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第十六話 助けを求めるもの

 やっぱりあいつは……あの時逃げていった、盗人やろうか――


 ミラと細めの通路を抜けた先は歪な円状の空洞。

 向かって右側には階段が見え、奥の左側には別の狭まった通路の存在も確認できるが、今はそれよりも中央で魔物に襲われてるそいつの事だ。


『まさかこんなに早く再会できるとは』

「う、うん、でも困ってるみたいだね」


 俺の言葉に、ミラが応じる。

 まぁでも、確かにあれは困ってるんだろうけどな。


「!? 誰かは知らないけどぴんちポン! 助けて欲しいポン!」


 で、向こうもミラに気がついて助けを求めてきた。

 調子いいなおい。てかミラの事覚えてないのか?


 そんな調子いいポンポン野郎は……妙な黒い蜘蛛たちに囲まれていた。

 ここでまた初めての魔物か……流石にただの蜘蛛ではないだろうな。

 何せ1匹1匹の大きさが襲われてるあれと同じぐらいだ。

 このまま放っておけばむしゃむしゃいかれちゃうんだろうな。想像すると気持ち悪いし、想像しなくても蜘蛛が群がってる姿は色々くるものがあるな。


 とりあえず、あれが美味しく頂かれたところで、俺としては全く問題ないが、ミラは俺の柄を強く握りしめはじめる。あぁ、やっぱ助けるのね。


『ミラ、あの蜘蛛の事は知っているのか?』

「知らない。でも困ってる人は放ってはおけないよね」


 知らないのか……しかしむてっぽうが過ぎるな。


『ミラ、だったら助けるのはいいが慎重にな。助けに入って自分がやられてたんじゃ世話がない』


 判ってる! と声を上げ、蜘蛛の化け物に向かって正面切って疾駆した。

 

 ……本当に判ってるのか?

 とにかく、俺を右手で持ち、その距離を詰めると同時に蜘蛛目掛けて剣を振り下ろす。

 

 しかし蜘蛛は中々の敏捷な動きでミラの斬撃を躱し、そして他の仲間と共に四散した。


 蜘蛛の化け物はその数4匹。取り敢えずは散った事で、このよくわからない奴のピンチは一旦脱した。


 ただ、その分こっちがピンチだけどな。


「あ、ありがとう。でも気をつけて! ブラックウィドウはしつこいポン!」


 どうやらこの魔物はブラックウィドウという名称らしいな。

 そしてその蜘蛛はカサカサと耳障りな音を奏でながら前後に2匹ずつに分かれ、左右交互に動きながら距離を再び詰めてくる。


 守る相手が近くにいる状態で戦うのは結構厄介だな。

 なんか後ろでプルプル震えてるし、戦いの援護はあてに出来ないだろうし。


 そして、ブラックウィドウの先ず1匹が前進、ミラに近づき、前肢の一本を横薙ぎに振るった。

 先端は尖った爪状であり、中々切れ味も鋭そうだ。


 高さの違いから相手の狙いはミラの脚。そこを負傷すると強みである身軽さが活かせなくなってしまう。


 だがミラは剣を地面に突き立てその一撃をガード。

 爪と金属のぶつかり合う音が広がった。

 

 この爪、中々頑強だな。刃に遮られても折れる様子がない。

 だが、問題はそこではなく、相手の次の一手。

 蜘蛛のやつ、まさか跳躍するとは思っていなかった。


 飛びかかってきたブラックウィドウがミラの上空から牙を剥き出しに迫る。

 本来なら避けたいところだろうが、後ろで震えてるのが邪魔でそうもいかない。


 ミラはその牙の一撃はなんとか盾を割り込ませ凌いだ。

 悔しそうに牙をカチャカチャ鳴らす音が鬱陶しい。


「う、後ろからも来てるポン!」


「くっ!」

 

