第十八話 情報を得る
『ところでHPを回復出来る薬は持ってないか? 商人なんだろ?』
俺はボックルの袋の中身に期待して尋ねてみた。何せミラのHPがかなり心もとない。
「あるポン」
「本当? それがあると僕も助かるな」
「譲ってあげてもいいポン。でもただってわけにもいかないポン」
対価を求める気なのかよ……。
『助けたのにその辺考慮してくれないのかよ』
「お礼は毒消しを上げたポン。あれだって本来は対価を貰うポン」
「ま、仕方ないよね。何かを得るには何かを失う必要がある、等価交換だっけ?」
う~んその言葉は知識としてもあるな。ミラがなんで疑問形なのかわからないけど。
『でもミラ、支払えそうな物は持ってるのか?』
「う、う~ん実は金貨どころか銅貨だって持ち合わせがないんだよね」
困ったようにミラが唸る。
どうやらこういった場合に支払うのは金貨や銅貨といったものらしいな。
「そんなものはいらないポン。ここじゃ銅貨とか金貨とか糞の役にも立たないポン」
『お前……中々下品な言葉も使うんだな』
「でも本当のことポン。金貨なんてケツ拭く金貨にもなりゃしないポン」
「そ、それはそうだろうね……」
おい! ミラが軽く引いてるぞ!
でも、役に立たないか……確かによく考えたら迷宮でそんなものがあっても意味は無いか。
『でも、だったら何で支払えばいいんだ?』
「決まってるポン。魔晶ポン。この迷宮じゃそれが全てポン」
あぁなるほど。そういえばこいつ魔晶を集めるのも仕事といってたな。
「魔晶? これでいい?」
言ってミラが途中で回収した魔晶を差し出す。しかしボックルは首を横に振った。
何が不満なんだこいつ。
「それじゃあ足りないポン。回復用のポーションは最低でも20マナ分の魔晶が必要ポン。それはイビルバットの魔晶ポン。ひとつ1マナ、4つだと4マナ分にしかならないポン」
「マナ?」
『なんだマナって?』
俺とミラがほぼ同時に疑問の声を上げる。
「魔晶の価値を測る為の単位ポン」
『そういう事か。つまりここじゃ魔晶が支払いの基準として考えられているんだな』
「すごいやエッジ。その説明凄く判りやすい」
……いや、そんなことで褒められてもな。
「今その剣と話してるポン? おいらには聞こえる時と聞こえない時があるポン」
そうなのか? あぁでも念話はそもそも対象一人に念を送るスキルだもんな。
あれ、でも?
『ミラは俺がボックルに念を送ってる場合も聞こえてるんだな』
「うん、しっかり聞こえてるよ~」
そうか……これもシンクロの効果なのかな。
「よくわからないけど、とにかくポーションがほしいなら、そうポン! このブラックウィドウの魔晶を譲ってくれるなら分けるポン」
「え? いいの??」
「いいポン。このブラックウィドウの権利はまだミラ達にあるポン。本来はブラックウィドウの魔晶はひとつ3マナ、合計で16マナポン。少し足りないけどそれはサービスするポン」
「本当! ありがとう! じゃあそれでお願い!」
ミラがあっさりと食いついてしまったけど……大丈夫なのか? いや今は仕方ないけど、魔晶の価値とか本当か嘘かも判らないしな……俺もそれが判断できればいいんだが――
――パッシブスキル【マナ換算】がアンロックされました。
――スキルリストに追加いたします。
ナイスタイミング!
見てみたら魔晶の価値がマナで判るというものだったし。
『ミラ、マナ換算というスキルを覚えた。これで魔晶の価値が判る。ポイントも10と少ないし』
「え? それ便利そうだね。うん覚えちゃおう」
――パッシブスキル【マナ換算】の取得には進化PTが10必要です。宜しいですか?
