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私、異世界に召喚されました

 


 ―――どうしてこうなった。


 ぼんやりと目の前で微笑む人を見つめながら、私は自分の置かれた状況を整理した。



 私、早川(はやかわ)優羽(ゆう)はごくごく普通の高校生だ。部活はしていないかわりに、バイトに精を出していた。

 ある日、バイトの終わりが遅くなってしまい、急いで家に帰ろうと普段あまり通らない道を使って近道をした。

 門限は特にないはずなのだけど、あまり遅くなると家族がうるさいのだ。特に父と兄が。遅くなると携帯が兄と父により鳴りっぱなし状態になる。正直うざい。

 だからできるだけ帰宅時間がわかる時や遅くなりそうな時は連絡をするようにしていたのだが、その日のバイトはトラブルの連続で、連絡をする暇もなかった。

 そのため、私の携帯は今、音が鳴りやまない状態だ。ああ、本当に鬱陶しい。『今から帰る』と父と兄に連絡を入れると携帯はようやく静かになった。これで落ち着いて帰れる。


 しばらく歩いたところで、しばらくは静かだった携帯が突然音を鳴らした。

 いつもなら無視して歩くのに、なぜだかその時は携帯が気になって、携帯を取り出して画面を操作した。

 どうやらメールが届いたようだ。見覚えのないアドレスからのメール。迷惑メールか、と思いつつメールを開いてみたが、文字化けしていて何が書かれているのかさっぱりわからない。


「なにこれ」


 気持ち悪くて削除しようとしたとき、周りが突然明るくなった。そしてどんどんと明るくなり、先ほどまで夜だったのが嘘かのように明るくなった。ただし、昼間になったという感じではなく、周りが白く光っている感じだ。

 何がなんだかわからずただ混乱していると、ひと際眩い光が発せられ、思わず目を瞑る。

 そして何かに引っ張られるような感覚が少しの間続き、その感覚がしなくなって恐る恐る目を開く。


 目を開けて真っ先に飛び込んできたのは、艶やかな金髪に綺麗なコバルトブルーの瞳を持つ、今までお目にかかったことのないくらいに美しい男性だった。顔が整い過ぎて精巧な人形なのでは、一瞬思ったが、私を見ると悪戯が成功して喜ぶ子供のような笑みを浮かべたので、生きている人間なんだなぁとぼんやりとした頭で思った。

 現実感が全くない私はこれが夢だと思っていた。これは白昼夢なのだ。

 いや、待って。さっきまで夜だった気がする…だから白昼夢とは言えないんじゃないだろうか。

 でも夢であることは間違いない。そうでなければいきなり私の目の前にこんな壮絶な美形が現れるわけがない。こんな美形がいたら絶対大騒ぎになる。ハリウッドスターだって彼を見たら腰を抜かすに違いない。

 なにせ、この世の者とは思えないくらい美形なのだから。


「フフ、どうやら成功したみたいだ」


 機嫌が良さそうに目の前の美形が喋った。美形って声までかっこいいんだ、と夢だと信じて疑っていない私は感心した。

 ちなみにどうでもいいことだが、私は声フェチだ。彼の声は私のドストライクボイスだ。私の理想の声が目の前に…!

 私が感動に打ち震えていると、彼が私を上から下までゆっくりと眺めて一言。


「黒髪に黒目、か…珍しい色合いだな。それ以外は平凡だけど」


 グサっと胸に突き刺さる一言を、彼は私好みのその美声で発してくださった。

 ……ええ、平凡なのはわかっていますとも。言われなくても自覚しておりますとも。

 顔も辛うじて中の上くらいですし、スタイルに至っては少し凹凸があるくらいですよ。はっきり言って、幼児体型ですよ。美形で美声のあなたを基準にされても困りますけどね!!と、内心拗ねる。

 それが顔に出ていたのか、彼は面白そうに私を見て爆弾発言を投下した。


「どうやら言葉はわかるようだね?はじめまして、異世界からお越しのお嬢さん。僕はレオネル。この魔王国の王子だ」


 なに言っているんだこの人?と私は本気で考えた。頭が理解するのを拒む、とはこういうことを指すのかと真っ白になりかけた頭で思った。


(いや、落ち着け、落ち着くんだ私。とりあえず深呼吸をしてみよう。…すーはー。………うん、落ち着かないね!わかってた!深呼吸で落ち着くならみんな冷静になれるよね!!)


 とりあえず頭は混乱したままだが、彼の言ったことを思い出して頭の中で反復してみることにした。


(えっと、確かこの目の前にいる美形さんはレオネルと言って、魔王国というところの王子様。それでもって、私は彼にとっては“異世界からお越しのお嬢さん”。ふむ、なるほどなるほど。って、さっぱりわからないんですけどー!!!)


 やっぱり混乱した頭で考えてみても無駄なようだ。余計に混乱してしまった。

 ちょっと待って。どこから突っ込めばいいの?

 異世界からお越しってどういうこと?

 彼がオウジサマってことはあまり譲りたくないけど、百歩譲って美形で美声なので認めるとしよう。認める理由が自分でもよくわかんないけど。まあ混乱中だから仕方ない。

 魔王国ってなに?もしかして、魔王様が治めてる国だったりして?

 ―――ゲームかっ!!!

 私が混乱した頭で目まぐるしく思考をフル回転させている様子を彼は楽しそうに眺めている。それに気づけばイラっとしたのだろうが、幸いなことに思考をフル回転させていた私はそれに気づく余裕がなかった。


「混乱しているようだね?」

「あ、当たり前でしょ!いきなり異世界だとかオウジだとか言われたら誰だって混乱するわ!」

「そんなもの?よくわかんないけど。まあ、いいや。とりあえず、質問の答えてあげる。なんでも聞きなよ」


 まあ、いいや。じゃねえよ!!

 と全力で叫びたいのを私はぐっと堪えた。偉いぞ私。超大人だね!と自分で自分を褒めて無虚しくなったので、自画自賛はこの辺でいいにしておく。

 なにはともあれ、この状況を説明さいて貰わなくては。


「異世界からって言ってたよね?それってどういうこと?ここは日本じゃないの?」

「ニホン?それがきみのいた国かな?最初にも言った通り、ここはきみがいた世界とは別の世界になる。僕がきみを異世界から召喚したんだ」


 あ、王子様に敬語忘れてた。と焦ったが、彼は気にした様子もなく質問に答えてくれた。うん、彼がそういうのに厳しい人でなくて良かった。

 しかし、また気になるワードが出てきた。


(召喚って、ドウイウコト?)






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