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私、魔王様に会いました

 数分もかからないうちに、目的地へ到着したようだ。

 魔王様のお城は私が思い描いていた恐ろしいダンジョンのような外観ではなく、普通のお城だった。RPGでいうと、最初に訪れるお城みたいな感じの白亜のお城だ。綺麗なお姫様がいそうなお城。なんというか…拍子抜けだ。

 でも世界を平和に導いた魔王様のお城が恐ろしい外観してるのも変だもんね。

 レオネルたちが門番らしき兵士たちと何か話をして、それだけであっさりと城内に入れた。さすが王子様だ。

 城内は外観通りにとても豪華で気品を感じる内装だった。とてもお金がかかっているのはなんとなくわかるのだけど、それが嫌味に感じない。

 ここ、本当に魔王様のお城なんだろうか、と疑問を覚えずにはいられないような内装だった。


 内装にぼーっとしながら歩いている間に、いつの間にか豪華な部屋に入っていた。

 部屋の奥に置かれた立派な椅子が目を惹く。

 ……これはいわゆる、玉座、というやつだろうか。あの、ゲームとか漫画の世界でよく見かける、あの。

 そんなことを考えている間にレオネルが平伏した。驚く間もなく私も筋肉親父に無理やり平伏させられる。

 痛い、首痛いって!


 首の痛いのを我慢していると、渋い声が響いた。

「顔を上げよ」

 その渋い声に、私の脳天が貫かれた。

(な、なんという素敵ボイス…!こんな声のお父さんがほしい…!!)

 と脳内で暴走していると、二人が顔を上げる気配がして首の拘束がとかれたので、恐る恐る私も顔を上げる。

 玉座に座っていたのは、なんともダンディーなおじさまだった。


 美しい銀髪はオールバックにされていて、それがまた彼の精悍な顔つきをより強調させていて、凄まじい威厳を放っていた。これぞ王様!って感じだ。私の隣にいる筋肉親父ほどではないけれど、体も引き締まっていて、よく鍛えられているのが伺える。

 さすが世界を救った英雄だ。


「レオネル…」

「父上、ただいま戻りました」


 感動の親子の対面が見れるのかと私は思い、期待をして二人を見守った。

 魔王様の顔はかすかに歪み、レオネルの姿を見て安堵を覚えている様子である。レオネルもそんな父親に対して申し訳なさそうな顔を浮かべながらも微笑んでいた。

 うん、うん。危険な魔法に挑戦した息子が帰って来たんだもんね。感動の親子の再会だね!


「この馬鹿たれがああああああ!!!」


 え?


 私がぽかんとしつつも、目の前で起こったことを頭で解析する。

 魔王様が突然立ち上がったかと思ったら「この馬鹿たれ!」と叫びながらすごい速さでレオネルの前に移動し、息子(レオネル)の顔面を殴り飛ばした。

 つまり、そういうことでオーケー?いや、オーケーじゃねえ!!


