生徒会室-2
時間を見つけて書いていたところ、パソコンがフリーズしてしまい、ただでさえ遅筆なのがさらに伸びてしまいました・・・。
校門から大分離れたため、普通の歩く速さに戻ったジュリエッタが先導する4人はリアーヌたちの教室がある校舎の隣の校舎へ向かっていた。
「生徒会室って、あの校舎にあったんですね・・・」
少し走った為にやっと息が整い始めてきたリアーヌが納得したようにつぶやく。
ちなみに他の3人は1人として息切れは起こさなかった。
「ええ、あの時は怒鳴っちゃってごめんなさいね。学園の機密資料も保管されている場所だから生徒会の役員か教師しか入っちゃいけない事になってるのよ。とは言っても所詮は一生徒でしかないから、私たちも生徒会室のある入り口付近しか近づけないんだけどね」
「リアーヌはその校舎に入ったことがあるんですか?」
アンヌが2人の会話の中で疑問に思ったことを尋ねる。
「ええ、実は先生に呼び出された時に迷子になっちゃって、迷い込んじゃったのよ」
4人が向かっている校舎はリアーヌが初めてジュリエッタに出会った階段がある校舎だった。
生徒会室から出た彼女が校舎の出口へ向かう階段を下っていた時に、たまたま階段を上っていたリアーヌとすれ違い、呼び止めたのだ。
「教室で別れてからそんなことがあったんですね・・・」
アンヌが己の知らぬところで起こった二人の出会いの詳細を聞いて関心したようにつぶやく。
「とは言っても、その後はまっすぐイザベル先生の研究室まで案内してもらって、ちょっと先生も交えて話した後に先輩は飛び出していっちゃったから、実は先輩との仲はアンヌとさほど変わらないんだけどね・・・っと、先輩、この校舎ですよね?」
リアーヌが昨日間違えて入った記憶のある校舎を指さした。
「ええ、そうよ。入りましょうか」
校舎の中に入ってすぐにある階段を上った右側の突き当りに生徒会室の名札が掛かった部屋はあった。
「あっちには行っちゃだめよ?最悪は退学になっちゃうから」
階段を上って左側の廊下を指さしてジュリエッタが言う。
「か、過去になった人がいたんですか?」
「ふふふ、どうかしらね」
おびえた声で尋ねるアンヌをからかうようにそう言って、ジュリエッタは生徒会室の扉を開けた。
「さて、キアラ。待たせて悪かったわね」
キアラはその声に驚いたように顔を上げると、涙を目に貯めてジュリエッタに詰め寄った。
「待たせすぎよ!!待ってても全然来ないから、怒って帰っちゃったんじゃないかと思ったわよ!」
「だから悪かったって言ってるじゃな・・・って、もしかしてキアラ、あなた泣いてるの?」
そういわれてキアラは自らの頬を伝う雫に気づいたようで、慌ててそれを袖で拭った。
「な、泣いてないわ!泣いてないったら!」
「わ、わかりましたから!制服で拭かないでください!」
キアラのおよそ淑女にそぐわない行動を見かねたアンヌが慌ててハンカチを差し出す。
「ふ、ふん!あんた、中庭の時にもいたわね!名前はなんていうの?」
「わ、私ですか?アンヌと申します」
「アンヌね!あんた中々気が利くじゃないの!覚えといてあげるわ!」
「あ、ありがとうございます」
「はいはい、とにかく座りましょう。遅れた理由も説明してあげるから」
ジュリエッタがパンパンと手をたたきながらそう言った。
「そうですね、立ちっぱなしもなんですし」
リアーヌも同調した為、4人はとりあえず生徒会室に備え付けてあるソファに腰掛けることにした。
「・・・まぁ、そんなところかしらね。納得してくれたかしら?」
自身が一年生に転入し直した経緯までを話し終えたジュリエッタが、マリナの入れた紅茶を飲み一息ついたところでキアラに尋ねた。
「・・・」
しかし、キアヌは答えない。
「キアヌ?」
「・・・んで・・・・してくれな・ったのよ・・・」
「え?なんて言ったの?」
よく聞きとれなかったジュリエッタはキアラの口元に耳を寄せる。
「なんで私に先に相談してくれなかったのって言ってるのよ!!」
「わ!?」
キアラに耳元で叫ばれたジュリエッタは慌てて耳を抑えて後ずさる。
「私たち入学してからずっと二人で頑張ってきたじゃない!生徒会だって二人だったからこれまで頑張ってこられたのに・・・!」
「お、落ち着いてください、キアラ先輩!」
尚もジュリエッタに詰め寄ろうとするキアラを慌ててリアーヌがなだめる。
そこで我に返ったキアラは涙を隠すように顔を背けた。
