第十三話 イカは旨いがあれは怖い
とりあえずミラの傷をアロイル草で癒やした後は、俺達は更に先へと進んでみることにした。
まぁ移動はミラの役目なんだけどな。
しかし迷宮は結構広い。あと魔物も多い。ちょっと進んだ先でまた先太りな空間に出たんだが、そこではゴブリンがたむろしていた。
驚いたことにそこではバットがゴブリンに敗れていた。
さっきとは違いゴブリンが8体バットが3匹という状況だったからだろ。
数で負けていてはいくら超音波でも横撃、挟撃に対応出来ないし、バットは防御力も低そうだからな。
それでも8体のゴブリンの内、2体はバットが倒したみたいだけど。
で、ゴブリンはそのバットを囲んでのお食事タイムだった。
おかげさまでミラの動きに反応が一歩遅れ、機先を制したミラが一方的にゴブリン共を蹂躙した。
――進化PTを2得ました。
――経験値19を得ました。
――進化PTを2得ました。
――経験値22を得ました。
――進化PTを2得ました。
――経験値19を得ました。
――進化PTを2得ました。
――経験値19を得ました。
――進化PTを2得ました。
――経験値19を得ました。
――進化PTを2得ました。
――経験値22を得ました。
おかげで経験値が結構手に入ったな。
後は進化PTも。ミラとも相談したが次は剣術を取ろうって話になってる。
だから50PTは貯める必要がある。ちなみに今は14PTだ。
「何か水の音が聞こえない?」
ゴブリンを倒した後、ミラがそんな事を言ってきた。
今は広がった空洞の中心に立っていて、ミラから見て右奥に人が一人通れるぐらいの先細りの道があり、左奥もやはり同じように左右の壁で入り口が狭まってる。
水が流れるような音が聞こえているのはその内、左奥の方だ。
「どうしよっか?」
ミラが首を傾げて俺に訊いてきた。どうしようかとは右に行くか左にいくかという事なのだろうな。
ふむ、だとしたらやっぱ取り敢えず左を見てみたいところだな。
水場の確保は大事だしな。喉が渇いたからと一々神秘の泉まで戻るわけにも行かないだろう。
『ここは水場を確認しておいた方がいいと思う』
「そっか、ならこっちだね」
言って俺を背中の鞘に収め、とことことミラが左奥に向けて歩き始めた。
口調とか基本的にあまり緊張感がないんだよな~この子。
で、左右の狭まった開口部を抜けてすぐ下りの勾配。
傾斜の先は地底湖のようになっていて端の岩壁から湧き水が溢れ、下の湖へと流れ落ちている。ちょっとした滝のような状態だ。
水は中々澄んでいて綺麗だ。これなら飲水としても利用可能かもしれないが――ただ問題が一つあり――
『あれは、イカだよな……』
「イカだねぇ……」
湖の広がるこの空間は、俺達の場所から見て左右に広がっていて奥は外側に向けて両端に向けて湾曲している作りだ。
で、問題は俺達から見て正面に鎮座している存在であり、正に見た目は、巨大なイカ、なのである。
体長は触手を覗いても10メートルぐらいはあるだろう。しかもそれが直立してるうえ、細長いのではなく、わりと横幅も広い。
開眼しっぱなしの眼はかなり大きく、ギョロギョロと周囲を見回している。
ミラが入った時も一瞬だが明らかにその視線がこちらに注がれた。
そしてこのイカには全部で12本の触手がある。
その内2本は体長よりも長そうだ。最も使用頻度が高い部位なのかもしれない。触手の中では腕にあたる部分だろうか?
残りの10本は最長の2本に比べると短い。だが先端が槍のように鋭く尖っている。
あんなので突き刺されたら正直たまったもんじゃないな。
尖端の手前はイカらしく大量の吸盤に覆われていて、その部分で獲物を絡めとる可能性がある。
「イカ、は美味しそうだけどちょっと大きすぎるかな……」
『いや、ちょっとどころじゃないぞ。直立してるイカとか洒落にならないし、あれ、明らかに近づいたら殺す! てオーラ放ってるし』
「う~ん、でもせめて脚の1本ぐらいって、あれ?」
怪訝な声を発し、ミラの視線がスッと移動した。
その先には白骨化した遺体が転がっている。このイカの犠牲者だろうか?
『あの遺体がどうかしたのか?』
「うん、遺体は、可哀想だけど仕方ないとして、その横にあるバッグがね。あれ腰に巻けるタイプみたいだしこの先の事を考えたら欲しいかも……」
……なるほど。確かにミラは手に入れたものを保管しておける入れ物を持ち合わせていない。
あまり大きくはないが、それでもあるとないとでは大違いだろう。
ただ――
『しかしあれを取るとなると、途中までは外側の壁沿いを移動するとして、どうしてもあのイカの攻撃範囲には入る必要があるな……』
バッグはミラから見て右斜め前方の辺りに転がっていて、イカの触手の長さで考えたら、触腕は十分届く距離だ。
あのイカがどれぐらいの動きが出来るか不明だが、身体を回すのが不得手だったとしても、少なくとも左の触腕は届く範囲だ。
正直あのイカは雰囲気的にやばすぎてまともに戦っても全く勝てる気がしない。
予感でしかないが間違ってはいないと思う。なんつうか殺気がヤバイ。
正直あの触手の1本、最悪胴体を巡らしてもう1本の攻撃がきたとして対応できるかどうかって話だ。
『正直あまり無茶はして欲しくないけどな。なんならもう少しレベルを上げてからという手もあるし』
「でも、もしかしたら僕達が目を離した隙に、あのバッグが無くなっちゃう可能性もあるよね?」
……白骨化するまで無事であったなら、その心配は杞憂な気もするが……。
ただ、どっちにしろそもそもどれぐらいレベルを上げればというのはやってみないと判らない。
それにあれがあればさっきのアロイル草だって採取して持ち歩くことが可能だろう。
多少とはいえ傷を治すのに使用可能でHPも回復できる物を持っているか持っていないかでは安心感が違う。
「……やっぱ何事もチャレンジだと僕は思うな」
真剣な目で訴えてくるミラ。
なんかこうと決めたら言っても無駄そうな、そんな雰囲気を持ってるなミラは。
『判ったやってみよう。俺も触手は気をつけて見ておくよ。でも無理はしない、駄目だと思ったら即撤退だ』
「了解。頼りにしてるよ」
まぁそう言われても俺に出来ることはそうはない。基本的にはミラに使いこなしてもらうしかないからな。
出来ることといえば触手が来るタイミングを伝えるぐらいか。
そしてミラは先ずは壁に背中を付けて、イカ相手にカニ歩きで移動。
バッグとの最短距離の動線を確保し、一気に加速した――
うねうね