第一話 目覚めたら進化の剣
――貴方は進化の剣として目覚めました。
脳内にそんな声が流れ込んできた。
声は女性っぽいが、なんとも平坦な冷たい印象を覚える声だ。
と、いうかそもそもここは何処だ?
いまいち記憶が覚束ない。
どうにも名前もはっきりしないが、ただ自分があることは判る。
つまり自我というもの、なんとなくそういうのが俺には備わっているんだろ、そう理解した。
ただ頭のなかに響いた声が誰のものかはさっぱり不明だ。
そしてここがどこかも判らない。とは言えこのままというわけにもいかないし、ちょっと考えてみる。
先ず今俺がいるのはどこかの部屋なようだ。ここはちょっとした空間になってるようで、周囲は切り石を積み上げられた壁に囲まれている。
視線は一応それなりに動かすことは可能なようだ。上下左右にはって意味だけど。
視野角はそれなりにあるか?
なんか俺自身妙な事を言ってるなって感じだが、しかし仕方がない。
何せ最初に聞こえた声にあったように、どうやら俺は進化の剣として目覚めてしまったみたいだしな。
剣というのはつまり常識的に考えれば武器だ。人に使ってもらうことで真価を発揮する刃物だ。
それがどうやら俺らしい。おかしな話にも思えるが実際そうだから仕方ない。
さて、そんなわけもあってか、俺はおかげ様で自分の力ではさっぱり動くことは出来ない。
視線を下に移すと石を切って作られたような台座が見える。
どうやら俺はその台座に突き刺さったままのようだ。
しかし……進化の剣とか言っていたが、どうやら相当な年代物なのか、剣身は錆びてボロボロだ。
これ切れ味とか最悪だろ? 赤錆に塗れて、古い鉄扉みたいになってるし、放っておいたらこのまま朽ち果ててしまいそうだ。
つまり俺は剣としてここにいるが、真新しい物ではなく随分と古い剣として目覚めてしまったというわけだ。なんでだよ、と自問しても答えは返ってこないな。
……何か急に不安になってきたな。何これ? もしかして俺既に詰んでないか?
自分じゃ動けないし、もしこのままポキっといってしまったら、せっかく目覚めてもこのまま死んでしまうみたいな? いや剣なのに死ぬという表現が正しいのかはいまいちわからないけど。
とは言え、おいおい、流石にそれはシャレにならないな。何か手はないのだろうか? 取り敢えず動こうとしてみる。
う~ん、う~ん、うん無理だな。諦めが早いと思われそうだが、実際動かないから仕方ない。
まぁ、冷静に考えたら剣が勝手に動けるわけもないか……ただでさえ台座に刺さってしまってるし。
でもなぁ、だからって諦めるわけにもな……て、あれ? なんか向こうの壁に刻まれているな。
なんて書いてるんだ? え~と、お、なんとなく読めるぞ。どれどれ? ステータス?
なんだ? ステータスって――
──────────
ステータス
種別:進化の剣
剣銘:錆びた剣
熟練度:1/1
耐久値:4/10
重量 :3kg
進化ポイント:150
直接属性
切:3打:5突:2魔:0
補助属性
火:0水:0土:0風:0
光:0闇:0雷:0氷:0
パッシブスキル
【ガイドLV1】
アクティブスキル
なし
称号
なし
──────────
おわ! なんだこれ! 俺がステータスって頭のなかで考えたら、何かがイメージとして浮かび上がってきたぞ。
本当なんだこれ? 脳内でめっちゃ浮かび上がるようにして見えてるし。
う~ん、まぁ取り敢えずこのステータスが何なのかってところだよな。
種別ってのがそのまんまの意味でいいのかな? 進化の剣って表示があるし。
で、剣銘ってのは今の俺の剣の名称? というか種類か。
種別ってのが大きな枠で錆びた剣というのはその形態みたいなもんか。
そしてその下の熟練度。これもなんとなく意味は判るな。どれだけ使いこなせているかとかそんな感じだろう。どうも基本的な知識は俺の中に備わってるようだ。何故かは本当わからないけど。
ただいくら熟練度が判っても、俺、そもそもこの剣使えないんだけどな……自分自身が剣だけに。
う~ん、てことは知識とは別の意味かもしれない? 自信なくなってきたな。これって聞けないのかな? さっきの声みたいのに。
『ねぇ? この熟練度って何?』
――その項目を参照するにはレベルが足りません。
おお! なんか聞いてみたら返事が脳内に流れてきた! けど、なんだよレベルって。
それが足りないから答えられないって?
まじかよ……そうなると一体どれだけの事が判るんだ?
とりあえず耐久値ってのは命の源みたいなものになるのか? それだと右にみえた10という数値が最大値で左の4ってのか今の数値だろうか?
でも、それだとやばくない? 既に半分切ってるし。
0になったらどうなるんだ? やっぱぶっ壊れるのか?
