第十二話 イビルバット退治
存外イビルバットの動きは素早い。
それはミラと魔物との戦闘が開始されすぐに理解できたことだ。
ゴブリンとは違い空中も含めた複雑な動きにミラも中々苦戦してる様子。
しかもミラの攻撃が全くバットに当たらない。
どんなに剣を振ってもひょいひょいと躱されてしまう。
本当に厄介だな……と思っていた矢先、ミラの膝がカクンっと折れた。
これはさっきのゴブリンと一緒、超音波ってやつのせいか!
『ミラ! 1時の方へ転がれ!』
咄嗟に俺が発する。直前のバットの位置関係を考慮しての事だ。
そしてミラの俺の念に合わせて肩から地面につけてゴロゴロと転がる。
バットの風を切る音が俺の耳に届いた。
いや、どこが耳かわからないけどな。
それにしても……超音波は厄介だな。目眩を引き起こすとか戦闘中にそれは結構致命的――
――パッシブスキル【鉄の精神】がアンロックされました。
――スキルリストに追加いたします。
なんだ? 新しいスキルが手に入ったぽいな。
スキルリストで確認してみる。
ふむ、どうやら精神が強くなるようになるスキルのようだ。
覚えるだけなら進化PT10で取れるけど、今は3しかないからどうしようもないな。
「はっ!」
気合一閃――正面から向かってきたバットへミラが横薙ぎに振るう。
だが、それも躱されバットはそのまま飛膜の爪でミラの肩口を引き裂いた。
「ぐぅ――」
ミラが苦痛に顔を歪めた。
「大丈夫かミラ!」
「う、うん。でも情けないね、盾の防御も間に合わなかったよ」
絶妙なタイミングだったしな……。
「それはもう仕方のない事だ。それよりHPは大丈夫か?」
「う、うんまだ30はあるから……」
30か……確か最大は54だった筈だな。冷静に考えたら決して楽観視は出来ない数値だろう。
よくよく考えたらHPの回復とかはどうすればいいのか……神秘の泉の水だと体力しか回復できなかったみたいだしな――
そういう意味では俺の耐久力もそうなんだがな。
……考えてみたら何かしら手を打たないとマズイなマジで。
とは言え、とにかく今は目の前の敵を何とかしないといけないな。
どっちかというとミラが! うん、結局俺は自分じゃ動けないしこのあたりが凄い歯がゆいな。
ミラと3匹のバットのにらみ合いが続く。
しかしこのバット、ミラの話だと眼は殆ど機能してないらしいのによく攻撃を躱せるよな……いや、待てよ、確かこいつらは超音波を発してるんだったな。
目眩を起こすのも相手に向けて超音波をぶつけるこいつらのスキルらしいし……それとは別に、もしこいつらにもパッシブスキルが備わってるなら……。
『ミラ、判った。こいつらは正面から攻撃しても無駄だ。きっと常に超音波を発して前面の攻撃を感じ取っている』
「え? あ、なるほどそうか……」
ミラが納得したように顎を引いた。
だが、その後、じゃあどうしたら? とちょっとした不安をその眼に滲ませる。
『ここからはミラの身体能力によるけど……とにかく素直な攻撃じゃなくもっと意表を突くような攻撃が有効なんだと思う。そうでないと当たらないだろうしな』
俺が一応助言のつもりで送ると、ミラが、意表……と呟き得心がいったように今度は大きく頷いた。
「判った! やってみる!」
言うが早いか、ミラは正面で固まってた3匹のバットめがけ駈け出した。
いや、素直な攻撃は駄目だと言ったんだが――と、そんな事を思っていたらミラはバットに剣が届く少し前で両手で思いっきり剣を振った。
しかし一斉にバットが上昇し一撃を躱す。
この一撃、かなりの大振りだ。こんなの普通に考えたらゴブリンにだってあたらない。
しかし、それを敢えてミラはしたのだ。
バットが空中に逃げた後、ミラは一旦バックステップで距離をとった。
するとイビルバットが3匹、ミラが元々いた位置に向けて急降下する。
しかし当然その位置にミラは既にいないため虚空を切り裂いただけに終わり――そしてミラはイビルバットが3匹巻き込めるタイミングで再びロングソードを一文字に振り抜く。
最初の1匹以外は斬ったというよりは叩きつけたという状態に近いが、それでも完全に意識が下に向いていたイビルバットは超音波で逃げることも叶わず、見事ミラの剣戟に寄って纏めて吹き飛び大地に転がった。
――進化PTを3得ました。
――経験値32を得ました。
――進化PTを3得ました。
――経験値32を得ました。
――進化PTを3得ました。
――経験値32を得ました。
おっと、どうやらバットは見事息を引き取ったみたいだな。
まぁこいつらの敗因は、動きの素早さだけで知能がちょっと足りなかった事か。
さっきの誘いだって、もう少し頭を使えれば、先ず超音波で位置を確認するぐらいしただろうに、最初の一撃を躱してから本能で動いてしまったからそこが疎かになってしまい、結果的にミラの横撃を食らうはめになってしまったわけだ。
あとは恐らくだが防御力とHPも低かったんだろうな。
だからこそ超音波と敏捷性で相手を翻弄する戦い方に徹してたんだろうけど、ミラの方が一枚上手だったってとこか。
さて、というわけでおかげで進化PTが9手に入ったわけだが……
『ミラ、今進化PTが12あって10使用すれば、鉄の精神というパッシブスキルが手に入るけど、どうする? これがあればバットの超音波による目眩がある程度防げると思うんだが』
「え? 本当? それなら嬉しいかも……あれって結構気持ち悪いしイラッとくるんだよね」
……なんか思ったより軽い反応だな。
まぁでも、今後あのバットみたいのと戦う事を考えれば当然あったほうがいいよな。
『スキルの【鉄の精神】を頼む』
――パッシブスキル【鉄の精神】の取得には進化PTが10必要です。宜しいですか?
