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第十九話 ドワーフの鍛冶屋

 ボックルと別れ、ミラは早速ポーションを口に含みHPを回復させた。

 10%ということで回復量は6。かなり心許ない。

 ただ、回復ポーションは意識することで、どの傷を回復できるかはある程度自由がきくようだ。


 ミラは当然脚を回復させるように意識したようだ。

 その為多少は傷もマシになったようだけど、それでも完璧とはいえないな……。


 一応他にもとっておいたアロイル草も使用したが、正直気休め程度だ。


 まぁとりあえずは、ボックルの言ってたいた通り、東の狭くなった通路を抜け、奥の空洞に出る。

 ボックルが北を教えてくれたから、なんとなく方角はつかめるようになったな。


「あ、ここかな」


 ミラが指で示した方向には、確かに洞窟の壁際に木製の扉が張り付いていた。

 なんか……結構な違和感があるが、扉の上には同じく木製の看板があり、槌をふたつ交差させた模様が刻まれている。


「お邪魔しま~す」

 

 扉を開け、ミラが中に入る。店の中は――思ったより普通だった。

 というか、中は周囲が煉瓦で積み上げられた壁で囲まれた店だった。

 

 壁には武器や盾などが掛けられていて、鎧なんかは全身甲冑が床にドーンっと置かれていたりもする。


 正面には木製のカウンターがあり、奥には同じく煉瓦の壁。その右端が馬蹄状に繰り抜かれており、その奥からハンマーの奏でるリズムが響き渡っていた。


『誰かいるのは間違いなさそうだな』

「うん、そうだね。すみませ~ん」

 

 俺の言葉に頷き、再度ミラが声を掛ける。

 すると音がやみ、ゆっくりだがしっかりとした足音が俺達の耳に届いた。


「誰だ?」


 カウンターに姿を見せ誰何してきたのは――なんとも(いかめ)しい顔をした男だった。 

 ずんぐりむっくりな体型、白い髪に、もさもさとした口と顎とで繋がった髭。

 しかし鍛え上げられた筋肉は相当なもので、肩と上腕二頭筋の膨張ぶりは、歴戦の戦士が裸足で逃げ出しそうな程だ。


「あ、あの僕達、ボックルさんにここに良い鍛冶屋があると聞いてやってきたのだけど……」


 ミラがそう答えると、ドワーフの……ボックルの話だとドゴンって言ってたかな。

 そのドゴンが、上から下までミラの姿をまじまじと眺める。

 

「なんかあまり頼りにならなそうな体つきだな」


「ははっ……」


 ミラが苦笑し、顎を掻いた。そんな事を言われても反応に困るだろう。

 それにしても遠慮がないなこの親父。


「……で? 何かようか?」


「あ、うん、実は僕の持ってる剣を直してもらいたいというか、耐久値を回復させたいんだ」


「……見せてみろ」


 ドゴンの言葉で、ミラが俺をカウンターに乗せた。

 ドゴンの太い指が俺を弄くりマジマジと眺めてくる。


 ……なんか微妙な気分だな。別に触られてる感覚があるわけでもないが。


「……これなら耐久値を1回復するのに5マナ分の魔晶ってところだな」


「1で5マナですか……」

 

 ちょっと困った顔でミラが言う。さっきポーションをボックルから購入したから当然、今は魔晶は余っていない。


「じゃあ今はまだ無理かな。持ち合わせがなくて」


 そう言ってため息混じりにミラが諦めかけると、再びマジマジとドゴンがその姿を眺めてくる。

 そして一旦瞑目したかと思えば。


「……だったら初回だけサービスしてやる。次からはしっかり取るがな」


 そんな言葉を口にしてきた。それにミラが目を丸くさせる。それにしてもシンクロのおかげか、手から離れてもある程度はミラの様子とか判るんだな。


「それだと助かります! けど、いいのですか?」


「俺がいいと言ってるんだ。問題ない。ならちょっと借りてくぞ」

 

 それから俺をひょいと持ち上げ、ドゴンが奥の部屋まで入っていった。

 有無をいわさずって感じだな。

 こっからは剣としての俺の視界で見ることになるが、奥の部屋は完全に仕事場って感じだな。


 剣を鍛えるための炉もあるし、焼入れ用の液体が並々と注がれた器もある。

 見たところは使ってるのはただの水ってわけじゃなさそうだな。ドロッとしてる感じだし。


 そしてドゴンは炉に火を入れる。意外とあっさり熱を持つんだな。魔法的な何かか?


 ……いや、そもそもなんで火を入れた? え? どうなるの俺?