「ふ、ふんっ!私は落ち着いてるわよ!浮かれて親友に相談もせずに一年生なんかに転入しちゃう誰かさんとは違ってね!」
「それについては悪かったと思ってるわよ・・・でも前は急げって言うじゃない?」
耳の痛みから立ち直ったらしいジュリエッタがキアラに歩み寄ってゆく。
「何が善は急げよ!欲望に負けただけでしょう!」
「もう、頑固な子ね。私だってあなたのせいでお昼抜いたのよ?リアーヌとアンヌなんてとんだとばっちりじゃないの」
そういわれてキアラがうっ、と言葉に詰まる。
「そ、その、だってそれはジュリが二人を連れてくるなんて思わなかったから・・・」
それを聞いたマリナがテーブルの上を片していた手を止めてリアーヌの方を見た。
「お嬢様、まさかお昼をお食べにならなかったのですか?」
「え、ええ、そうなの。食べたかったのはやまやまだったのだけれど、食べる前にお昼休みが終わってしまって・・・ごめんなさいね、せっかくマリナが早起きして作ってくれたものなのに・・・」
「いえ、そのことにつきましては気にしておりませんが・・・」
「私が気にするわ!今からでも食べようかしら・・・」
「とりあえず、紅茶を入れ直しますね。ジュリエッタ様、もう少しお茶の葉とお水をいただいてもよろしいでしょうか」
「ええ、ここにあるものは大体キアラと私が実家から送ってもらったものだから、好きに使ってくれて構わないわ。ついでに私とアンヌの分も入れてもらえるかしら」
「かしこまりました。キアラ様の分はどういたしましょう」
「え!?わ、私もお願いするわ!」
「わかりました。お湯を沸かしなおしてきますのでしばしお待ちください」
マリナはそういうとティーセットを乗せたトレイを持って簡易キッチンの方へ引き返していった。
「アンヌの分も頼んでしまったけれど、よかったかしら?」
「・・・」
しかしアンヌは緊張した面持ちでずっとソファに座ったまま動かない。
「アンヌ?聞いているの?」
「え!ええ、はい、お構いなく・・・じゃなくって!えっと・・・ええ、はい、よかったです」
アンヌが動揺した様子でそう返す。
「そう。よかったわ」
ジュリエッタはそう優雅に微笑んだあと、ソファに戻り、アンヌの向かいに腰掛けたが、リアーヌはキアラとジュリエッタが大声で騒いでいる間にも、ずっとおとなしくソファに座っていたアンヌのことが気になり、彼女の隣に腰掛けた。
「ねえ、アンヌ」
リアーヌたちの側のソファが二人で埋まってしまっているため、仕方なくジュリエッタの隣に気まずそうに座ったキアラと涼しげな顔で座っているジュリエッタに聞こえないようにアンヌの耳元で呼びかけた。
「え、はい、なんでしょうかリアーヌ」
「さっきから元気が無いようだけど、大丈夫?」
「え!ええ、大丈夫ですよ。体に異常はありません」
「そう?」
「はい・・・ただ、少し気圧されてしまって・・・」
そこまで聞いて、やっとリアーヌはアンヌの様子がおかしかった理由に気が付いた。
アンヌから聞いた話では彼女は王都の出身だと聞いていた。
そして王都出身の貴族はリアーヌの記憶では王族しかいない。
すなわちアンヌが平民の出身であるという結論に達したのだ。
リアーヌ自身は12年間もの間、田舎とはいえ広大な領地を治める領主の娘として育ってきた為、貴族としての習慣や文化は身についている。
ジュリエッタとキアヌも、先ほどの生徒会室の備品は実家から取り寄せているという発言からそれなりの良家の娘か、または貴族の令嬢であろうことが想像できる。
生徒会室の調度も、派手さはないものの、一目見ただけでその一つ一つがこだわって造られた高級品であることが見て取れる。
そんな空間に一人突然放り込まれたら・・・もし自分が同じような状況になったとしたらば、それはさぞ居心地の悪いことだろう、と理解したリアーヌはアンヌにある提案をすることにした。
「ねえ、アンヌ、もしあなたが良ければなのだけどあなたのお昼ご飯と私のお昼ご飯、取り換えっこしない?」
「ええ!い、いえ、私のお弁当なんて実家で売れ残ったパンですよ!?とてもリアーヌが普段食べているものにはかないません!」
それを聞いてリアーヌは、アンヌの実家はパン屋かそれでなくとも食べ物を出す店をやっているのだろう、とあたりをつけた。
「私だってパンくらい食べるわよ・・・」
むしろ近頃は白米が恋しくなってきている。
「じゃあ、全部がダメなら半分ずつ交換しない?それならいいでしょう?」
「そ、それなら・・・でも、やっぱり・・・」
「決まりね!マリナ!」
