第十五話 スキルの効果
ミラが目覚め、そこで改めて俺はステータスの結果を踏まえて何かスキルを覚えるかどうか、という話をした。
選択肢としては剣術を覚えるか、それとも鉄の精神のレベルを上げるかといったところだったが……これが特に迷うことなく、俺とミラの意見は一致。
つまり剣術を取った。理由はやはりあのイカの化け物の事も大きいか。
あんなのに今後も出くわすことを考えたら、何かしら攻撃に役立つスキルは取っておいた方がいいだろう。
鉄の精神に関しては現状はバットの超音波しか知らなく、どの程度効果があるか不確定要素も大きい。
剣術ならばスキルとしてはわりとストレートだし判りやすいだろ。
と、いうわけで――
――パッシブスキル【剣術】の取得には進化PTが50必要です。宜しいですか?
【現在の進化PT:64】
これはオッケーと。
――パッシブスキル【剣術】を取得しました。ステータス欄に追加いたします。
で、ステータスを確認。
うん、バッチリ追加されてるな。
で、次のレベルには150PT必要と……結構たいへんだな。
それにしても改めて考えると、ミラのHPとMPは結構上がったな。
まぁ称号の効果も大きかったのかもしれないけどな。
称号で付加された分も反映されてるっぽいし。
何故そう思ったのかといえばステータスのHP欄。
これまでとレベルアップ後のHPの回復具合が低かった事に気がついたからだ。
これはつまり、レベルアップ後に付けた称号分は回復していないという事に繋がる。
新しい称号に切り替えたのはレベルアップの声が聞こえた後だしな。
『剣術スキルを取得したが、どうだ? 何か変わったところはあるか?』
まあとにかく、俺は折角手に入れた剣術スキルについてミラに訊いてみる。
パッシブスキルだし手に入れてすぐ効果は現れるはずだしな。
「う~ん、ステータスに変化はないかな……」
ただ、その質問にミラは首を捻りつつ返答した。 その直後、ミラは俺を抜き振り回す。
今更だがシンクロ覚えていてよかった。これが無かったら目が回って仕方なかっただろう。
「あ、ちょっと剣が軽くなった気がするかも。気がする程度だけど……」
『まぁまだレベル1だしな。でも戦いには効果を発揮するかもしれない。ちょうど神秘の泉に行くし、ゴブリンが出たら試してみるといいだろう』
ミラは、
「あぁ、うん、そうだね」
と応え、俺が刺さっていた部屋を抜けて、あの谷の道を進む。
が、しかし――
――進化PT1を得ました。
――経験値を6得ました。
少な! 最初に比べたら大分貰える量が低くなったな……やっぱミラのレベルも上がってるからか。
「う~ん、ちょっと手応えなくてこれだと……」
微苦笑を浮かべながら俺に向けて感想を述べる。
まぁ、一撃だったしな……しかも出てきたのはゴブリン1体で、それからは全く姿を見せない。
でも、おかげでこの1体分は、ミラが魔晶をナイフで抜き取って腰に掛けたバッグに詰め込んだ。
何に使えるかは判らないが、集めてる奴がいる以上、何か役に立つことも有るだろうし、と俺が伝えたからだ。
「やっぱりリーダーを倒したからかな」
『かもな。顔を覚えられたのかもしれない』
ゴブリンは一応知能ある魔物みたいだからな。
だからやられると判っててわざわざ出てこないのかも知れない。
「これでよしっと」
そして神秘の泉で水を汲み、ミラと俺はあっさりと元いた地点まで戻った。
「キー! キー!」
で、イビルバットが襲ってきた。流石にこいつらはゴブリンと違って問答無用で襲ってくるな。 それにしても……今回は数が多いな。
『ミラ相手は5匹いるが大丈夫か? 無理そうなら逃げるのも手だと思うけど』
「ううん、大丈夫。ここは結構広いし、囲まれなければ問題ないし、なんとなくだけど……いける気がする!」
語気を強め、先手必勝とばかりにミラが動いた。
5匹のイビルバットはミラの目線の少し上ぐらいの位置で固まっている。
なのでミラは正面からではなく、回りこむような動きで接近を試みる。
ただイビルバットもそのへんは多少は考えているのか、それぞれが角度を変えて相手の動きに対応しようという構え。
流石に簡単に背後はとらせてはくれないと思うが――そう思った矢先、ミラは先ず大きく一歩踏み込み、そこから地面を蹴り上げ、抉れた土塊をイビルバット目掛け飛ばした。
超音波で相手の位置を判断しているイビルバットは、それに反応しバラバラに更に上へ向けて飛び立とうとする。
するとそれを追うようにミラが地面を蹴り上げ、跳躍と同時に刺突――斜め下から迫るミラの一撃は完全に超音波の索敵範囲から外れており、見事1匹の胴体を貫いた。
――進化PT3を得ました。
――経験値を29得ました。
よし、イビルバットならまだそれなりに貰えそうだな。
「あ――」
『どうしたミラ? 大丈夫か?』
ミラの口から漏れた言葉に思わず俺も反応する。
「あ、うん、そうじゃなくて、多分今相手から超音波を受けたんだけど、最初に比べたら全然楽――」
あぁそういう事か。なるほど、どうやら鉄の精神はしっかり効果を発揮してくれてるようだな。
これなら怯むことなく攻撃を続けられなんだそうだ。
そして更に――牙を立ててきたバットの一撃を躱し、そこからロングソードで背中から巻き込むような一撃を叩き込みまた1匹を落とし、2匹同時に迫ってきた際は、ギリギリで盾で防ぎ飛び上がったところをカウンター。
もう1匹は正面からの突きで相手の横の動きを誘い、そこから刃を寝かせて薙ぐことで両断、残った最後の1匹は素早い動きで死角に回りこみあっさりと斬り殺して戦いは終了した。
――進化PT3を得ました。
――経験値を29得ました。
――進化PT3を得ました。
――経験値を26得ました。
――進化PT3を得ました。
――経験値を29得ました。
――進化PT3を得ました。
――経験値を26得ました。
進化PTと経験値も無難に手に入ったと。
熟練度も66%まで増えたな。
『何か、動きがかなり良くなってる気がするな』
「うん、自分でも剣を使った時の動きがスムーズになってるのを感じるよ。やっぱりスキルの効果はあるんだね。流石エッジ」
俺を正面に持ってきてニッコリと微笑んでくる。
……なんだろ、妙に照れくさい。
いやいやおかしいだろ俺。確かにかっこいいってよりは可愛いってタイプかもしれないが、冷静になれ俺。
『お、俺は別にそこまで大したことは……まあでも順調に強くなってるみたいで良かった』
そんな話をした後は、ミラが5匹の魔晶を採取し、また食料として食べられる分の肉だけを切り取ってイビルバットの飛膜を上手く活用して包みバッグに入れた。
「じゃあここからどうしようか? 先に進む」
……そこだよな。流石にあのイカの化け物は論外だが、そうなると残った道は一つだけ。
ゴブリンを相手にして力を付けるというのも今となっては無理な話だし、やはりそうなると先に進むしか――
「ひゃ~! た、助けてポーーーーン!」
……そんな事を思っていたら、丁度行くか迷っていた狭い通路の奥から誰かの助けを呼ぶ声が聞こえてきた。
それにミラも即座に反応し。
「この声は――放ってはおけないし、もう行くしかないね!」
言うが早いか既に駆け出していた。
全くしょうのない奴だな。まあ、確かに放っておくわけにもいかないしな。
だから、俺はミラの進む先に意識を集中させた――




