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練習場から……

ようやく一本背負いです。

お父様とのデートをしてから三日後私はポレマオさんを投げ飛ばしていた。


「こんな感じです。」

「アーリーにこの俺が投げ飛ばせるんだから凄いな!」

「接近戦が出来るなら有効です。」

「そうだな!」


ポレマオさんは部下の騎士さんを使って投げるシミュレーションをしていた。

近くではスキロフさんがメモをとっていた。

ケーシーさんもエアーで投げるシミュレーションをしていた。


「今日は梨元先輩は居ないんですね?」

「愛子に呼ばれて出てったっきりだ!」

「………そうですか………」

「ショウタロウに会いたかったのか?」

「いえ、もう一度戦う約束をしていたので気になっただけです。」


ポレマオさんはニヤリとして言った。


「アーリーも負けずにショウタロ誘って出掛けたらどうだ?」

「?」

「寂しそうな顔してるぞ?」


私は暫く考えて言った。


「では、デートしてくれませんか?」

「へ?」

「寂しい気持ちを埋めるためにポレマオさん、デートしてくれませんか?」


ポレマオさんは暫くフリーズすると慌てて言った。


「俺か?」

「ポレマオさんに言ってます。」

「おおおおおおお俺とデートしたいのか!」

「そうですね。この前お父様とデートしたのですが楽しかったのでポレマオさんともぜひ。」

「うおーハードル上げられた~!」


ポレマオさんはかなり動揺していた。


「俺まともにデートなんてした記憶がねえぞ!それでもか?」

「それでもです。」

「ほら、ヴィスコはリュシュアナとよくデートしていたから比べられると困る!」

「リュシュアナ?」

「………イディオンの母親だ!ヴィスコと別れて直ぐに亡くなったがな!」

「亡くなったのですか?」

「ああ、事故だった。ヴィスコは後悔してたな。別れたとはいえ愛した女の死はヴィスコを消極的にしたからヴィスコがデートなんて久しぶりに聞いたぞ。」

「ちなみにどんなデートだったのでしょうか?」

「おもに女が好きそうなデートだ‼観劇に行ったり服見たり飯食ったりだろ?俺はデートとか解かんねえぞ。」


私としたデートとは違うようだ。


「比べたりしませんよ。」

「………俺は女の扱いになれてない。」

「私を別に女扱いしなくて良いですよ。」

「そうも言えねえだろ?アーリーは素晴らしい女性だ、下手なデートなんて出来るか?」

「………ポレマオさん私デートはお父様としかしたことがないです。だからから比べるほど知らないのです。」

「そんな可愛いのにか?」


私は少し照れて首を横にふった。


「可愛いな~!おし、飯食いに行くか?デートじゃねえぞ!」

「はい。」

「何が好きだ?女はサッパリしたもんが好きだよな?」

「コッテリも好きです。」


ポレマオさんはニコっと笑うと他の騎士やキスロフさんとケーシーさんも連れてご飯を食べに行くぞ~と言って練習場を後にした。







ポレマオさんが連れていってくれたのは大衆食堂のような所だった。


「ポレマオ隊長!今日は大勢ですね?」

「ナル、みんなに適当にメシ!」


ナルと呼ばれた女の人は驚いたように目をパチパチさせた。

ナルさんは茶色のウェーブヘヤーを一つに束ねたグラマラスな美人だった。


「アーリー、こっち座れ!」


私は言われるがままポレマオさんの隣に座った。


「私の店に女を連れてくるなんてポレマオ隊長は私にケンカ売ってるのかしら?」

「そう言うなよ!アーリー、こいつはナルだ!困ったことがあれば彼女に頼ると良い。女にしか解決出来ないこともあるかも知れないからな!」

「アーリー?ヴィスコ様の娘?」

「ああ、今のな!」

「今?」


私は深々と頭を下げた。


「時雨ともうします。」

「シグレ?アリアンロッドじゃなくて?」

「アリアンロッドさんの体をお借りしています。」

「?」

「後で説明してやる!」


ナルさんは私の所に近寄ると例に漏れず私がかぶっていたポンチョのフードを外すと直ぐにフードをもとに戻した。


「ポ、ポレマオ隊長!てててて天使様なんだけど!」

「アーリーだ!」

「ナルさん、私は普通の人間です!」


私の言葉にナルさんは私のフードに隠れた顔を除きこむと言った。


「アイコなんか比にならない天使具合じゃない!」

「アイコさんも来たんですか?」

「勇者とたまに来るよ!あの子はなんかくせ者って感じだよね!」


ナルさんはニヤリと笑った。


「あんなのに引っ掛かる男の気が知れないね!そう思うだろケーシー!」


突然話をふられたケーシーさんはニヤリと同じような笑顔を作って言った。


「ナル、男は馬鹿な生き物だからあんなのでも可愛く見えちゃうのよ!」

「知り合いですか?」


私が聞くとケーシーさんは柔らかな笑顔を作った。


「私もここの常連ですし、ナルは私の幼なじみですから。」

「幼なじみ!素敵です!」

「幼なじみなんて普通ではないでしょうか?」