【現在の進化PT:59】
頼んだ。
――パッシブスキル【マナ換算】を取得しました。ステータス欄に追加いたします。
「確かに回収したポン」
『ボックルちょっとその魔晶見せてもらっていいか?』
「うん? 別にいいポン。でも今更なしはないポン」
それは価値を知ってからだな。
で、ブラックウィドウの魔晶の価値は――
・ブラックウィドウの魔晶:3マナ
『……うん、問題ないな。ありがとう』
ボックルが不思議そうに小首を傾げた。いや、疑ってすまんかった。
「じゃあはい。これが回復用のポーションポン。一番効果は低いから回復量は最大値の10%ぐらいポン」
ありがとう、といってミラが受け取った。
でも、10%か……少々心許ないな。
『もっと効果たかいのもあるのか?』
「25%回復で60マナ分、50%回復分で200マナ分の魔晶が必要だポン。ちなみに魔力回復用もあるけどこっちは価値がHP分の倍。毒消しの薬はさっきのが10マナ、強力な毒用なら50マナだポン」
『ちょっと待て、それは計算おかしくないか? 25%回復で60マナってそれなら10%用を3つ買えば30%回復で効果が大きいだろ』
「それは甘いポン。ポーションは使ってもすぐに回復はしないポン。徐々に回復するポン。おまけに一度使用したら連続使用すると回復までの時間が伸びるポン。つまり効果の大きいのを使ったほうが結果的に早く回復出来るポン。その分当然価値はあがるポン」
……そんな事情があったのか。使用すればすぐに回復するとかそこまで便利なものでもないんだな。
自然治癒力を増強させてるとかそれに近いのかもしれない。
「ポーションに関しては僕の知ってるのと同じだね」
そしてそれを証明する言葉をミラが口にする。
納得するしかないな……
「じゃあ他になければおいらは行くポン。あまりのんびりもしてられないポン」
『あっと! ちょっと待ってくれ。俺を直せる道具みたいのは何かないか?』
「ポン? 直せる?」
『あぁ、少しずつ耐久値が減ってきてるんだ。このままだと壊れてしまう』
なんか自分で壊れるとかいうのも変な気分だけどな。
「ポン、それならここからそっちの道を抜けるポン。そうすると北側に鍛冶屋の扉があるポン。そこにいるドワーフのドゴンに頼んでみるといいポン」
「へ~こんなところに鍛冶屋があるんだ。しかもドワーフだって。鍛冶に関しては一流の種族だよ良かったねエッジ」
『あ、あぁそうだな』
本当に意外だけどな。客いるのか、こんな迷宮に? それにしてもドワーフか。なんとなく知識にはあるけどな、偏屈なイメージで。
「じゃあ今度こそ行くポン。あ、せっかくだから一つ教えとくポン。そこの階段の先にはよっぽど自信がない限り行かないほうがいいポン」
『なんだ何かあるのか?』
「ゴブリンがいつの間にか増えて縄張りにしてるポン。邪魔だから誰かが倒してくれるとありがたいけど、相手はかなり強いポン」
うん? ゴブリン?
「ゴブリンぐらいなら僕達でもなんとかなると思うけど……」
『あぁ、ミラはゴブリンリーダーだって倒したしな』
ミラと俺はボックルに向けてそう告げる。
しかしボックルは首を横に振り。
「リーダーぐらい倒せてもどうしようもないポン。その先にはゴブリンロードがいるポン。それにロードの周りにはホブゴブリンも控えてるポン。兵隊のゴブリンもかなりレベル高めポン。ブラックウィドウに苦戦するようなら厳しいと思うポン。でも倒してくれたら感謝するポン」
……ゴブリンロードか。確かにそうなるとかなり強そうだな。
それにブラックウィドウの事も言われるとな……レベルが足りないって奴か。
そんな感じにある程度話し終えた後は、ボックルはスタコラと何処かへ走り去っていった。
「いっちゃったね」
『あぁ、でも商人だと言ってるしこの辺りをうろついてるならまた会うこともあるかもな』
うん、そうだね、とミラが微笑み。
「じゃあ、その鍛冶屋に行ってみようか」