リアーヌが呼ぶとお茶の準備をしていたマリナが奥から出てきた。
「はい、何か御用でしょうか」
「アンヌとお弁当を半分交換することになったのだけど、いいかしら?」
「ええ、構いませんが・・・この後の夕食はどういたしますか?」
「あ・・・もしかして、もう用意してくれてたの?」
「はい、一応買出しは済ませてありますが・・・」
リアーヌが窓の外を見るともうあたりには夜のとばりが下りていた。
「そうね・・・ちなみに今晩の献立は何の予定なのかしら?」
「王都でおいしそうなソーセージ屋さんを見つけまして、それを使って鍋物をつくろうかと」
「あら、おいしそうじゃない。そうねぇ・・・ねえ、アンヌ、あなた今晩の予定は空いているかしら」
「えっと・・・後は実家に帰って寝るだけですが」
「じゃあ、これからあなたのおうちに行って、もしご両親の許可をいただけたら、今夜は私の部屋で夕食を食べない?ベットももう一つ空いているし、あなたさえ良ければ泊まっていってもいいわよ?」
「ええ!?リアーヌの部屋ですか!?」
「え、ええ。何をそんなに驚いているの?」
「い、いえ、なんでもありませんが・・・いいのですか?出会って2日の人間をそんなに簡単に上げてしまって」
「別にもう友達なんだから気にしないわよ。それともアンヌは私の部屋で何かたくらみごとがあるのかしら?」
「ありませんよ!」
リアーヌがからかうような笑みをアンヌに向けてそう言うと、なぜかアンヌは真っ赤にしながら否定した。
「ありませんが・・・やはり、泊めていただくのは遠慮しておきます。まだ入学して二日目ですし、両親に不要な心配をかけてもいけないので・・・ごめんなさい、せっかく誘っていただいたのに」
「別に気にしてないわよ。でも、泊まるのがダメならやっぱりご飯だけでもだめかしら?」
「そうですね・・・分かりました。両親に許可を取ったあとに寮に伺います」
「私とマリナも一緒に行くわよ。夜道に女の子一人じゃ危ないでしょう?」
「女の子三人でも同じではないですか?」
「一人で帰るのとはだいぶ違うわよ」
と、ふとリアーヌが顔を上げるとジュリエッタと不意に目が合った。
「ジュリ先輩もそう思いませんか?」
「そうねぇ・・・ねえリアーヌ、ひとつ聞いてもいい?」
「え、はい、何でしょうか」
逆に自分が尋ねられるとは思わなかったリアーヌが不思議そうに聞き返す。
「今日アンヌがあなたの部屋に泊まらないということは、あなたの部屋は今日ベットが余るのよね?」
「え?ええ、そうなりますね」
「だったら、今日私を泊めてくれないかしら?」
それを聞いて一番反応したのはキアラだった。
彼女はマリナが淹れ直してくれた紅茶を飲んでいた為、激しくむせてしまう。
「キアラ先輩!?だ、大丈夫ですか?」
「こほっ、こほっ、はー、はー・・・、だ、大丈夫よ・・・って大丈夫じゃないわよ!リアーヌの部屋になんでジュリが泊まらなきゃいけないのよ!」
「なんでって、別に大した理由じゃないわよ。転入する前に一度退学の手続きをする必要があって、その時に間違って退寮の書類まで一緒に出しちゃったってだけで」
「わ、私の部屋でいいじゃない!後輩の部屋に上級生が上り込んじゃ可哀そうだしね!そうよ!それがいいわ!」
「なにバカなこと言ってるのよ・・・あなたの部屋はルームメイトがいるじゃないの。ベットだって二つしかないのだし、エマが可哀そうじゃないの」
会話の中に突然出てきた知らない名前をリアーヌは一瞬疑問に思ったが、会話の流れを鑑みて、それがキアラのルームメイトの名前であると理解した。
「そ、それはそうだけれど・・・」
「分かっていただけたようで幸いだわ。それで、リアーヌ、どうなのかしら」
ここでいう“どう”とはジュリエッタを泊めるかどうかに対する答えであろう、とリアーヌは判断した。
「もちろん、構いませんよ」
リアーヌがそう告げると、ジュリエッタは安心したように微笑み、そしてキアラはなぜか悔しそうに目元にうっすらと涙を浮かべた。
「助かったわ。もし断られていたら、使用人宿舎に泊まる羽目になっていたから」
「そうと決まれば、早めにここを出た方がいいですね。マリナも夕飯の準備がありますし、アンヌも一度実家に帰らないといけませんから」
「そうね。じゃあ、マリナの洗い物が終わったらここを出ましょう。キアラはどうするの?」
「・・・私も帰るわ」
ふてくされたようにキアラが返事をし、少しして、ティーカップをかたずけ終わったマリナが戻ってきたため、五人は生徒会室を後にした。