【現在の進化PT:12】
『オッケーだ頼む』
――パッシブスキル【鉄の精神】を取得しました。ステータス欄に追加いたします。
で、ステータス欄確認っと、よしあったあった、問題ないね。
「手に入ったの?」
『あぁ問題ない。これでバットとの戦いはかなり楽になった筈だが……しかしミラの傷、そのままってわけにもいかないよなぁ。何か回復手段があるといいんだが』
俺がそう告げると、う~ん、と顎に指を当てミラが一考し。
「あ! あれ!」
そう声を張り上げ、洞窟の壁際に駆け寄る。
そして両膝に手を付けて腰を落としたミラが見つけたのは、数本の草。
こんな洞窟にも草が生えてるんだな、とか思ったりもしたが、よくみると、そこら辺には草だけじゃなくキノコなんかも生えてたりする。
『この草がどうがしたのか?』
「うん、僕の記憶だと確かこれはアロイル草といって、止血効果がある筈なんだ」
へぇ……そんなのがあるんだな。
この葉、縁がギザギザしてて長くてちょっと硬そうだし一見そんな効果があるようには思えないけどな。
「本当は薬草知識とかがあれば、詳しくわかるんだろうけど、僕はスキルを持ってないからね……」
ミラが肩を落とす。薬草知識ね……ただそれを聞いても俺の方も変化がない。
流石に剣にそんなスキルはないようだな。
まあ、あったとしても今の進化PTじゃ取得出来ないけど。
「でも、これは形に特徴があるから間違いはないと思う。だから――」
ミラはゴブリンから手に入れたナイフを使って、外側の硬い部分を切り裂き、器用に果肉部分だけを取り出した。
プルンプルンとしていてちょっと青みがかっている果肉である。
で、それを肩の傷口に当てる。
「あ、ひんやりして気持ちいい~」
そういいつつ、余った果肉は口の中に放り込んだ。
『食べれるのか?』
「うん、そんなに美味しいものじゃないけどね。多少はお腹の足しになるし、本当はバットの肉も食べれると良いんだけど、流石に火を通さないと無理だし」
まぁ確かに蝙蝠の肉を生で食べるのはな……腹壊しそうだし。
「あ、出血(微小)から正常に戻ったよ。HPも少し回復」
ミラがそういって喜ぶ。ただ回復といってもHPが1回復しただけのようだ。
いや、まぁそれでも回復しないよりマシだけど。
で、それを何本か繰り返して他にも細かい傷口に当てたりして――
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ステータス
名前:ミラ
レベル:6/16
経験値:129/457
HP:35/54
MP:48/48
疲労:23%
状態:正常
力:25
体力:30
精神力:28
魔導力:27
素早さ:33
器用さ:28
攻撃力
切:45打:37突:43魔:0
火:0水:0土:0風:0
光:0闇:0雷:0氷:0
防御力
切:23打:25突:21魔:14
火:5水:0土:0風:0
光:0闇:0雷:0氷:0
パッシブスキル
【進化の剣の恩恵LVMAX】
アクティブスキル
【スキル共有LVMAX】
装備品
武器:ロングソード
防具:草臥れた革の胸当て
盾 :樫の円盾
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これが今の状態らしい。
HPは30まで減ってたのが35になり多少はマシになったってところかな――