王立シャルレアン魔道学園-2
やっぱり間空いてしまいましたね・・・
翌朝、リアーヌが目が覚めるとマリナが朝食を用意していた。
「あ、おはようございます。お嬢様」
上半身をベットの上で起こしたリアーヌに挨拶してくれる
「ええ、おはよう。マリナ」
「本日は入学式ですね。緊張なさいますか?」
実家ではマリナとは着替え中の時間を潰すとき以外はあまり話をしなかったため、王都への旅の始めの方で馬車に乗っていた頃は無言が少し辛かったリアーヌだったが、魔道特急に乗る頃には打ち解けて、マリナの方からも雑談を振ってくれるようになっていた。
「そうね、でも私は座って話を聞いているだけだから大丈夫よ」
少しふざけた受け答えをしても、まぁお嬢様ったらと笑って受け流してくれる。
マリナは実家にいたメイドの中でもとても若い方で、リアーヌは少し年上の友達といるような感覚でマリナと話しているとリラックスできた。
「朝ご飯一緒に食べない?」
「いえ、私は使用人ですので、お嬢様とご一緒にお食事なんてとても…」
でもやはりマリナは一歩引いた対応をする。
使用人としては現在一時的とはいえ主人であるリアーヌへの応対として間違ってはいないのだが、前世が貧しい一般庶民だったリアーヌはこんな時少し寂しいのだった。
「ねぇ、マリナ」
「はい、なんでしょうか。お嬢様」
リアーヌは交渉してみることにした。
「私はあなたの暫定主人よね?」
「え、ええ、はい。その通りです。」
「あのね、一人でご飯を食べるのはね寂しいの」
「はぁ、そう申されましても…」
「だからね、マリナも朝だけでいいから一緒に食べない?」
「で、ですから、私は使用人で…」
「私は主人の寂しさを紛らすのも使用人のお仕事だと思うわ。ね、お願い」
リアーヌはここで必殺の上目遣いを使った。
始めこそマリナに確固たる意思があったため効かなかったこの必殺技だが、旅の途中で度々使用したところ、百発百中で成功している。
「わ、分かりました。ご一緒させていただきます」
今回も成功したようだ。
マリナは頬を染めて了承してくれた。
「ありがとう。さぁ、いただきましょう♪」
リアーヌは優しい女の子だが、時々その母親譲りの魔性を発揮するようになってきた。
「・・・えー、であるからして、わが学園は十五年前から魔道学園へとその名前と教育内容を・・・」
檀上で高級そうなスーツをきた中年の男が学園の歴史について話している。
リアーヌは前世ではみんなが聞き流す校長の話もきちんと聞いていたまじめな生徒であったが、今話している男の話はいかんせん長すぎた。
初めの内はきちんと背筋を伸ばして真面目に聞いていたのだが、さすがに同じような内容の話を一時間ほども聞かされればだれてくるというものだ。
周りを見渡してみても、皆疲れたような顔をしている。
周りに座っている中できちんと話を聞いているのは斜め前に座っている金髪の女生徒だけだった。
見れば来賓として呼ばれたであろうこれまた高級そうな服を着た人たちも疲れたような顔をした人がいたり、イライラいている人がいたりで檀上の男の話が終わるのを待っている。
そして、一番恐ろしいのは檀上で話している男は学園長ではなく教職員代表であるということである。
この後にもまだ学園長の話が控えているのだ。
「ということで、新入生の諸君へと送る言葉とさせていただく」
やっと男の演説が終わったが、起こった拍手はまばらであった。
ちなみに来賓たちは一人も拍手をしていなかった。
「次に我が学園の学園長、エリック・シャックスによる祝いの言葉です」
司会の女性の紹介で無精ひげを生やした中年に見える男が檀上に上がる。
リアーヌの父親であるラウル子爵も最近髭を伸ばしているが、子爵の伸ばし方はおしゃれで、元々野性的な顔つきも相まってワイルドなカッコよさに磨きがかかっていた。
しかし学園長エリックの髭はお世辞にも清潔感は感じられず、手入れが面倒だからほったらかしにしているという風だった。
「えー、諸君。私がこの学園の学園長であるエリック・シャックスだ」
リアーヌが学園長の風貌に心の中で感想を述べていると、学園長が話始める。
「新入生諸君らは皆、難関である我が校の入学試験の通過か、著名な学識人の推薦などによってここにいることだろう。」
見かけによらずシブい学園長の声は広い講堂によく響いた。
「そこに並々ならぬ努力があったか、または類まれなる才能があったかは今は置いておこう。ただこの学校は魔道学においての知識を諸君らに授け、諸君らをこの王国の役に立つ人材へと育て上げる施設だ。そこに貴賎の差や、家柄の差は関係ない。その点についてはよくよく承知しておいてくれたまえ。以上だ」
そういって彼が檀上から下がるとまたまばらな拍手が起こった。
しかし今回は短すぎる学園の長の演説に戸惑ってのことだったため、拍手は次第に大きくなっていった。
今度は来賓席の人たちも拍手している。
リアーヌも拍手したが、ななめ前に座っていた金髪の女はフンと鼻を鳴らしただけで、拍手をすることはなかった。
その後も式は粛々と続き、在校生代表の漫画でしか見たことがないような縦ロールの髪型をした女生徒の挨拶を済ませ(生徒会長らしい)、昼を少し過ぎるころには閉会となった。