 で、かと思えばドゴンは俺を石の台に乗せて、ハンマーで――


『ちょ! ちょっと待ったーーーーーー!』


 思わず俺が声を上げると、ドゴンの動きが止まった。

 あ、つい念話で叫んじゃったよ、ヤベ。


「……なんだお前喋れるのか」

『あ、あぁ……』


 目を見開き、手にとった俺をじっと見据えながら問いかけられた。

 こうなるともう誤魔化しようもないからあっさり認めてしまったがな。


「……そうか」


 ドゴンは一言だけ呟き、で、またハンマーをっておい!


『だからちょっと待て! 俺をハンマーで叩く気かよ!』


「そうだが? 修復するのだからハンマーで叩くし研ぐし炉にも入れて焼くぞ」


 何ですかその拷問。


『冗談じゃない! そんな事されたら死んでしまう!』


「……お前は痛みを感じるのか?」


 ……え? あ、あぁそういえば。


『感じない、な』


「当然だな。痛みを感じる剣など使いものにならないだろう」

 

 言われてみればそのとおりだな。例えば鎧を斬る度に痛い痛い言ってたら使う方は溜まったもんじゃない。


『それにしても……修復にここまでする必要があるんだな』


「並の剣ならここまではしないが、お前はかなり特殊な剣なようだしな。まぁとにかく黙ってろ。痛みはないが、恐らくそれ以上の事はある」


 うん? それ以上のこと? 

 まぁなんの事かよくわからないが、気を取り直して、俺は改めてドゴンのハンマーを受ける、が。


『ふぁ、ふぁああぁああぁ……』


 思わず声が出た……いや、だってなんかすげぇ気持ちがいい。

 なんだこれ、ハンマーで叩かれているだけなのに、まるで極上のマッサージでも受けてるようなそんな気分だ。


 やべぇ、これ、癖になりそう。

 しかもその後、炉と焼き入れのコンビネーションで湯に浸かったかのような気分に浸り、身体を研がれることで、体全体を洗われ汚れが落ちていくような気持ちに――や、やばい、癖になりそうだ。

 こんなおっさんなのに! こんな太い指なのに! 悔しい!





「ほら、出来たぞ」

「わ! 凄い! まるで新品みたい!」


 修復の終わった俺を手にとって見て、ミラが声を上げた。

 だけどな、ミラ――


『ミラ、俺はすっかり、汚されちまったよ――』

「一体何があったの!?」


 いえねぇ、こんなおっさんの手で何度も絶頂を迎えそうになったなんて、死んでも言えねぇよ……。


 それにしても神秘の水といい、痛みも空腹も感じず睡眠すら必要ない俺だけど、場合によっては冷たかったり、まあ、なんだ、気持ちよかったりすることもあるんだな、うん。


「ま、まぁ何があったか判らないけど本当にありがとうございます。それにしても凄いですね。僕もあまり詳しくないけど、ここにある装備はどれもなんか凄いというか、こだわりを感じます」


「別に大したことじゃない。こっちも好きでやってるだけだ」


 ぶっきらぼうに返してくるな。まあ、これはもともとそういう性格なんだろうけど。


『ところでひとつ質問したいんだが、装備に補助属性ってあるけど、これはなんの意味があるんだ?』

「あれ? エッジもう話してるんだ」

「ああ、さっき色々あってな」

「色々?」


 言わせんな! なんとなく恥ずかしいんだから!


「なんだお前たちはそんな事も知らないのか。補助属性ってのは火とか水とかあんだろ? その関係の属性だよ。攻撃力に関して言えば例えば火属性が強ければ火属性に弱い相手がいればより大きなダメージが期待できる。逆に防具なら火属性が強ければ文字通り火の攻撃や魔法に対してダメージが軽減されたりする」


 あ~、やっぱりそういうことなんだな。確証はなかったしガイドの説明も曖昧だったから気になっていたけど、これですっきりした。


「理解できたか?」


『ああ大丈夫だ。ありがとう』


「僕も改めてよく判ったよ。ありがとうドゴンさん」


「……ドゴンでいい。さんとかむず痒くなって仕方がない。やめてくれ」


「え? あ、はい判りました。それじゃあ改めて、ありがとうドゴン」


 ……う~ん、基本ムスッとしてそうな顔なんだけど、今一瞬頬が緩んだような……気のせいか? いや、まさか変な趣味とかもってないよな?


「それよりも――」


 と、俺がそんなことを心配していたら、ドゴンがミラをじろりと見やり、更に言葉を続ける。

 それにしても、一々睨んでるみたいになるなこのおっさん。

 

「武器はともかく、防具はぼろぼろだな。流石にそれまでただでってわけにもいかないが、正直それは手を入れたところで限界があるだろう」


「……はい。実は恥ずかしい話、これも拾い物みたいなもので……本当はここにある装備みたいのが手に入ればいいんだろうけど……」


 ミラが答えると、ふんっ、とドゴンは鼻を鳴らし。


「ここに飾ってる防具はどれも鉄製だ。お前さんはみたところ脚を使う戦い方がメインだろ。攻撃は避けるか、その盾で受け流すのが主流ってところに思えるが」


「え? あ、はい、その通りです。でも凄いな、そこまで判っちゃうんだ」


「伊達にこの仕事を続けてるわけじゃない。しかし、それなら今の装備、つまり革製をメインで考えるべきだろうな」


「革、か……でもどっちにしろ今は持ち合わせもないし厳しいかな――」


 眉を落としミラが残念そうに口にする。

 

