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第十七話 商人のボックル

「毒といっても、弱毒だから、そんなに心配するほどでも、ないと思うんだけど……」


 ミラは気丈に振る舞い、俺を心配させまいと頑張って笑顔さえ浮かべているが、無理をしているのは見え見えだ。


『そんな筈はないだろ。息も荒いし、それにさっきの戦いでかなりHPも削られてる筈だ。弱毒というのがそれほど強力でないにしても、疲労が蓄積してる今はかなり辛いはずだろ』


「大丈夫だよ、それに、辛いからって黙っていても解決しないしね」


 ……それは、確かにそのとおりだ。俺も結局のところ今はただの剣、どんなに心配しても治療が施せるわけでもない。


 しかしかと言って、このまま動きまわるような真似は得策ではないだろう。

 毒を消すことの出来る何かがあればいいんだが――


「あ、あのう……大丈夫かポン?」


 ん? この声……ミラもその声に反応し顔を向ける。

 ミラの見た方向には上りの階段がある。洞窟内にしては奇妙な光景だが、その階段を下りて来たのがさっきまでブラックウィドウに襲われていた奴だ。


 俺達がブラックウィドウを相手してる間にちゃっかりに逃げ、階段の上あたりで様子を見ていたんだろう。


「君は、良かった無事で、怪我も、ないみたい、だね」


「おかげで助かったポン。でも苦しそうポン」


『お前を助けようとしてこうなったんだよ。全く、ちゃっかり逃げておいて調子いいな』


「……エッジ」


「え? 今の誰ポン! 誰が喋ったポン!」


 ……あ、やべ、つい念話でこのポンポンうるさい奴に喋りかけてしまった。


「驚かせてごめん、その、喋ってるのは、僕の、この、剣」


「ぽ、ポン! け、剣が喋ってるのかポン!」


 ……やばいな。随分と驚いてるし面倒な事にならないといいんだが。


「……でもまあ、そういう事もあるポン」


『あっさりだなおい!』


 俺は思わず念話で突っ込んでしまった。あまりにノリがかるすぎたからついだ。


「ちなみに、この剣は、エッジと、いうんだよ。僕は、ミラ」


 ニコリと微笑んで俺を紹介するミラだが、あまり無理すんなって苦しそうなんだから。


「エッジかポン。そっちも助けてくれてありがとうポン。ちなみにキュートなおいらはボックルポン。宜しくポン」


『お、おう』

 

 てか、自分でキュートって言っちゃうのかこいつ。


「ところでやっぱり苦しそうポン。もしかして毒を喰らってるポン?」


『あぁ、ミラはさっきの蜘蛛に噛まれてな。弱毒状態だ』


「あぁ、なるほどポン。確かにあの蜘蛛は牙に毒を持っていてやっかいポン。ならば任せてポン!」


 ボックル得意気に胸を叩くと、背負っていた袋を地面に置き、中から何かを取り出した。 

 やけに細長い掌に収まる程度の瓶で、中には緑色の液体が入っている。


「これは毒消しの薬ポン。これを飲み干せば毒が浄化されるポン! お礼ポン! 受け取るポン!」


 そういって手渡された瓶をミラが、ありがとう、と細い声で言いながら受け取った。

 まぁこいつのおかげでこんな目にあってるんだけどな。


 それにこの言葉をそのまま信じていいのか? というのもあるが、今は信じるほかないか。

 どっちにしろこの状態のまま放ってはおけない。


 そしてミラは、受け取った瓶の蓋を開け、中身をその場で嚥下する。


「う~ん苦い」

「仕方無いポン。良薬口に苦しポン」

『そんな言葉よく知ってるな』


「当然ポン。商人は博識でないとやってられないポン」


 ……商人? こいつ商人なのか? こんな洞窟で?