入学式の翌日、リアーヌは昨日受け取ったばかりで袖を通すのは二度目の制服を着て、マリナに見送られながら寮を出た。
朝からにぎわう露店を冷やかしながら学園へ到着し、校門前でホームルームを確認して教室に入る。
なんだか久しぶりな感覚にリアーヌは少し胸が高鳴った。
教室の席は決まっておらず、リアーヌはとりあえず空いていた右端の真ん中の方の席に座った。
少しすると、リアーヌが入った時にはまばらだった教室が騒がしくなり始める。
リアーヌの周りの席も埋まっていき、空いている席を探すほうが難しくなってきた。
「あの、隣いいですか?」
リアーヌにも声が掛かる。
「ええ、もちろんですよ」
振り向くと栗色の髪を後ろで束ねたリアーヌよりも2、3歳は年上の女の子がいた。
「ありがとうございます」
女の子が隣に腰を下ろしたのを見届けてから、今度はリアーヌから声を掛けた。
「あなた、お名前はなんというの?」
「私ですか?」
「ええ」
「私はアンヌです」
「へえ、私はリアーヌよ。よろしくね」
「はい!」
生まれ変わって初めての友情の予感にリアーヌはうれしくなった。
「私、ずっと田舎の方にいて、都会のことまだよくわかっていないの。アンヌ、もしあなたが良ければ私とお友達になってくれないかしら?」
リアーヌはアンヌの方を遠慮がちに見ながら話を続ける。
すると、まだ幼さの残るリアーヌの座高はアンヌのものより低くなっているため、リアーヌの必殺の上目づかいが発動してしまった。
「え、ええ!それはもちろんです!リアーヌさん!」
アンヌは頬を薄い桃色にそめて少し上ずった声で了承してくれた。
リアーヌは唐突に様子の少し変わったアンヌを不思議な目で見ながら話を続ける。
「アンヌはどこの出身なの?それと“さん”はいらないわ。たぶん私のほうが年下なのだろうし」
「そうですか、ではリ、リアーヌとおよびしますね」
「え、ええ」
リアーヌはこの世界に生まれて12年経つとはいえ、その価値観は地球の日本の貧乏な高校生の時のものが少なからずの残っていた。
そのため明らかに自分より年上の、しかも上下関係のないクラスメイトであるはずのアンヌに敬語で話されることに猛烈な違和感があったが、自分の方が年下であるというアピールにも反応せず、敬語で話し続けるアンヌにこの国ではあまり年功序列は気にしないのかと思い直し、それを正すことはしなかった。
「私は王都生まれの王都育ちです。だから実家も学園の近くにあって、幼いときからここに入るのが夢だったんですよ」
「そうなのね」
「リアーヌはどうしてこの学園に?地方にも素敵な学校はたくさんできたはずですけど」
リアーヌは王都の学園以外に学校があることは初耳だったが、己の無知をわざわざさらす必要はないと思い直し、知っていた風を装うことにした。
「私の家庭教師をしてくださっていた先生がこの学園の卒業生なの。だから知り合いに私に推薦状を書いていただけるように掛け合ってくださったの」
「・・・・そうなんですか」
アンヌは王都生まれの王都育ちだ。それは嘘ではない。
しかし実家が特別に裕福というわけではなかった。
両親はずっとパン屋をやっているし自分も幼いころは大きくなったらパン屋になるとばかり思っていた。
そんなアンヌに転機が訪れたのは彼女が6歳くらいの時ことだった。
行商人をしている叔父が久々にアンヌの家に立ち寄った際に魔道機工の本をお土産にくれたのだ。
まだ魔力の仕組みが完全に分析できていなかったため、町にも魔道機工の使われた物はほとんどなく、その本に書かれた理論上可能であるとされる魔道機工によって組み立てられた物はアンヌにとっておとぎ話の中にあるものだった。
その本がボロボロになって表紙もつぎはぎが多くなってきたころ、家の近くにある学校が王国随一の魔道機工の研究所を有していることを知ったアンヌは両親に頼み込んでなけなしのお小遣いも全部つぎ込んで買った教科書で必死になって勉強し、何とか国から奨学金の出る特待生クラスの入学試験に15歳の春、合格できたのだ。
そしてリアーヌはよく理解していないが、リアーヌのいる教室は全員が特待生クラスの生徒であり、そうでなくとも学園の卒業生というのはそれだけでエリートコースまっしぐらのはずなのだ。
そんな卒業生の一員であり、また王国で学問において最も権威ある学園の中に特待生コースで入れるほどにコネを有している人を家庭教師で雇うなんて、もしかして目の前の人はやんごとない身分の人なのではないかとアンヌは勘違いしたのである。
ちなみにアリー先生は学園を卒業後王宮でお役所仕事をしていたが、融通の聞かない性格とその才能を疎まれ、同僚の陰謀でクビになり困っていたところ、丁度王都から地方の領主として派遣されるところだったラウル子爵に声をかけられて一緒について行ったのだ。
ラウル子爵のアリアーヌ地方の立て直しに協力し、そのあと生まれてきたリアーヌの家庭教師になったのである。
(どうかしたのかしら)
一瞬言葉に詰まったアンヌを不思議に思ったリアーヌだったが、教室に担任らしき女性教師が入ってきたため、いったん会話を打ち切りにするのだった。
次もなんとか一週間以内に次話投稿したいですね