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私、鬼ごっこを始めます?

 魔王様との謁見後、私はレオネルによって城内を案内された。

 案内されたのはいいのだけど、広すぎてどこに何があるか覚えられそうにない。ただでさえ、私は道を覚えるのが苦手だというのに。

 1人で城内を探索するのは諦めよう。迷子になるのが目に見えている。

 一通り城内を案内されたあと私に与えられた部屋に案内された。レオネルの部屋と近いらしい。要らない情報だ。

 部屋はとても広い。私の家のリビングよりも広いんじゃないだろうか。一人で使うだけなのにこの広さは無駄なんじゃないだろうか…そう思ってしまうのは私が異世界からやって来たからだろうか。違うと信じたい。


「気に入った?」

「うん。私が一人で使うのは勿体無いくらいかも」

「そう。まあ、気に入ったなら良かったよ」


 そう言ってにっこりと笑うレオネルは眩しいくらいにイケメンだった。眩しすぎて平凡な顔立ちの私は直視できない。

 城の中を歩いて思ったのだけど、魔族の人はみんな美形だ。もちろん、城で働いている人の条件に「顔立ちが美しい事」というものがあるなら話は別だけど。

 もっと街の様子が見たかったな。そうすれば判断できたのに。


「というわけで、僕と鬼ごっこしようか」


 取り留めなくそんなことを考えていた時に唐突にレオネルがそう言った。

 というわけで、って。なにが「というわけ」なんだよ。脈略が無さすぎる。


「なんで?」

「運動がてらに?」

「あ、それなら必要ないです。私運動苦手なんで」

「まあ、まあ。そう言わずに。きっときみのためになると思うよ?」

「なんで?」

「きみは『勇者』だ。特殊な能力があるはずなんだ。その能力を知りたいと思わないの?」

「いや別に…私、家に帰れればそれでいいし」


 別に特殊な能力とか要らないし。どうせ元の世界に帰ったら使えなくなる力なんでしょ?それなら無理に使えるようになる必要はないと思うんだ。

 そうレオネルに言うと、彼はとても不満そうな顔をした。


「きみはそう思うかもしれないけど。もしきみの存在が他国に伝わってしまったり、あるいはこの魔王国内でもきみを利用しようと企む輩が現れないとは限らない。そうした時にきみのその力が使えるようになっていた方が良いと思わないか?」

「…確かに、その通りかもしんないけど。でも、それと鬼ごっこになんの繋がりがあるの?」


 なんかそれっぽいこと言って騙そうとしたって騙されないぞ。

 そんな決意を込めて、できるだけ冷たい目でレオネルを睨む。

 なのに、彼はとてもイイ笑顔で答えた。


「決まっている。僕がしたいからに決まってるじゃないか」


(…だめだ。こいつ話が通じない…)

 私はそうそう白旗をあげたくなった。だけどあげたら負けだ。意地でもあげない。


「まぁ、今日はゆっくり休んで。鬼ごっこは明日からにしよう」


 はい?私やるなんて一言も言ってませんけど?

 そんな反発心満載な顔をして彼を見つめれば、彼は有無を言わさぬ雰囲気を出して言った。


「わかった?明日からだから、ね?」


 すごく笑顔なのに、なぜだかとても怖い。

 ぞわっと鳥肌が立ち、気付けば私はブンブンと首を縦に振っていた。

 本能が叫んでいる。今の彼に逆らったらまずい、と。

 そんな私の様子に満足したのか、レオネルは雰囲気をふわっと緩めて、「良い子だ」と私の頭を撫でながら囁く。

 子供扱いにむっとしながらも、今度は先ほどとは違う意味で鳥肌が立った。

 再三言っているけれど、彼の声は私好みなのだ。低すぎず、甘い声。耳元に掠れた声で囁かれればくらりとする。

 ああ、録音したい…そんな誘惑にかられた時、私はスマホの存在を思い出した。

 そういえば私はスマホをどうしたんだったっけ。確か、召喚される直前まで手に持っていたはず。ポケットと鞄の中を探しても見当たらない。

 あれ、どこにいったんだろう…?買ったばかりなのに…。

 ポケットや鞄をごそごそとし出した私にレオネルは怪訝そうな顔をする。


「なに探しているの?」

「スマホ。ここに来る前まで持っていたはずなんだけど…どこいっちゃったんだろう…」

「すまほ?」

「そう。手の平くらいの長方形の物。見なかった?」

「いや…見てないな。それは大事な物?」

「うん、大事な物。元の世界に帰ったら無いと困るの」


 大切な個人情報が入っているからね。友達の携帯番号とか。

 また聞きなおすのは骨が折れそうだ。


「そうか…とりあえず念じてみれば?この世界では思い入れのあるものは念じれば手元にくる……こともあるから」


 なんだその間は。念じれば手元に来るのか来ないのかハッキリしろ。

 と言いたいのを堪えて、藁にも縋る想いで念じてみる。

(スマホ…私の大事な相棒…お願いだから出てきて!)

 そう念じてすぐにポンッと音がして私の手の中にスマホが現れた。

 まじか。本当に手元に来たよ。疑ってごめん、レオネル。

 そしてお帰り、相棒!


「本当に出てきたよ…びっくりだ」


 アドバイスした本人が一番驚いているってどういうことなの。やっぱり適当なことを言ったのだろうか?

