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ヘルメットは脱がないで

 もしもあなたが成功したいのならば、踏みならされ受け入れられた成功の道を行くのではなく、新たな道を切り開きなさい。


 ロックフェラー



 今は成功するとかしないとかの問題以前に、物理的に道を切り開く必要がある事を知りました。




 目的を完遂する為の手段を色々と思案する間に、当初の目的から幾分ズレて着地することは自分の欠点です。


 慌てて東側に移動して森に進入したが、やらかした感じになったので既に緊張感の欠片も残って無かった。


 森の木々はほとんどが大木なので、自生する間隔は空いてるが腰まで届く下草が、足元の視界を遮って猛烈に邪魔だ。


 安全確認用に120㎝ほどの適当な枝を拾い、余分な小枝をナイフで落として下に向けて軽く振るう。


 ジャングルナイフは持ってないが、屋敷からナタでも持ち出せば良かったわ。

 しかしこれでサブアームを手に入れた、斜め下に振り回せば障害物を確認しながら歩けるので大分楽になる。

 せっかくだから名前を付けてあげたいが現在進行形でガンガン傷ついている、別れの時はそう遠くなさそうなので止めておこう悲しくなるからね。


 下草にはワラビやフキ、ツワなんかの山菜も多く混ざってる、山間部出身者の血が熱くなり集めたい衝動が湧き上がるが、

 今は東に早く進むべきなので自重する、あっゼンマイだこれあんま好きじゃないだよなぁ……自重するのだ。


 幼い頃、山菜採りに行くのは凄く楽しい田舎のレジャーだったが、婆ちゃんが作る山菜の煮物とか大体エグ味が有って食べるのは苦手だった。

 レジャーの後にプチ罰ゲームが待ってるなんて納得いかないと思ってたものだが、今はそのエグ味が美味く感じるから不思議だな。

 歳を取ったら味覚が変わってくると聞くが自分もそんな年になってきたのだろうか?


 下らない事をつらつらと考えながら枝を1時間以上振り続けてきたが手首が結構痛くなってきたな、たまに倒木や岩に当たるとその都度手首に負荷がかかるし、安全の為には仕方ないが草の抵抗その物が負担になってきてる。  

 まだ10㎞も進んでないだろ5,6㎞くらいかな?少し前から幾分下草が減って、地面が見えてきたので移動ペースが上がってるがまだ灯りは見えない。


 深い森でGPSも無しで、真っ直ぐ進むのは大変難しい事だが、自分はここまで東に向かって直進している自信がある。


 掛けた保険が見事にハマってた。


 大岩の頂上で初めにコンパスで方位を確認した後、この為に用意した電池交換型の懐中電灯を東に向け、

 なるべく高い位置にやや下向きに点灯したまま固定しておいた。


 下から上手く見えるか自信が無かったのだが、少し大岩から離れれば木々の茂る枝葉の間に簡単に確認出来た、後は電池が切れるまではマーカーとして使えるだろう。


 作戦がズバリハマって完全に調子に乗っていた、危機感が低下して完全に油断していた、下草が脛ほどの高さになり手首の痛みから解放されて気を良くしていた。


 右手の枝をブンブンと田舎の子供ように振ってる時に――


 ――バチッと破裂音を残して右手の枝が握りの先から消滅した。


「おおおぅ、俺のボーリックがぁぁぁ」


 サブアームの変わり果てた無残な姿に絶望する。

 ここまでの活躍でボーリックと命名した愛用の枝が、目の前で破裂した。


 何だ?狙撃された?懐中電灯を消しバックステップして膝立ちにかがみ頭を下げる。


 辺りを見回すが遮蔽物が無いから狙い放題だろうに追撃してこない、飛び道具じゃないみたいだな。


 ボーリックは電線がショートするみたいに一瞬放電した…電気を使う罠の類だろうか?