「装備ってのは別に既にあるもんを買うばかりがのうじゃない。それにどっちにしろここに革の在庫はない。いい革の装備が欲しければある程度自分で材料を探してくるんだな」


「材料?」


 ドゴンの言葉にミラが反応を示す。


「あぁそうだ。ここから南にいったところにはダッシュリザードという蜥蜴のような魔物が生息してる。その皮を素材に使えば今よりは多少はマシになるだろうさ」


「ダッシュリザード……それはどれぐらいあれば作れるのかな?」


「そうだな。先ずは胸当て、盾、それに兜、腕には滑り止めも兼ねたグローブ、脚には具足も必要だろ。特に脚は今も怪我してるみたいだが、そこを狙われると致命傷だろうしな」


 それは確かに……ブラックウィドウ戦はそれで危なかった。


「胸当てに10,盾に5,兜に3、具足に3、手袋には1ってとこだな。合計22体分あれば全て揃う。費用で言えば胸当てに150マナ分、盾に100マナ分、兜に80マナ分、具足に80マナ分、グローブで50マナ分、合計460マナ分の魔晶が必要だが、纏めての注文なら400マナにまけてもいい」


 つまり一つ一つの注文ではなく、素材を全て持ってきて纏めて費用を払えば60マナ分安くやってくれるって事か……しかし。


『そのダッシュリザードという魔物はどの程度の強さなんだ? それにマナの方も結構大変そうにも思えるな』


「装備を揃えるのに贅沢言ってる場合でもないだろう。それに装備に見合った強さを手に入れるなら丁度いい相手でもある。ブラックウィドウぐらいは倒せたんだろ? ダッシュリザードは確かに今の実力じゃ楽なあいてではないだろうが、1匹1匹あいてにするならなんとかなるだろ。相手の特性を上手く見極めることだな」


『その特性ってなんだ?』

「それぐらいはてめぇで考えろ」


 くっ……むしろそれぐらい教えてくれてもいいだろう。


「それとダッシュリザードの皮は素材以外で余る分があれば、一枚15マナ分の魔晶と交換もする」


「え? あ、そっか。そういう素材も買い取り対象になるんだ。あれ? じゃあイビルバットやブラックウィドウやゴブリンも何か役立つ素材があるのかな?」


「ゴブリンは魔晶以外に役立つのはない。イビルバットはうちじゃ無価値だな、飛膜と爪は、薬師が利用するから買い取ってくれる。ブラックウィドウも牙から毒を採取できるから同じく薬師の領分だ」


『てことは、薬師が存在するのか?』

「いるはずだ。その辺はボックルの方が詳しいだろう。俺はどこに店があるかまでは知らん」


 なんとも曖昧な情報だな。


「でもありがとう。おかげでとりあえず何をすべきか目標が出来たよ」


「……そうか。それならお前の持ってるナイフをちょっと見せてみろ」


「え? ナイフ?」


 ミラは若干戸惑った様子も見せたが、ナイフを取り出して、カウンターの上に置いた。


「……ボロボロだな」

「それも拾い物で……」

『ゴブリンが使ってたものだしな』


「これは俺が引き取る。代わりにこれを持ってけ。ダッシュリザードの皮を剥ぐならこれぐらいは最低必要だろう」


「え? でも……」


「余った素材で気晴らしに拵えたもんだ。どうせ売り物にする気もなかったものだ。あましておくぐらいならやったほうがまだいい。それとロープだ。皮を剥ぐなら持ち帰る用に縛っておくのも必要だろう」


 ……あれ? もしかしてこのドワーフ意外と、なんか最初はツンケンしてるようにも思えたけど、意外と優しいところあるのか?


「あ、ありがとうございます」

「それとこれもあまりもんだ」


 言ってドワーフはナイフの他に赤い液体の入った瓶も置いた。

 でも、これ――


「ポーション……こんなものまで本当にいいのですか?」


「そんなボロボロの状態で狩りにいっても死ぬだけだ。素材を持って来てもらったほうが俺は儲かる。それにどうせ余りものだ」


「あ、ありがとうございます。ドゴンは優しいんですね」

「そんなんじゃねぇ! これは商売の為にやってるだけだ。それにこれっきりだ、次からはサービスは一切しないからな」


 ……うん、なんだろうこれ――とりあえず素直じゃない性格っぽいのは確かだな。


 まぁそんなわけで俺達は辞去し、その素材集めのためにダッシュリザード狩りに向かうこととなった――



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