 ミラは円盾で相手を押しのけ、正面の相手に()を振るい距離を離させた後、反転するが、その時には背後に相手の牙が迫り、防具で守られていない肘のあたりに噛み付かれた。


『ミラ!』


 俺も思わず悲鳴に似た声を上げてしまう。

 しかし、大丈夫これぐらい! と呟きながらミラは逆手に俺を持ち替え、腕に噛み付いている蜘蛛を突き刺した。


 どうやら丁度目の当たりにめり込んだたようで、蜘蛛は形容しがたい悲鳴を上げ地面に転がる。

 すると――いつの間にかあのポンポン言っていた奴はその場から消えていた。


 どうも隙を見て逃げ出したようだ。


『あの野郎……』


 思わず怒りの滲んだ声で呟くが。


「でも、悪いけどいないほうが戦いやすいし!」


 ……ミラは気にしていない様子。

 まあ、そう言われてみれば確かにいればいたで邪魔でしかないわけだけどな。

 でもこういうのは気持ちの問題だろ。


 それにしても、ブラックウィドウは中々にしぶとい。

 目を突き刺されたのも、まだ動けるようだ。


『腕は大丈夫か?』

「うん、まぁ全然戦うのは平気だよ」


 ミラはそう言っているが、気のせいか息が荒くなってきてるような……。

 しかし、かと言ってここで動きを止めるわけにもいかないのは確かか。

 何せ相手のターゲットは確実にミラに移ってしまっている。


 相手はまともに動けるの実質3匹といったところだろうが……。


「え?」


 するとミラが驚きに目を丸くさせた。その眼前に迫るは白い糸。

 これは、蜘蛛の糸か! 


『ミラ! それは絶対に喰らうな!』


 網のように広がった糸がミラに迫る。

 咄嗟に地面を蹴り、ミラがギリギリで糸を躱すが。


「くぅ!」

 

 苦悶――ミラの着地先にブラックウィドウの爪が重なった。

 脚を切られた――やばい、機動力が削がれる。


『まずいな、HPはどれぐらいだ? 脚は動くか!?』


「……HPは残り15かな。ははっ、わりとピンチかも――」


 クッ! それマジでヤバイだろ! どうする……脚については何も言ってないが、それはつまり問題があるって事だろう。


 どうする? こういう時こそ俺が考えないと――しかし4匹の内3匹は特にこれといったダメージも受けていないだろう。


 ……打つ手が無い? いや! 駄目だ俺が諦めたらマジで終わる! 

 動かなくてもなんとかなる手……動かなくても――そうか、いやしかし、でももうつべこべ言ってられない。


『ミラ、今から称号を付け替える。ミラは相手を一撃で仕留めることだけ考えるんだ。とにかく糸にだけは気をつけろ』


「……エッジ――うん、判った君を信じるよ」


 言ってミラはその場で足を止め意識をブラックウィドウの一挙手一投足に集中させる。

 4匹の内1匹は視力を奪われてるからまともには動けない。

 

 残り3匹の動きを探るため、俺も感じられる視野をフル活用させる。

 その時、蜘蛛の1匹が横から蜘蛛の糸を吐き出した。


『糸だ、後ろに下がれ』


 ミラが大きく後ろに後退る、その目の前を網状の糸が通りすぎた。

 かと思えば逆側から別のブラックウィドウが迫り飛びかかってくる。

 

 こいつらは動きこそ素早いがその攻撃パターンは決して多くない。

 飛びかかってきてる時点で牙で狙ってきてるのは判りきってる。


『ミラ! 一撃だ!』

 

 俺が檄を飛ばすと、ミラは上半身だけを大きく反らし、牙の攻撃を避けつつ、そのまま掬い上げるような一撃で反撃。

 

 飛びかかってきていた蜘蛛にカウンター(・・・・・)がヒットし、蜘蛛は見事一刀両断に斬り伏せられた。


――進化PTを4得ました。


――経験値を42得ました。


 よし! 流石にこれは倒せたな。

 しかし上手く言った。若干の不安もあったが、やはり称号を【倍返しの反撃者】に切り替えて正解だったか。

 