 小石を拾い前に投げてみる。

 ――バチッ

 放電した後真下に落ちる。

 今度は小石を3個まとめて投げると、ばらけて飛ぶ全ての石が放電した後に真下に落下した。


 全く見えないが落ちた石のラインに何らかの防衛ラインが敷いてあるみたいだな。


 立ち上がり懐中電灯で前方を照らし見るが何も見つけられない、極細ワイヤー製の網でもあるかと思ったが何もない。


 足元の物を手当たり次第にばら撒き、境界を確認しながら右に左に回り込むが防衛ラインは僅かに円形に膨らみ、隙間なく続いて簡単には東に進めそうにない。


 スゲー腹が立ってきた、良く考えなくともコレは自分の大切なボーリックの仇だし、移動に超邪魔だ。


 サブアームの借りはメインアームで返すべきだろう、背中のコサカモデルを抜き放ち防衛ラインをホームベースの位置にして右打席に構える。

 ジュラルミンの通電性てどうだっけ?

 確か金属バットは雷対策で表面アルマイト仕上げだったはずだ、グリップには革テープが巻かれてるしグリップエンド余らせとけば大丈夫だろ。


 尊敬する天才バッターであるフクウラから学んだシンクロ打法で、元草野球チーム『れろんりー』の8番バッターの実力をお見せしよう。


 左足の踵で数回リズムを取ると一気にフルスイング!コサカモデルを振り込む。


 ――パン


 やや間抜けな音がしてアッサリ振り抜けた。


 あれ?ほぼ手応えとか無かったんだが?


 これはあれか、本当にボールを真っ芯で捉えた時は抵抗を感じないと言われるあれだな、ここに来て打撃開眼するとは流石『千葉のケングリフィー』フクウラの力は偉大だったか。


 コサカモデルで前方を探りビリビリがこないか確認するが、大丈夫だ悪は滅んだようだ。


 コサカモデルで探りながら少し進むと前方の林の先、少し開けた場所に一軒の家があった、この家の灯りが見えのだろろうか?

 振り向いて大岩のマーカー光を探すと、見え隠れしてるがコンパスは西を指している、ここに間違いないだろう。


 家の作りは木製の梁や柱、筋交いが外部に露出した土壁仕上げで、ドイツとかスイスとかの古い欧風建築だな、煙突出てるよ多分暖炉があるなオサレだな。

 

 知り合いの家では絶対ないし、地底人さん家でもなさそうだが、この異常事態について何かしらの情報を知ってるかもしれないチョット聞いてみよう。


 入り口まで来たがバットを持った怪しい男が訪ねて来たら自分でもビビるよな、それに灯りが点いてるから住人は起きてるんだと思うが夜もかなり深い時間だ、こんな時間に訪ねて良いものかな?


 取り敢えずコサカモデルをバッグに戻そうとしてると、バンと勢い良くドアが開くと、中から女性が出て来てこっち歩いてきた。


 やべー、超やべーよ、外人だよ超美人だよ、しかも何かスゲー怒って怒鳴ってるけど、何語かすら分かんないよ。


「g#ks&dg#r$%kjho&%$Pq!!!」


「ぐっ、ぐーてんもるげん?」


「lkvsf;ughae#pr%ifr$raofpgjdp%coif9ui&hrt%oibye!!」


 アカン、ドイツ語でコミュニケーションを試みたが失敗した、それにコレ、おはようだったかも?


 そもそも美人は苦手だし、キャバクラでさえ美人が付いたりしたら緊張で全く喋れなくなるのだ!

 自分の好みのタイプはブスで巨乳です!と誰に憚る事無く堂々と断言出来る、その上外人とか無理、超無理!


 しかしながら言語という障害があろうと、自分もボーリックという尊い犠牲を出しながら、苦労してここまで来たのだ!

 勇気と決意をもって尋ねなくてはならない事もある。


 誠意だ、誠の心をぶつければ言語の壁も乗り越えてコミュニケーション出来るに違いない。





「すいません――――写メ撮っていいですか?」

もう厳しいです。

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