「で? どうポン?」


「……うん、ありがとう! だいぶ気分が良くなってきたよ」


 ミラの言葉は強がりとかではなさそうだな。凄いな即効性があるのか。顔色も良くなっているし、言葉にも元気が戻っている。


「ステータスも正常に戻ってる、本当助かったよ」

「そう言われると嬉しいポン」

 『お前、勝手に逃げた癖に調子いいのな』


 なんとなく文句の一つも言いたくなってしまい、そのままの気持ちを告げてしまう。


「逃げて何が悪いポン? ふたりはおいらを助けるためにブラックウィドウと戦ってくれてたポン。だったらおいらがやられたら台なしポン。それにあの場ではおいらは役に立てなかったし邪魔だったポン。逃げるのは当然ポン」


 ……いや、確かにそう言われると返す言葉もないが。


『でも、何か後ろめたいことがあるから逃げたんじゃないのか?』


「後ろめたいことポン?」


『そうだ、最初だって俺達の事みて逃げただろ?』


 俺がそう念話で告げると、小首を傾げ、そしてポンっと何かを思い出したように手を叩いた。


「あれはふたりの事をまだ良く知らなかったから逃げただけポン。それぐらいの警戒心はあるポン」


『それだけか? 俺達の倒した魔物の魔晶を勝手に盗っていたから後ろめたくて逃げたんじゃないのか?』


「盗ったとは酷いポン。おいらはこの迷宮の魔物から魔晶を回収するのも大事な仕事ポン。そこに手付かずの魔物の遺骸があれば回収するポン。それを責められる覚えはないポン。回収されるのが嫌なら、すぐに自分たちで回収するといいんだポン」


『ぐっ!』


「これはエッジの負けだね。ボックルの言っている事に間違いはないよ」


 俺が言葉に詰まると、ミラからもそんな事を言われてしまった……。


「ところでどこからきたポン?」


「ん、まぁなんというか迷い込んだというか……ねぇ?」


 俺に同意を求められても困るけどな……。


『俺は気がついたらここにいたんだ。剣としてな』


「ふ~ん、まぁ細かいことはいいポン」


 お前が訊いてきたんだろ!


「そういえば思い出したポン。さっきはあの奥にある湖のある方から来てたポン。あそこにはクラーケンがいたポン。よく無事でいれたポン」


 クラーケン、あのイカの化け物の事か――


「うん、危なかったんだけどね」


 そういってミラは事情をボックルに話す。


「なるほどポン。確かにあれにやられるのは多いポン。ミラは運が良かったポン。多分触手を切れたのも目を切ったからポン」


『目?』


「そうポン。クラーケンの触手は基本強靭ポン。でも一部だけ柔らかい目があるポン。でも目は部位や再生した際に場所は変わるから本来狙ってやるのは難しいポン。運が良かったポン」


 なるほど……てことは次にやっても勝てる保証はないってことか――


「クラーケンってレベルどれぐらいなの?」


「本体で150、触手でも50レベルぐらいあるポン」

 

 たけぇ! そんなん流石に勝てるわけねぇ! 1発でも当たってたら即死だろ! 本当に運が良かったんだな……。


「それは本当危なかったねぇ」


 ミラはケタケタ笑いながら言ってるけど、そんな笑える話でもないな……でも、触手はレベルで考えると経験値とか低過ぎな気がする。 

 いや、そもそも触手は本体と別物と考えれば妥当なのか?


 まぁそれはそうと、折角だし情報を集めておくか。


『ところでボックル、ここはそもそもどこなんだ?』


「? ここは迷宮ポン」


 何おかしな事いってるんだこいつ? て目で言われた。

 いや、迷宮って事はもうこっちも判ってるんだよ。


『質問が悪かったな。迷宮とはそもそもなんだ?』


「迷宮は迷宮ポン?」


 また同じ目で言われた……駄目だ埒が明かない。


「うん、つまり、ここは間違いなく迷宮って事だね!」


 あ、はい。てかミラ、わりと残念な子なのかな……。

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