……考えるのやめよう。不安になるだけだ。
さて、次だ。進化ポイント? これも何か謎だな。
一応種別が進化の剣ってなっている以上、それと関係ある気がするんだけど、う~ん。
『この進化ポイントってなんだ?』
――その項目を参照するにはレベルが足りません。
これだよ。だから何だよレベルって……。
まぁ取り敢えずこれも後回しだな。
で、次は直接属性で、
【切・打・突・魔】
とならんでいてその下には補助属性として、
【火・水・土・風・光・闇・雷・氷】
と並んでいる。
補助属性のほうが多いんだな。
『この直接属性と補助属性って何?』
――その項目を参照するにはレベルが足りません。
ですよね~。そうだと思ったよ。予想通りだったよ。
でも、これはなんとなく判る気がする。
直接とか補助とかの違いはともかく、切は当然切る事、打は打つこと、つまり打撃って事かな? そして突はそのまんま突きつまり刺突ってことなんだろうなと。俺、剣だけにそういった知識は普通にあるよな。
で、問題は魔だけど、これは一体なんだろうな? 魔、魔、魔法? そうだ、魔法だ。確かにそういった類があるのは俺の知識にもある。
それにそうなると下の補助属性も予想をつけることが出来る。
つまり火はあの火ってことだろうし、水や土、風なんかもそういう事なんだろう。こういった属性は魔法によって操ることが出来るんだと、俺の知識になんとなくある。
よしよし、大分わかってきたぞ。これで、これで、うん、よく考えたら、だから何? って感じではあるけどね。
だって俺いま一人じゃ全く動けないし。
例えば攻撃に使えるものだとしても確かめようがない。
う~ん、でもこのままぼ~っとしていても仕方ないし他のステータスにも目を通すか。
うん、後はバッシブスキル、アクティブスキル、称号が何なのかってとこだけど。
――その項目を参照するにはレベルが足りません。
はいはい。そうだよねっと。
ただこれに関してはパッシブにガイドLV1っていうのが付いてるんだよな。
スキルってからには何か技とかそういった類なんだろうなとは思うけど。
まぁとりあえずダメ元で。
『このガイドLV1って何?』
まぁ参照できませんとかなんだろうけど。
――貴方をサポートするためのスキル。
て! 答えたよ! なんかやっと答えてくれたよ!
いや、すげぇあっさりしてたし声も冷たかったけど、反応があったよ。
やべぇ何か超ウレシイ。
なんかやっぱこんなところで一人刺さってるだけって寂しいしな。
うん、でもよかったこれで一歩前進……したかこれ?
とりあえずこのガイドとやらで判ったのは俺が進化の剣として目覚めたという事。
そしてパッシブスキルのガイドが俺をサポートするためのものだって事ぐらいだ。
うん、殆ど前進してないなこれ。
でも、まぁいいや。取り敢えずそれを踏まえてもう一度ステータスを見てみよう。
何か新しい発見があるかもしれないし。
というわけで、ステータス!
──────────
ステータス
種別:進化の剣
剣銘:錆びた剣
熟練度:1/1
耐久値:3/10
重量:3kg
進化ポイント:150
直接属性
切:3打:5突:2魔:0
補助属性
火:0水:0土:0風:0
光:0闇:0雷:0氷:0
パッシブスキル
【ガイドLV1】
アクティブスキル
なし
称号
なし
──────────
耐久値減ってるじゃねぇかーーーー!
てかなんだよ! なんでこの短時間で耐久値減ってんだよ!
そういえばなんか体が錆っぽくなってきたような、より赤みが増してきたような――
やべぇよこれ。残り3って本気でヤバイでしょ。
あと三回減ったら俺アウトじゃないかよ。
それなのに俺未だ動けないし、解決策も見つからないし、なんの試練だよこれ。
むぅ、これは本格的にマズいな。とにかく視線を動かそう。
上を見る。知らない天井だ。そんな事を言っている場合じゃないな。
てか結構天井高いな、ちょっとした建物が収まるぐらいはありそうだ。
そして左右を見る。空間だ。何もない殺風景な空間だ。
うん、詰んだ。諦めるの早いって? でも仕方ないだろ。どう考えてもいい手がない。
そもそも動けないし、どうしろってんだよ!
「グギョ! グギョ!」
「ギョ! ギョギョ!」
て、うん?
「πβαγC! δΨ!」
なんだ何か声が聞こえてくるな。複数聞こえてくるのは声といっても奇声みたいな感じで、あまり知性を感じさせないが、その中に紛れて聞こえるのは、何か意味の感じられる、そう知識ある誰かが叫んでるような――声は結構高めで質は悪く無い。
それが俺の見える範囲で部屋のの正面側、そこにこの空間と繋がっている扉らしきものがあって、その奥から聞こえてきてるようだな。
で、その声は段々と近づいてきているわけだが――
「ギェギェ! グギェ!」
「ギャ! ギャギャ!」
「グギッ! ギェッ!」
「δαβ! ΩΧ!」
これはまた……扉が威勢よく開け放たれ、けったいな姿形をした化け物3体と、そしてそれに追いかけられるようにして部屋に飛び込んできた――十代半ば? ぐらいの赤毛の少年だった……
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