪力の乗った斬撃は、地面を抉り、土塊を飛び散らせる。
地面が爆散したことでミラの視界が悪くなり、更にゴブリンの大剣が地面にめり込み、刃の半分以上が見えなくなった。
その状態から、ゴブリンロードが無理やり剣を斜めに振り上げる。
前回はこれでミラも攻撃範囲を図りそこねたが――しかし今度は見事、紙一重の動きで迫る刃を見切り、目と鼻の先を通り過ぎる刃を認めた直後、ハァッ! と気合を込めた突きで反撃に転ずる。
ミラが渾身の力を込めて放った突きは、ゴブリンロードの鎧によって阻まれるが――しかし進化によって突きの威力も確実に上がっている。
その効果が今、はっきりと表れた。ゴブリンロードの鋼の鎧を、ミラの突きは見事に貫き刃が内側へと食い込んでいく。
ゴブリンロードの苦痛の声が周囲に広がった。間違いなくダメージは与えているな。
だが、流石に刃の全てが突き刺さることはなかった。そこはやはり頑強な肉体の持ち主だ。
そして途中で刃が止まったことを確認したミラは、即座に腕を捻り俺を引っこ抜く。
その行為一つでもダメージには繋がっていそうだが、致命傷とまではいっていないようで、ゴブリンロードの瞳には憎悪の炎が灯っていた。
『どうやら心は折れてないようだな』
「うん、それどころか、やる気は余計に増したって感じだね」
確かにな。ただ、ミラの表情は最初に対峙した時よりはだいぶ落ち着いているようだな。
攻撃が通ると判ったのが大きいのかもしれない。そう考えるとやはり進化したのは正解だったか。
「グ、グオオォォオォオォォオオオ!」
そして今度は奴が雄叫びを上げてきた。だが、そんなものはもうミラには通じない。鉄の精神のレベルは上がっているし、進化した影響なのか、前より更に動じなくなっている。
その為、むしろこの雄叫びは好都合。隙だらけであり、どうぞ攻撃して下さいと言っているようなものだ。
なのでミラは踏み込み、スキルの連撃で攻撃。脇腹を鎧ごと斬り裂き、更に2撃目で肩口に傷を残す。
ゴブリンロードに苦悶の表情。しかし、相手もこんなところでやられるか! と必死の形相で手持ちの大剣を振り回してくる。
斜めに、下から上に、水平に、更に体重の乗った突きまで、一通りの攻撃を見せてくるゴブリンロードであったが――その全てをミラは危なげなく躱して見せた。
……正直、いくら進化したとは言え、ここまで圧倒できるとは驚きだな。ミラは終始両手持ちの構えを維持していて、だから盾には頼らない形で、ロングソードの頃に比べると動きも少ないけど、その分どっしりと構えて相手に応じていて、しかも動きの軽やかさが殺されているわけでもなく、必要最低限の動きを素早く行うという形にシフトしている様子。
おかげでゴブリンロードもミラの動きを読みあぐねているようだな。逆にミラは一度戦ったことから相手の攻撃パターンを把握し、落ち着いて対処が出来ている。
そもそも改めて見てみると、ゴブリンロードの攻撃には予備動作が大きいものも多い。鎧に守られていて攻撃が通らなかった時は、隙を突こうにも相手は防具と自分自身の肉体の強さを頼りに攻撃を受けながらでも問答無用で反撃され劣勢に立たされたが、今はミラの攻撃が十分に通用しているだけに、その恐れもない。
だからか――蓋を開けてしまえば、進化前はあれほど苦戦したゴブリンロードもミラの反撃に為す術もなく、それから数度の剣戟の交わし合いの果てに――遂に地面へと崩れ落ち活動を止めた。
――進化PTを100得ました。
――経験値を300得ました。
……いや、それにしても流石ロードだけあって、経験値も進化PTももらえる量が多いな……。