 まあ、スマホがこうして無事に戻って来たからそれでいいや。

 私はスマホを操作して電源を入れてみる。だけどすぐに充電切れと表示される。

 そう言えば充電20%くらいしかなかった気がする。それじゃあ仕方ない。


「それがすまほ?ふうん、こんなものが大事なの?」

「そうなの。これがないと本当に困るんだ」

「これがねぇ…とにかく戻って来て良かったね」

「うん。ありがとう。レオネルさん」

「レオでいいよ」

「え?」


 戸惑って思わずレオネルを見る。彼はにっこりと笑っていた。


「レオって呼んでほしいんだ」

「えっと……いいの?」

「もちろん」

「じゃ、じゃあ……レオ?」

「うん」


 私が愛称で彼の名を呼ぶと、彼はとても嬉しそうに顔を綻ばせた。

 まるで無邪気な子供のような笑顔。

 そんな笑顔に見惚れてしまったのは秘密だ。胸の高鳴りが収まらないことも。

 レオネルが去ったあとも、私はドキドキとしてなかなか寝付くことができなかった。

 でもそれはきっと、枕の高さが変わったから。私、繊細だし。枕が変わると寝れない子だし。

 ホテルのベッドとかで普通に寝れたけど。でも、そういうことにしておく。

 私の心の平穏のために。




 朝目が覚めて着替えをすると、タイミングを見計らったかのようにレオネルが現れて一緒に朝食を取ろうと言った。そして私の部屋に食事を運び、朝食をレオネルと一緒に食べる。

 こちらの世界の朝食は見た目も味も元の世界と大差がなかった。そのことにほっとしつつ、朝食を食べる。さすがは魔王様のお城の料理人が作ったものだけはあって、とても美味しかった。

「こっちの食事はどうかな?」とレオネルに聞かれて正直に「美味しい」と答えるとほっとしたように微笑んだ。

 食事を終えて温かい紅茶を飲んでいると、ノックの音がして扉の方を向く。

 なんだろうと思っていると、レオネルが小さく「来たか」と呟いたのを耳に捉えた。


「失礼致します。おはようございます、殿下、勇者どの」


 そう言って入って来たのは筋肉親父だった。

 なぜやつがここに、と思いつつも挨拶をされたら返すのが礼儀なので、私はむっつりと「おはようございます」と返す。


「やあ、オイゲン。おはよう。待っていたよ。彼は連れてきてくれた?」

「もちろんです。殿下の命とあらば、無理やりにでも引っ張って連れてきます」

「やめてあげて…」


 小さく呟いた私の言葉は、続いたオイゲンの言葉にかき消された。


「入れ」

「―――はい。失礼致します」


 そう言って部屋に入り、ピシッと敬礼をしたのは私とあまり年が変わらないように見える少年だった。

 ダークブラウンの髪はしっかりと梳かしつけられており、エメラルドグリーンの瞳は涼やかで理知的だ。レオネルまでとはいかずも、彼も十分と整った顔立ちをしている美少年だった。


「お早うございます、殿下」

「ああ、おはようルディ。紹介するよ、ユウ。彼はルディガー。今日からきみの護衛にあたる。まだ若いけどとても優秀なんだ」

「お初にお目にかかります。ルディガー・アウデンリートと申します。本日からユウ殿付きの護衛となりました。よろしくお願い致します」

「は、はあ…ユウ・ハヤカワです。よろしくお願いします…」

「ルディガーはきみと同い年で、そこにいるオイゲンの息子なんだよ」

「まだまだ修行の足らぬ愚息ですが、きっとユウ殿の役に立つでしょう。こき使ってやってください」

「は、はあ…」


 なんだか状況がよくわからない。

 私に護衛つけてくれるって、どんな状況なんだろうか。護衛の人がいないと危ないんだろうか。

 そんな私の不安を察知したのか、レオネルが説明をしてくれた。

 なんでも私のこの黒髪黒目は珍しいらしく、狙われる可能性が高いのだという。髪を切って売れば高額で買い取ってもらえるし、この世界には趣味の悪いことに目玉を集めている人たちもいるそうで、そういう人たちにこの瞳はとてつもない金額で売れるそうだ。

 人の出入りの激しいお城で私の存在を知って私に手を出そうと考える輩が現れる可能性があるため、念のために護衛を付けることにしたのだという。

 なるほどね。理由はよくわかった。私は勇者の力なんて使えないし、狙われたらひとたまりもないだろう。

 それにしても親切だなあ。異世界から来た私のような小娘にそこまでしてくれるなんて。そうなったらそうなったで仕方ない、と思われて終わりになるのが普通ではないのだろうか。


 そんなことを考えていると視線を感じた。視線を感じた方を向くとルディガーがこちらをじっと見ていた。

 な、なんだろう…。美少年にそう見つめられると緊張するんだけど…。


「なに?」

「いえ…とても私と同い年には見えないなと思」

「ルディ!!」


 言いかけたルディガーの口をオイゲンが慌てて塞ぐ。

 ルディガーはとても迷惑そうな顔をしてオイゲンの手を退かした。


 ……今、あのルディガーって呼ばれた美少年、失礼なことを言おうとしたよね?

 つまり、自分と私は同い年に見えないと。私が幼く見えたと。そういうことなんだよね?私の被害妄想とかじゃなく。

 親が親なら子も子だ。まったく親子そろって失礼だ!

(いつか絶対、この親子をギャフン!と言わせてやる!!)

 私はそう、固く決心をした。





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