人生の坂道発進はサイドブレーキが故障する
少し寝て出遅れてしまった
人間は決して自由な存在ではない。でも、人間の意欲の中には自由が存在する
アントニ・ガウディ
自分程度の人間では、淫力の強大な力に逆らえず常にネットワークの闇を転がり続けていまだ不自由です。
ガウディ先生、有料動画が観たいんです。
自室に戻って時計を確認するとまだ23時半だった、2時間も眠れてなかったとは驚きだ。
懐中電灯の灯りを頼りにS●hottのライダースジャケット、厚手デニムのジーンズという防御力重視の装備に着替え、腰にはホールディングナイフ装備する。
ドラ●エ指数に換算すると防御力8攻撃力3くらいかな?初期装備とは言え少し厳しいな。
腕時計は視認性を考慮してアナログのハミ●トン・カーキをチョイスし、リストコンパスをベルトに付けた。
腕時計は会社員時代の先輩、東城さんに感化されて多数収集している。
自分はこの東城さんに多大な影響を受けた、極道の息子で暴走族上がりのバンドマン、多趣味で福岡ホークスを愛する誰とでも直ぐに仲良くなり、誰とでも何処ででもトラブルを起こす熱血漢、しかし喧嘩は弱い。
『自動巻きのメカニカルな機構とか、バイクにも通じる機能美とか、男の子の大事な部分をくすぐられてたまらんだろう?フル勃起せざるをえんだろう?』と力説され、気が付いたらあっという間に洗脳されてたと思う……勃起は全くしなかったが。
スマホで情報収集しようとしたが圏外だった、通話が出来ないのは災害時なので想定内だったが、GPS信号が捕まえられない状況は、想像すらしてなかったし理解不能だ、電磁波的な障害か?取り敢えず内ポケットにしまう。
バイクでのチョイ乗り用に愛用してる、ワンショルダーのスリング式カメラバッグに菓子パン、クッキー、水入りの1ℓアルミボトルを突っ込み、編み上げの安全靴を履いて岩壁へと足早に向かう。
勿論、ニート初心者のライセンス雇用保険受給資格者証もコッソリバッグの底に忍ばせてある。
安定所にハロー出来る確率は低いだろうが。
さっき確認した門の正面は崖だ、素人がフリーハンドで降りれるようには見えなかった、壁沿いに右回りに進みながらルートを探そうと思う、難易度低そうなルートを見つけないと。
岩壁まで足早に進んで登り灯りの方位をコンパスで確認するとほぼ真東を指す、薄曇りで月の位置は大体しか分からないしGPSが使えないとなると辿り着けるか微妙だ、一応保険は掛けようと思うが上手くいく確率は70%くらいだろうか、後は出たとこ勝負だ。
時折外側を覗きながら進むが岩でゴツゴツした足元は左下がりで外側に向けて傾斜してる、注意し慎重に進もう滑落すればジエンドだ。
取り敢えず西側にある屋敷へ向かって延びる道路の所までは調べたが降りられそうな場所は無かった、岩壁は進む程に厚く高くなり内側は屋敷を中心に完全な円を描いている。
ここまで来るとこれは壁ではなく、巨大な岩の頂上をくり抜いた様な穴の内側の縁だと分かるな。
道路も山の傾斜ごと綺麗に切り取られて内壁に納まってるし、穴の中に周辺の土地ごと屋敷をスッポリ置いたように見えるな、その道路を右下に見下ろしながらさらに進むと、屋敷の車両用入り口の辺りまで上った所で膝丈ほど下がった、広さ約5mくらいの踊り場のように見える綺麗に整地された広場に出た。
踊り場の先は急激な角度で崖のように高くなってこれ以上は進めないが、その崖の外へ向け2mくらいの山道のような道が壁の裏側に向かって下って続いてる。
少し下ってみたが道は明らかに整地され人工の物に見えるし、昨日今日出来たようには思えないな相当年期がありそうだ、これでもう地殻変動説はナシだな。
この道から降りられそうだが一旦踊り場まで戻り、出発前にもう一度自分の目で屋敷を確認しとこう。
不可解な謎の現象は多々有るがこの屋敷があれば何とかなる、屋敷を目に焼き付け自分に気合を入れ、気持ちも新たにさあ出発しよう!と思った所で足元の路肩の傾斜面、元は山の一部だった所から棒状の物体が不自然に斜めに生えてのに気が付いた。
一体何が山から生えてるのだか気になるので、縁から飛び降り確認することにする。
慎重に近づくと斜面からはバットが生えてた、いや刺さってた。
グリップエンドの独特なトンカチ形状でロー●ングス・コサカモデル黒であると自分には一目で分る。
高校時代のバイト先、大衆食堂『れろんりー』でロッテファンであると誤解され、細かく選手名を知ってるのはゲームで愛用してただけで、野球が得意な訳では無いですと主張したが理解されず、ほぼ強制的に草野球チームに入れられた。
大将に迷惑を掛けぬよう、自主練で素振りや壁当てキャッチボールをする事に決め、考えた末に通販でグローブとセットで購入した思い出の一品である。
コサカ選手はその翌年巨人にトレード、しかしTVで応援出来るようになって良かったとプラス思考でTV観戦すれば、こんな変なバットなど使用せず普通のバットで打ってるのを目撃して衝撃を受けた思い出の一品である。
何処にあったのか、なんでこんな場所に刺さっていたのかは全く分からないが右手でバットを引き抜き軽く振ってみる。
「おっ軽いな、こんなもんだったか?」
片手で楽に振れる、確か800gくらいだったはずだ、攻撃力も上がるし最悪杖の代わりにもなるし持って行くか。
肩からバッグを降ろし三脚用のベルトにバットを固定する、このベルト初めて役に立ったな。
少しバランスが悪くなったのでウエストベルトを使うことにして、ウエストベルトを右脇を通してへその上でショルダーベルトに固定する、完璧だ!一眼は持ってないが、カメラバッグは多機能なので大好きだ。
そこからは楽勝だった、裏側で一度折り返しがあり再び北側に出てさらに下り、やや東側に出たくらいに屋敷がある頂上と同程度の広さの台地に到着、台地の正面に下に降りる道を見つけ西に向けて下るとあっさり地上についた。
さて、いよいよ森に入るぜ!
緊張している自覚はあったが、大丈夫だ荒事には多少の、いや控えめに言っても凄く自信がある、タイマンならば地底人といえどもそうそう後れを取るとは思えない。
地底人どんなスペックか知らんけどな、火を噴くとか目からビーム出すとかじゃなければイケる気がする、多分。
ちょっと地底人を想像してみよう、目が退化し見えないのは定番だろうアナグマ、アルマジロ、モグラ、ウサギなど穴暮らしの動物は総じて体躯も大きくない事を考えると精々1m程度かな?穴掘りに使うスコップやつるはしを装備してると少々厄介だが、苦戦するようならコサカモデルを実戦投入すれば良いだろう。
つまり目が小さなスコップを装備したウサギだ!
……あらやだ可愛いじゃないか、倒すなどもっての外だ全力で家に保護しよう。
良し!弱ったメンタルを妄想で強化した後は前進だ。
左手に装備した懐中電灯で周囲を油断なく見回し、咄嗟の事態に備え腰をやや落とし、右手はメインアームのコサカモデルに手を掛けながら一歩、また一歩と摺り足で音もなく土を踏み込み慎重に森を進む……
――しかし直ぐに引き返すはめになってしまった。
地上に降りた位置が大きく西向きにずれてるのを忘れてた。
次話がんばる