「私は………あまり人と関わる事がなかったので………」

「ああ、あの糞みたいな家族のせいですね!大丈夫です!私は天使様の新しい家族ですので沢山関わっていきますから、覚悟していて下さい。」

「あ、ありがとうございます。」


私は嬉しくて笑顔を作った。

その瞬間ナルさんに抱きしめられた。


「何この可愛い生き物!なで回したい!」


そう言いながらナルさんに頭を撫でられた。

勿論フードごしにだが。


「ナル、アーリーをはなして早くメシ持ってきてくれ!腹すいた!」

「そうね!天使ちゃんのために美味しいのいっぱい作っちゃう!待ってて!」


ナルさんはニコニコしながら厨房の方に行ってしまった。


「ナルに気に入られる女は珍しいだぞ!」

「ナルさん美人さんです。ケーシーさんも美人さんだから美人幼なじみ素敵です!」


私は少しだけ見える厨房を見ながらうっとり呟いていた。


「楽しいか?」


ポレマオさんに突然耳元で言われて私の肩はビクッと跳ねた。


「驚かせたか?すまん!」

「いえ、あの、ポレマオさんありがとうございます。楽しいです。」


私は過剰にビックリしたのが恥ずかしくて顔に熱が集まるのを感じながらポレマオさんにお礼を言った。


「………お前を見てると俺が幸せにしてやりてえって思っちまうな。」

「間に合ってます。」

「………可愛くないな~。」

「だって………幸せなんです。してもらわなくても幸せすぎて怖いぐらいなんです。だから、ポレマオさんは普通にしててくれれば良いです。」


ポレマオさんはテーブルに突っ伏してしまった。


「襲いたくなるほど無駄に可愛い。」


ポレマオさんが何かを呟いていたが、よく聞こえなかった。


「アリアンロッド様、私と席を変わってください。」


スキロフさんは眉間にシワをよせて席を立った。

私もとりあえずスキロフさんの言うことを聞いて席を代わった。


「スキロフ………」


恨めしそうに呟くポレマオさんにスキロフさんは視線をはずして言った。


「うちのお嬢様に手を出せば死あるのみです。」

「………出さねえよ!ってか出せねえよ!ヴィスコとイディオン以外にスキロフに勇者?しまいには王子まで参戦とか滅多な事出来るか?」


ポレマオさんが必死に訴えたがスキロフさんは素知らぬ顔だった。









ご飯は本当に美味しかった。

ナルさんは私にだけデザートを出してくれた。

イチゴの沢山乗ったクレープみたいなスイーツだった。

それが本当に美味しくて私は幸せだった。

そんな私の事を見ながら回りのみんなも幸せそうだった。


「ちわ~………時雨‼」


そこに現れたのは梨元先輩と愛子さんだった。

愛子さんに睨まれたが気にしないようにつとめた。


「………デートですね。」


わたしが思わず呟くと、ポレマオさんやスキロフさん達皆が頷いた。


「ち、違うから‼たまたま一緒にメシ食いに来ただけだから‼」


私は真顔で頷いて見せた。


「………信じてないよね!俺は時雨一筋なの!時雨だけが好きなの!前も言ったよね!」


私は目をパチパチさせて頭を下げた。


「お気持ちは嬉しいですが、ごめんなさいと言いましたよね?ですのでお気になさらずご自分の幸せお掴み下さい。」

「ま、またフラれた‼いやいやいやいや、俺諦めないって言ったよね!」

「………梨元先輩!本当にごめんなさい。私、好きな人が居るんです。だから梨元先輩を特別に思うことはないです。」


その場の空気が凍りついたのが解った。


「シグレ様、その好きな人とは誰か聞いてもよろしいですか?」


ケーシーさんの言葉に私は首を横にふった。


「ですが、私はシグレ様の恋を応援したい!」


ケーシーさんがそう続けてくれたが私はまた首を横にふった。


「………私は今凄く幸せなんです。だから、その人に迷惑をかけて嫌われたくない。」

「シグレ様………」


ケーシーさんはそう呟くと私を抱きしめてくれた。

そこに、ナルさんが現れて手を叩いて言った。


「ほーら、今日は店じまいよ!皆帰って!シグレとケーシーは私の部屋にいらっしゃい!女子トークしましょ!勿論その幸運にもシグレに選ばれた男の名前は聞かないから安心して‼」


ナルさんは私を安心させるようにニコっと笑った。

ケーシーさんはスキロフさんに向かって言った。


「シグレ様は私にまかせて、とりあえず屋敷に帰ってて!」

「いや、だが、」

「女同士でしかしちゃダメな話があるんでしょ!この間怒ったのはスキロフよ!」

「そ、それは!」

「安心して!私はシグレ様の幸せしか考えてないから!じゃあね。」


ケーシーさんは私の肩を抱くと厨房の脇にある階段をのぼり始めた。

後ろからざわざわとした声が聞こえていたがナルさんの怒号に足音は外に出ていった。

その時、私は愛子さんの視線から逃げられた事に少しだけ安堵していた。


勇者押しの方ごめんなさい!

勇者はフラれました。

次は女子会ですね。

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