大事な人 ヴィスコ目線
長らくお待たせいたしました。
シグレは私の治癒魔法にかかるとすぐに意識を手放した。
イディオンはゆっくりとシグレから離れると異世界から来た客人と向き合った。
異世界から来た客人であるアイコは真っ青な顔でイディオンを見つめていた。
「なぜこんなことをした?」
底知れない低い声がイディオンの口からもれた。
「だ、だって………アーリーは死んでる人なのに………イディオン様を支えるのは私なのに………」
ここからではイディオンがどんな顔をしているかは解らない。
「そんなどうでも良いことのためにシグレは殺されそうになったのか?」
「どうでも良いことじゃない!」
「どうでも良い!シグレは幸せになるためにここに居るんだ‼それなのに僕が引き金で死にそうになってる………」
イディオンはチラッとシグレを見た。
イディオンの顔は真っ青で暗い影を落としていた。
こんなイディオンの顔は初めて見た。
私の治癒魔法がきいてきたようでシグレの呼吸が安定してきた。
「イディオン、大丈夫だ。直ぐによくなる。」
私の言葉にイディオンの顔が歪む。
涙をこらえているようだ。
「そんな、その子は死んでないといけないのに‼」
アイコがそう叫ぶのと私達の前に空色の髪に海色の瞳の少年が現れたのは同時だった。
「「!」」
「………ディオプロセフ君?」
私とイディオンが驚いていると、ポツリとアイコがディオプロセフ様の名前を呟いた。
「君とは゛君゛付けされるほど仲良くなった覚えがないよ。」
ディオプロセフ様は不愉快そうに笑った。
「貴方神様でしょ!あの子が死んだ状態でやり直させて‼リセットしてよ!」
「言っておくけど、ここは君の思っているゲームの世界じゃない。」
「嘘よ!だってみんな居るじゃない!」
「君の居た世界の神が気まぐれにこの世界を模写したから登場人物は一緒みたいだよね?」
「嘘よ!嘘嘘!」
ヒステリックに叫ぶアイコにディオプロセフ様は驚くほど綺麗な笑顔を向けた。
「黙れ電波女。よくも時雨ちゃんを傷つけたな!お前はこの世界で一番やってはいけないことをした。その代償は払ってもらう。」
アイコの顔が青から白に変わった。
ディオプロセフ様は一瞬困った顔をしてからニヤリと笑った。
私はアイコに指を指して言った。
「盟約の名のもとに移動転送。」
私の詠唱とともにアイコはこの場から姿を消した。
ディオプロセフ様には私の心が解ってしまうだろう。
ディオプロセフ様は驚いた顔をして私の方に顔を向けた。
「ヴィスコ。君って子は…………」
私はシグレを抱えあげた。
「父上?」
「なに、地下牢に送っただけだよ。」
「何故?彼女を庇うのですか!?」
イディオンは眉間にシワを寄せて叫んだ。
私はニコッと笑って見せた。
「イディオン君………ヴィスコはメチャクチャキレてるんだよ。」
「は?」
「ヴィスコは僕が彼女をもとの世界に帰そうとしていたのに気が付いちゃったんだ。それが許せなくて地下牢に転送。あの子虫嫌いだから今ごろ半狂乱だね。」
私はため息をついて言った。
「………虫ぐらいでキャーキャー言ってるやつが、私の大事な者を奪おうなんて………」
「女の嫉妬ってそう言うものでしょ?彼女恐怖で気が狂っちゃうよ?」
「その前にもとの世界に帰すんでしょ?」
「まあね。………イディオン君、君のお父さん怒らせるとマジで怖いって覚えといてよ!魔王も逃げ出す狂気なんだから。」
「?」
「ヴィスコが魔王討伐に参加しなかったのは魔王が怖がって逃げ出さないためなんだよ。」
私はさらにため息をついた。
「大袈裟な。魔王討伐が長引かなかったのだから良いでしょうが?」
「ち、父上………」
私はイディオンに苦笑いを向けた。
「イディオン、先にシグレを抱えて家に帰っていてくれるかな?私も急いで仕事を終わらせるからね。シグレが目を覚ました時に誰か居た方がシグレも安心するだろ?」
「………そうだね。シグレの事が一番心配だ。」
私はイディオンにシグレを預けて微笑んだ。
いつの間にかディオプロセフ様の姿は消えていた。
この世界の神は口が軽くて困る。
私は苦笑いを浮かべて執務室に急いだのだった。
次、終わりにしようと思っています。