 これであれば、上手く相手の攻撃に合わせてカウンターヒットさせればダメージ量が倍に跳ね上がる。

 

 勿論それは簡単な話ではないが、ブラックウィドウの攻撃の単純さに救われた。

 それにミラの身体能力と集中力の高さにもな。


 だがまだ油断は出来ない。相手は残り3匹、殲滅させるまで戦いは終わりではないんだ。

 そして、仲間の1匹が倒れた先からミラの背後でカサカサという音が近づく。

 

 かと思えば、何かを射出した気配。

 背中から蜘蛛の糸を絡ませる魂胆――が、ミラは振り返ると同時に糸を()で斬り裂いた。


 ぱらりとバラバラになった糸が地面に落ちる。

 蜘蛛との距離は3メートルといった所か。

 どうやら糸の射程距離はその程度のようだな。


 蜘蛛は若干慌てたような様子を見せるが、次は前進し直接的な攻撃に出てきた。

 足下を狙っての爪での斬撃。しかしミラは苦悶に顔を歪ませながらも片足の力をメインに軽く飛び上がり、ブラック・ウィドウの爪を回避しつつ、同時に落下の力を利用し、蜘蛛の胴体に刃を突き立てた。

 

 石炭の如く色相の血液がどくどくと流れ、ピクピクと痙攣した後動きが完全にとまる。


――進化PTを4得ました。


――経験値を42得ました。


 よし! 2匹目もこれで倒した。残りは半分だが、1匹は目をやられて弱ってる。

 これなら実質1匹相手しているようなものかもしれない。


 そんな事を思っていたら、残ったうちの1匹が歯を鳴らし、すると負傷したブラックウィドウが無謀にもミラ相手に突撃。


 どうやらもう1匹が歯で位置を教えたようだ。

 ブラックウィドウは目をやられているにもかかわらず、ミラのいる位置に向かって飛びかかってくる。

 少しでも触れたら牙で噛みつくつもりだろう。


 だが攻撃が単純過ぎる、これならカウンターの餌食――なんて手に引っかかるかよ!

 ミラはその強襲を左手の盾でガード、巻き込むような動きで勢いを利用して突き飛ばしつつ、その隙を狙っていたもう1匹の飛びつきに合わせるように剣戟を叩き込んだ。


 カウンターの効果で倍のダメージを与え、口元から分断された蜘蛛の身が地面に転がる。

 もし、盾ではなく素直に最初の蜘蛛に反撃を試みてたなら2匹目の噛みつきは防げなかっただろうな。


 しかし流石に無謀すぎて逆に怪しすぎたし、そもそも俺の視界がもう1匹の動きを捉えていた。

 まぁ囮を使うまではよかったけどツメが甘かったな。


――進化PTを4得ました。


――経験値を42得ました。


 よししっかりくたばったな。

 

『ミラ、後は弱った1匹だけだ。脚はちょっと辛いかもしれないが、あの程度なら後は楽だろ』


「う、うん、そうだ、ね」


 ん? 何かミラの様子がおかしいな――しかも脚を引き摺るようにして残った1匹に向かってる。 結構キツそうか……。


 で、目をやられ右往左往してるブラック・ウィドウへ体重を乗せるようにして俺を突き立てた。

 

――進化PTを4得ました。


――経験値を42得ました。

 

 倒すのは問題なかったが……ミラは体重を俺に預けたまま、ガクリと片膝を突く。


『お、おい! これ大丈夫じゃないだろう! 汗も凄いし!』

 

 ミラの額から玉のような汗が滲み、明らかに息が荒い。

 脚がそこまで酷いのか? と考えたりもしたが、どこか違和感。

 もしかして――


『まさか、あの蜘蛛――毒を持っていたのか?』

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