「れ、レオネル!?」


 華麗に弧の字を描いて飛んでいくレオネルを見て、私は焦ると同時に、心の片隅で「ああこれは、だめだな。死んだな」と思ってしまった薄情な自分がいた。

 せっかくの美形で私好みの美声の持ち主に出会えたのに残念だ。成仏してください。この世界に仏さまがいるのか知らないけど。

 ちーん、と心の中で合掌していると、レオネルは落下する前に華麗に宙返りをして何事もなかったかのように着地した。

 その華麗な体捌きに目を丸くしていると、彼は真っ直ぐ元の位置に戻ってきた。

 顔面を思いっきり殴られたはずなのに、彼の顔はちょっと赤くなる程度の傷しか負っていなかった。

 なんでだ。魔族って体のつくりが違うのか。それともこの世界の人はみんなそうなのか。


「ちっ。その程度しかダメージを与えられんかったか」

「わかっていてのことでしょう?」

「……ふん。無事に成功したようだな」

「ええ。ですが、だいぶ魔力を削られてしまいました。まだまだ改良の余地があるかと」

「異世界から勇者を呼ぶ必要はない。これ以上無駄なことをするのはよせ。……と言ってもお前は聞かないのだろうがな」


 魔王様の言葉にレオネルは笑みを浮かべるのみだった。

 それって肯定しているってことですよね?まだ異世界から誰か呼ぶ気なのかこの王子は。

 というか、なんで魔王様の息子が勇者を召喚するの?魔王って勇者が倒すべき存在ですよね?あれ、なんかおかしいぞ。

 ということに今更ながら気づいた。本当に今更だけど。


「それで、そこにいるのが?」

「ええ、彼女が僕の召喚した勇者です。ユウ、こちらへ」


 私は小さく頷き、レオネルに手招きされるままにレオネルの傍に行く。


「あ、あの…初めまして、ユウ・ハヤカワです」

「ほう。そなたが……なるほどな」


 魔王様はじっと私を観察すると、何かに納得したように頷き、笑みを浮かべた。


「ユウ、と言ったな?ようこそ、我が魔王国(アミルカーレ)へ。そしてうちの馬鹿息子が勝手な真似をして申し訳なかった。私の名はオーレリアン・ドゥ・ヴィリエ。我が名に置いて、そなたを必ず元の世界へ帰すことを誓おう。私にできることならなんでもする。遠慮なく言ってくれ」


 そう言って頭を下げた魔王様に私は感激した。魔王なのにとても良い人だ!

 やばい。私、魔王様のファンになりそう。というかたった今なった。

 容姿よし、声よし、性格よしの三拍子である。惚れるに決まってる。


「その…ちゃんと元の世界に帰れるなら別に構いません」

「すまない…ありがとう、ユウ。元の世界へ帰る準備が整うまで、我が城でゆっくりと過ごしてくれ」

「ありがとうございます」


 魔王様が私の名前を呼んでくれた!やばい、嬉しい!と脳内転げ回る。

 だがそんなことは表情には出さない。憧れの人の前でそんな失態はしない。

 黙って事の成り行きを見守っていたレオネルが口を開いた。


「父上。彼女の世話を僕に任せて貰えませんか?僕は彼女を無理やりこちらへ連れてきてしまったせめてもの罪滅ぼしに、彼女の世話をさせてほしいのです。この世界で不自由がないように、取り計らいたいのです」

「お前の罪滅ぼしは一刻も早く彼女を元の世界へ帰すことだろう」

「残念ながら、僕の魔力は空になってしまいました。しばらくは魔法が使えそうにないのです。だからどうか僕に彼女を帰す以外でも罪滅ぼしをさせてください」

「……なにを企んでいるんだ、レオ」

「なにも」


 レオネルは微笑んだまま魔王様を見つめる。

 しばらく魔王様は睨むようにレオネルを見つめていたが、ため息を吐いて視線を逸らした。


「…わかった。ユウの世話はお前に任せよう。ユウもそれで良いか?」

「はい……」


 脳内で未だに転げ回っていた私は、魔王親子の会話がほとんど耳に入っていなかった。そのため、無意識に返事をしていた。

 惚けている私の手をレオネルは取り、指先にキスをした。

 その感覚にぎょっとして現実に戻った私は、慌てて手を引っ込めようとした。けれど、レオネルがそれを許さないように手を掴んだ。


「このレオネル・ドゥ・ヴィリエの名に懸けて、きみを退屈させないことを誓う」


 顔を赤らめてぱくぱくと金魚のように口を動かしていた私の耳にレオネルがそっと顔を寄せて、囁いた。


 ―――だから、覚悟しておいてね?


 この時、私は自分が選択を間違えたということに気付いた。

 これから私の異世界生活はどうなるのだろう?

 不安しか浮かんでこないのは、きっと目の前で妖しく微笑むこの王子のせいに違いない。



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